第1話 witch and doll and human㊲
「さっ、着いたわよ」
そんな声とともに、車がゆっくりと停車する。急かされるように三人は車を降りると、目の前には大きな駅があって、その前を忙しなく人々が行き交っている。
そんな人々の中で、見知った一人が一行を見つけるなり、「おおい!」と手を挙げた。
「あれ? ジムさん?」
「えぇ。ここで待機してもらってたの」
リリィはそう言うなり、そそくさとジムの元へと向かってしまう。三人は一瞬顔を見合わせるも、そのまま無言でリリィの後を着いていく。
「遅かったな」
「えぇ。なんでもラッシュバレーがちょっかいをかけたようでして」
「ちょっかい?」
ジムはライアンとフィーの姿を見て合点がいったのか、「なるほどな」と呟いた。
「あいつは非番だったから、今日の騒動を知らないんだろうよ」
「それは私には分かりません。そんなことより、例のものは準備できてますか?」
「あぁ、もちろん。それに、人払いも済ませた。ここは町よりかは安心できる場所だよ」
リリィはその一言に安堵の息を吐き出すと、ライアンたちへと向き直る。
「私たちができることはここまでよ。せっかくこの町を救ってくれたのに、こんなことしかできなくてごめんなさいね」
「別に町を救ったりなんかしてないよ。それで、俺たちはこれからどうすればいいんだ? 駅に連れて来られても、金なんかないから汽車にも乗れないんだけど」
ライアンの一言に、ジムはふふふとどこか得意げに笑うと、胸ポケットから何かの紙を二枚取り出してみせた。
「それについては準備ができるから安心してくれ。それからこれ。ちょっとは足しになるだろうし、遠慮なく使ってくれ」
「これって汽車のチケットじゃねぇか。それにこっちは……結構な額じゃないか?」
ジムから手渡されたそれは、汽車のチケットが二枚と、エルの束が詰め込まれた小さなポーチだった。
「なんで俺たちのためにこんな……」
「自分にとって正しいことをしたまでさ。それから、エルについては俺とリリィからの感謝の気持ちだとでも思ってくれ。大した額じゃないから、大事に使えよ?」
ジムはどこか嬉しそうにそう言うと、ライアンの頭をワシワシと撫でた。
「なっ、だからそれやめろってば!」
「ハハハッ! カーライルくんたちには本当に世話になった。だから、どうか何も言わず受け取ってくれ」
ライアンはしばらくの間手渡されたそれらを見つめていたけれど、やがて「分かった」と独りごちるように言った。
「でも、警察が俺たちみたいな犯罪者? の手助けしてるんだし、怒られても知らねぇかんな」
「構うもんか。間違ったことなんて一つもしてないんだからな。それに、今更怒られることなんて、怖くもない」
「そっか……」
ライアンが笑うと、ジムもつられて笑う。
「達者でな、カーライルくん、イニちゃんも」
「証明書、助かったわ。ありがとうね、私たちなんかのために」
「当然のことをしたまでさ。あぁそうだ。その証明書はこの国の中でならどこでも有効なものだ。きっと君たちの役に立つと思う」
ポケットから取り出したのは、あの日警察署で渡された一枚の紙。少し折れてボロボロになってしまったが、これは大切に持っておくべきだと、ライアンは大事に折りたたんで、ポケットに戻した。
「ジムさんってやっぱり凄い人だったんだな」
「肩書きがだけな」
「そんなことないさ。ジムさんに会えてよかった。ありがと」
「それはこちらこそだよ」
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