第4話  きっかけ

「いじめ問題を煙たがって、放置する先生もいるみたいだけど、多分僕らの担任は助けてくれると思うよ」

「……あの担任教師苦手」


 二人の担任はマッチョな体育教師。熱血指導とかいいながら授業が厳しいと有名。

 とはいえ体育は男女で別れてるし、和花は担任の授業を受けることはないのだが。


 でも担任ゆえに、HRなどなどで関わるのは避けられない。

 声はでかいし、少し乱暴な面も目立つため、和花はどうしても苦手なのだ。


 青春は言う。


「僕にはなんか冷たいけど、あの人女の子には優しいみたいだし、この件では味方につけられると思うよ」


 生徒を差別するなんて教師の風上にもおけない。だが、和花の味方についてくれるのなら、悪くはないのかもしれない。


「それとなく、いじめの噂でも耳に入れさせてから、現場を発見させるよ。うまくいけば事は収まるかも」

「そんなにうまくいくかな……」

「さあね。でも君がチクったなんて言いがかりも起きないだろうし、それに……」

「それに?」

「話しに出た茶谷……だっけ? なんかきな臭いんだよね」


 青春は守ってやると言っている茶谷を不信に思っているようだ。


「助けてやるからこっちの言い分聞けって感じでさ、人の弱みにつけこんでるわけだよね?」


 少し、嫌みに感じる言い方だが、その通りだ。


 和花は頷く。


「うん、一応付き合ってない今でも、助けには来てくれるけど……」

「そこ、なんだよね」

「え?」

「自分の彼女になればいじめられないって言ってるんでしょ? でも、今も助けには来てるのにいじめはなくなってないよね?」


 茶谷の言い分だと、自分の彼女になれば、奴らはびびって何もしてこないという話。

 でも、今も旦那だのとからかわれている。でも何も変わらない。


「それに、茶谷って追い払うだけなんでしょ?」

「う、うん……」

「もしかして……」


 青春の頭に一つの可能性が浮かんだ。それが事実なら……



 ♢



 相談を終え、青春は担任の元に行くというので、しばし別れ和花は一人に。

 するとそこへ……


「よっす」


 友人の良子が現れた。

 彼女はちょこんと隣に座り、


「闇野っちとなに話してたの~? すみに置けないじゃんか~」

「いや、あの、その……」


 和花は顔を真っ赤にする。

 そんな友人を見てケラケラ笑う良子。


「やっぱ好きなんだな~なら茶谷が嫌なのもわかるよ」

「……好き……」


 


 落ち込んだ様子にも見える和花を不信に思い、聞く。


「なに、どうしたの」

「あたし、相談にのってもらう前から気になってた。それってやっぱり顔なのかな?」

「さあ? 雰囲気とかもあるかもだけど、ろくにしゃべってない以上、そうなんじゃん?」

「……男子苦手なのに、見た目がいいから好きに? それってどうなんだろ……」


 どことなく自分を恥じてる様子。


「今はいい人ってわかってるからこそ、何も知らない時点で好きだったなんて、失礼なんじゃないかって。……闇野くんの内面なんてどうでもよくて、外見しか見てない、あたしはそんな人間なんじゃないかって」


 うじうじと悩みだす和花に良子は、


「うるせえ!」


 一喝。

 ……和花はビクッとして瞳孔開いて良子を見る。


「なに? 慰めてもらえると思った? 大丈夫だよって優しく抱きしめるとか期待した? 甘えんな」


 良子の冷めた発言にビビる和花。


「いい? 好きなんてのはね、理屈じゃないの。人の趣味嗜好によっても違うんだよ」

「……」

「外見だろうが内面だろうが、好きになったならそれでいい! きっかけなんてなんでもいいの!」

「なん……でも?」

「そう。外見が好きで、内面も素晴らしいとわかったなら、さらに好きになれるだけの話じゃん」


 理屈じゃない。なんでもいい。

 ……その言葉に救われた気がした和花だった。




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