第1話 witch and doll and human⑧
「奇跡復……何それ?」
「奇跡復権派。この派閥自体は昔からいる集団なんだが、最近特に力を付けてきているんだよ。何でも直近五年以内に起こった大型犯罪のほとんどはその派閥が関わっていると言われているほどさ。それに、何でも魔法……いや、彼らの言い方をすれば奇跡と言った方がいいか。それを使って犯罪を起こしてるって噂があるんだ」
「魔法を?」
「そう、魔法だ。実際遠い昔に魔法なんかないってことは証明されているから、そこを信じる信じないは個人の自由。だが、徒党を組んで、しかも犯罪を犯しているとくればウチとしても対処しなければならないってわけさ」
「ふーん。それがさっき話してた警察のメンツってやつ?」
「そういうこった」
ジムの口からあふれる煙を見ていると、そこには様々な感情が込められているような気がしてしまう。
「簡単に言えば、科学を絶対と考える警察機構としては魔法は認められない。ましてや、犯罪を犯している奴らがそれを信じて、しかも使っているとまで豪語してるとなれば、俺たちは取り締まるしかないってわけ」
「警察も大変だね」
「まあ、これが仕事だからしょうがないさ。あっ、そうだ君の質問に答えられてなかったな。どうしてイニちゃんを調べる必要があったかってことだけど、一つは魔法で動いてないかの確認……おっと笑わないでくれよ? これも仕事の内なんだから」
「そんなんで笑わないって。で、確認の結果は?」
「その点については疑う余地なし。改めてすごい技術力だと言うしかないよ」
「だってさ、イニ」
「そうでしょうとも! 私はそんじゃそこらの機械人形とは違うんだから!」
ライアンの言葉に、イニがどこか誇らしげな表情で、ふふんと胸を張る。
「二人は本当に仲がいいんだな」
「まあね。俺がイニを拾ったのが六年ぐらい前だから、それ以来の付き合いかな」
ライアンがイニを見ると、彼女は嬉しそうにねっと笑う。改めてすごい技術だと頷きながら、ジムは手元の紙に文字を書き連ねると、ライアンにそれを差し出す。
「とりあえずこれを渡しておこう」
「これは?」
「中を読んでもらえれば分かると思うが、証明書みたいなものさ。何か言われても、これさえ見せればイニちゃん関連で余計な面倒事は回避できるだろう」
「へーそれはありがたいね。そしたら、外でも今みたいにイニが動いたり話したりしても大丈夫ってこと?」
「簡単に言えばそうだな。でも、この町では極力イニちゃんの姿は隠した方がいいだろうね」
「ん? でも、これがあれば疑われることはないんだろ?」
ライアンの問いに、ジムは「そうなんだが……」と苦い表情を浮かべる。
「それがさっき言ったもう一つの理由に繋がってくるんだ。俺が君たちと最初に会った時、この町は昔から犯罪が多いって話をしたと思うけど、覚えてるかい?」
「あーそんな話もしてたような……? あんまり覚えてないけど」
「君は正直者だな。まあ、バタバタしていたしな、しょうがないさ。話を戻すが、このエリックという町は昔からあまり治安がよくはない。だが、最近はその治安が更に悪化しつつあるのが現状だ」
「あーそれで俺の財布も……あ――っ! そうだ俺の財布!!」
ライアンは思わず立ち上がると、勢いそのままに机を叩く。その衝撃で、イニの身体が少し宙に浮いた。
「腹いっぱいになってすっかり忘れてたけど、俺財布盗られたんだ! だから飯代払えねぇんだけどさ、俺どうしたらいい!?」
「あー……そっちか」
ぽかんと口を開いて顔を見合わせるジムとホップルウェルに、ライアンは首を捻る。
「そっちって?」
「いや、気がかりなのはそっちなんだと思ってな」
「ライはそう言うところがあるから……ごめんなさいね?」
イニが苦笑いを浮かべながら言うと、ライアンの首の角度はいよいよ地面と平行になってしまう。
「いや、それがカーライルくんのいいところなんだろうさ。お金については……そうだな、君に頼みたいことがある。それでチャラでどうだ?」
「いいの!?」
満面の笑みで言ってから、自分の発言を省みたらしく、ライアンはこほんと恥ずかしそうに咳払いを一つした。
「協力はもちろんするよ。でも、本当にそんなんでいいの?」
「あぁ。これはこの町の治安を守ることに繋がるからね。それじゃあ早速――」
「――ここなら誰の邪魔も入らんさ」
ジムが口を開いた瞬間、そんな声とともに勢いよく扉が開かれた。驚いて全員がそちらへ顔を向けると、恰幅のいい頭部の薄い男性が、部屋に入ってくるところだった。彼の後ろには、メガネをかけた女性が手を引かれるように立っていた。
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