第6話  ありがとう

 全て茶谷の自作自演。


 茶谷は元々、和花のかわいらしい容姿を気に入っており、恋人にしたがっていた。

 だがしかし、和花は茶谷が苦手だったため、アプローチしてもうまくいかなかった。


 イライラがつのった茶谷は友人達に頼み、和花をいじめさせた。

 そして自分が助けることで、好感度を高める作戦だったわけだ。


 それでも思うようにいかなかったため、いじめを続けさせた。

 そして自分なら守れるから付き合えと、度々要求してたわけだ。


 業を煮やした茶谷はいじめの過激度をあげた。故に水をかけられたのだ。

 いじめが激しくなれば、要求を飲むと思い……


 だが、それがあだとなった。仲間にその指示をする現場を青春が見たのだ。


 元々怪しんでた青春は、茶谷を見張っていた。そして友人の良子を連れ、今日から様子を伺い始めていたのだ。

 まさか初日に尻尾をだすとは思ってなかったが。


 良子を連れた理由は、茶谷がいそうな所を教えてもらうためだった。


「この野郎!」


 茶谷は逆ギレして、青春につかみかかる。


「てめえのせいで計画はおじゃんだくそったれ!」

「ざまあ」


 茶谷は青春を突き飛ばした。

 青春は倒れるも、すぐに立ち上がる。


「これで君は完全に嫌われたね。もう恋人にはなれない」

「てめえ……」

「僕が気にくわないでしょ? いいよ、その憎しみ僕にぶつけなよ。それで桃泉さんのいじめは終わりだ。もうする意味ないでしょ?」


 茶谷の友人、いじめっこ連中を見ると、罰が悪そうな顔をしていた。


 青春と茶谷は一触即発な空気。

 だが、その均衡はすぐ破れる。


「茶谷~!! 聞かせてもらったぞ!!」


 バカでかい叫び声。

 話題になってたマッチョな担任教師だ。

 この男も、青春はすでに呼んでいたのだ。


 今の話を聞いた上に、ビショビショな和花の姿を見れば言い逃れは出来ない。


「おおー桃泉~かわいそうに~。茶谷とお前ら! 生活指導室に来い!!」

「えっ!? お、おれらは茶谷に言われて……」

「うるさい来い!!」


 言い訳したいじめっこ連中と茶谷は、首根っこ捕まれて連行された。


「くっくっそー!! 覚えてろ闇野!」

「黙ってろ!」


 担任に連れてかれた事で問題児連中がいなくなると、クラスメイト達が和花に寄ってくる。


「大丈夫桃泉さん!」「ジャージ貸そうか!?」「ごめんね今まで!」「誰かタオル!」


 みんなが心配して動いてくれた。

 そんな優しさが少し照れくさかった。


 一方、そんな様子を見た青春は一人満足そうにして、席に戻っていった。


(闇野くん……)


 和花は生徒達の心配の声が聞こえないほど集中して、青春を見つめつづけてた。



 ♢



 その後、貸してもらったジャージを着て、事なきを得た和花は、休み時間に青春を体育館裏に呼んだ。

 ここなら人もいなそうだからだ。

 ちなみに良子からは、「頑張れ!」とガッツポーズ送られた。


 心臓の音がうるさいほどに、ドキドキする和花。

 顔をあげ、青春の美しい容姿を見る。……つい、見惚れるほどの美形。


「どうしたの桃泉さん。多分これからは奴らに何もされないと思うよ? 担任に目をつけられたし、それに奴らの怒りは僕に向いたからね」

「え!? それだと闇野くんが奴らに……」

「僕なら大丈夫だよ」


 自分の代わりになるかもしれないのに……

 それなのに庇い助けてくれた。

 そんな青春を優しいと思うと、同時に愛しく感じる和花。

 胸がキューッと締め付けられるような感覚。

 顔が熱い。青春を見てるだけで心が安らぐ。


 和花はやっと自覚する。


(あたしは闇野くんが好き……誰よりも)


 でもまだ告白する勇気はなかった彼女は一言、満面の笑みで告げる。


「闇野くん、ありがとう!」

「……その笑顔見れたなら、助けた甲斐あったよ」


 青春は優しく微笑んでくれた。


 和花は決心する。


(いつか、自信が持てたときに告白する。そしてあたしはこれから闇野くんの味方になる。あたしも好きな人には笑っていてほしいから……)



 ――完。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る