雨と憂鬱
かにかま
See you in my dream
5月とは思えない夜の寒さを感じさせた昨日。今日また風に髪を撫でられながら足を運ぶ。
たまに夢か現実か分からなくなる時がある。言葉が出ず、眠る前のふわっとした感覚。あの時僕は何者なのだろう。
小雨が降る2人だけの川沿い。君の目には何が映っているのか。
君の虹彩は紙に滲んだ墨みたいでどうにも目が離せない。見惚れる僕の口は動かなかったが、ついに空欄に文字が描かれる。
君の表情は読めない。
綴る文字は声に変わる。
「急だけどさ、人は寝ている時が本来の姿なんだって。そのために起きて、ご飯を食べて、運動して、遊んで。そう生きているの。
だって赤ちゃんも最初はお腹の中で眠っているし、死ぬ時はみんな眠るように亡くなるじゃない。殺される時は別だけどね。
つまり、人ってのは最初も最後も目を瞑っている。だから疲れたなら元の姿に戻ればいい。目を瞑る、それだけ。」
何を伝えようとしていたのか。地面に雨が跳ねる。
そう言うと雨が強くなってきて君の前髪が目にかかる。更に黒くなった髪は僕の心を写して花を枯らす。君は言葉に出来ない悲しさを纏って俯いていた。
「確かにそうだな。」とでも言えば良いのだろうか。でも今僕の過ごす日々が薄まっていく気がしたから心の穴に捨てておいた。
君がなぜ泣いていたのかはわからない。辛かったのか、それとも何か思い出していたのか。でも、君の涙が瞼から足を滑らす様子は何か映画のクライマックスを見ているかのように目を離すことができなくて、鮮明で、驚くように綺麗だった。綺麗だと思ってしまった。
僕は君の網膜に入り込む。雨。雨。
今夜もまた、寂しいなら目を閉じればいい。
そうすれば君に会える。
それだけでいい。
雨と憂鬱 かにかま @iooon
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