第5話  真実

 気が楽になった和花は教室に戻る。

 すると突然――


「おい桃泉」


 呼び掛けられたと思ったら……

 いじめっこ集団が水いっぱいのバケツを持っていた。


 そして、和花に向かってバケツを投げた。

 避けられず、まともに水を受けた。


 あまりのショックに呆然とする和花。そして、すぐにいろいろな感覚と感情が浮かんでいく。


 冷たい。寒い。ビショビショで気持ち悪い。制服どうしよう。

 多くの思考がグルグルと和花の脳を駆け巡る。


 いじめっこ達は大笑い。

 他の生徒はそんないじめっこ達に引いた態度。だが、誰も和花には駆け寄らない。


 笑い声、刺した視線、目立ってる自分。何もかもが嫌になり、その場にへたりこむ和花。


「今まではぬるかったからさ、もう少し派手にやってみたんだよ。どうだー桃泉……」


 いじめっこの言葉が止まる。自分をじっと見てる。


 はっとする和花。

 ブレザーを着てなかったため、濡れて制服が透けている……


 必死に体を隠す和花。

 悲鳴すらあげられない自分が、とても情けなかった。


 すると突然、なにかにおおわれる感覚に襲われた。優しく、誰かが上着を和花の肩に被せてくれたのだ。


 視線をあげると、和花の目の前には青春の姿があった。


 彼が服をかけてくれたのだ。


「大丈夫、先生もすぐ来るから」


 にこりと微笑みかけてくれた。

 寒いはずなのに、和花は全身が熱くなるような感覚を覚えた。


(顔が……熱い)


「……君らさ、よってたかってみっともないよ」


 青春はいじめっこ達を睨む。

 奴らは睨み返し、


「んだとてめえ。ぶっ殺すぞ」

「だれの指示でこの子いじめてるの?」

「は? 指示なんてねえよ」

「ならなんで、この子いじめてたの?」

「……」


 なぜか奴らは言葉につまる。


「別に理由なんかなかったんでしょ? だって言われただけだから。そうだよね? そこでタイミング見計らってる茶谷」


 青春は教室の外にいる茶谷に呼び掛けた。

 奴は出てくる。いじめっこ連中以上の睨みを青春に向けて。


 和花は困惑してる。

 すると良子も教室に入ってきて和花に駆け寄ってきた。


「大丈夫和花!?」

「良子ちゃん……?」

「あの後、闇野っちに聞かされたんだ……彼の予想を。それは事実だったよ」

「どういう……」


「要するに、茶谷の指示だったんだよ」


 青春は衝撃の真実を述べた。


「そもそもさ、いじめ止めれる立場なら、さっさと止めてやるべきでしょ? それなのにたまに手助けするフリして追い返すだけ。変じゃない?」


 確かに、茶谷がその場に来ると喧嘩にもならず、奴らは去っていった。


「そして、いじめから守ってやるから恋人になれという要求……これで合点がいくよね?」


 和花は、はっとする。

 青春は告発。


「こいつは桃泉さんがいじめに耐えかねて、自分と付き合うように仕向けさせたかった。……つまり、いじめはこいつの指示だったんだよ」

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