第12話
昼休みになると、クラスメイトたちは思い思いに昼食をとりはじめる。
この学校、昼休みが長い上に選択肢が多い。弁当を教室で食べる、学食で食べる、購買で買う、外で食べる、部室にこもる、家庭科室を使って勝手に調理をはじめる、などなどやりたい放題だ。
教室もたいてい散り散りになり、好き放題机を合体させたり離したり。無法地帯と化す。ぼっちにとっては地獄の時間となる。
千晴はというと、田中山口と学食に行くか、教室で固まるのが常だった。
しかし今日はそういうわけにはいかない。授業中にひかりからメールで『そういえばお昼はどうしよう? 私、ぼっちでご飯食べるのかな……?』と先手を打たれている。
いずれにせよ一人で放置するのは危険だ。いきなりTierAということで注目を浴びてしまっている。
千晴は適当に理由をつけて田中の誘いを断ると、教室を出た。
昼の時間だけ、昇降口付近の廊下でパンの販売が始まる。
千晴がやってきたときにはすでに多数の生徒が群がっていた。それなりに盛況している。
「はいはい早いものがちだよ!」
「謎に争奪戦を煽るおばちゃん」
「焼きそばパンあと3つで売り切れだよ!」
「人気アピールしてくるがただの焼きそばパン」
大声を張り上げるおばちゃんをよそに、千晴は難なく焼きそばパンを購入する。
「はいよ、おつり五十万円!」
「駄菓子屋のジジイか」
「なに? ボソボソいってないでハキハキしゃべんなよ!」
「あ、すいませんちょっと発作が……」
「ん~? じゃあ、あんぱん一個サービス! 『あんぱんっ』ってこれで元気出しなよ!」
「ネタが古い」
礼を言って離れる。
パンを購入した生徒たちのいくらかは、そのまま中庭になだれこむようだ。中庭にはパラソルのついたテラス席が並んでいる。
外で食べるにしても選択肢は数多くあるが、最もハードルが高い場所だろう。席はほぼほぼ陽キャ集団で埋め尽くされている。わいわいがやがやとやかましい。
「テーマパークのフードコートか」
横目にツッコみながら、千晴は自動販売機で飲み物を購入した。
この学校、謎に金があるのか無駄に敷地が広い。設備も整っている。
中庭以外にも、どうぞお二人でと言わんばかりに二人がけのベンチがあちこちに並んでいる。カップルを奨励しているせいかイチャイチャポイントが数多くある。独り身にとっては肩身が狭い。
ひかりからは『誰にも見つからず静かでそれでいてテンション上がる場所はない?』と無茶ぶりをされている。
千晴は授業中に頭を悩ませていたが、なんとか当たりをつけて提案した。
渡り廊下を渡って別校舎へ。階段を登っていく。
三階、四階……まで来たところで、階段脇のスペースから女子生徒がぬっと姿を現した。
「ひっ……」
「遅いぞっ」
ひかりだった。かわいく登場したつもりかもしれないが急に出てきて怖い。気配遮断スキル持ちか。
そのまま屋上に続く階段を上がっていく。扉を開けて、外へ。
この学校は普通に屋上に出られるようになっている。
第一校舎の屋上はリア充。第二校舎の屋上はぼっち用。とすみ分けがされているらしい。もちろんこちらは第二校舎。
屋上は広々とした長方形だ。
まばらに距離を取りながら、ぽつぽつと生徒の影が見られる。どれもが一人飯だ。手元のスマホなり携帯ゲーム機なりに視線を落としたまま、千晴たちが現れても目もくれない。
ひかりが呆然と屋上を見渡しながらいう。
「こ、ここが……全て遠き理想郷……」
「違います居場所のないボッチが集まる屋上です」
「自由に屋上に出ていいなんて……。私、この学校に好きかも。いろいろゆるゆるのガバガバで。転校してよかった」
「そう? 褒めてるのかけなしてるのか微妙だけど」
「だって前の学校、屋上なんて出ようものならみんなの前に引きずり出されて晒し上げられるもの。窓から屋上を眺めるだけで怪しまれるから」
「え、監獄ですか?」
もはや学校ではない別の何かかもしれない。
空いているスペースを探して歩く。
ここの利用者は我関せずを徹底している。それが自衛にもなる。ここならひかりといても問題はないだろう。
ハンモックチェアで優雅に日光浴していたりと、我が道を行くものばかりだ。小型のテントを張っているものもいる。
「まさかの屋上ソロキャン」
軽くツッコんで流そうとして二度見する。
いくらゆるいと言ってもさすがにやりすぎではないだろうか。
隅っこの一角にひかりとともに腰を落ち着ける。
どういう想定かしらないがひかりはレジャーシートを持参していた。
さらにバッグからお弁当箱を取り出して広げだす。
「ハルくんそれだけ? 足りる?」
「まあ、あんぱんもあるんで」
「はい、あーん」
箸につまんだからあげを差し出してくる。行動が早い。
目線で反応すると、ひかりはにっこり笑った。
「あーん」
「いや、大丈夫です」
「あーん」
強制イベントが始まった。NPC村人と話している気分だ。
あきらめてからあげを口にする。
「もぐもぐ、もぐもぐ、ごっくん。はいハルくん、よく食べれまちたねーえらいでちゅねー」
ふたたび「大丈夫か?」という視線を送るが、ひかりは笑みを絶やさない。さらに差し出してくる。
「はい、あーん」
「いやきついきつい。ループはきついって」
「なんで? ママのガイド音声つきでしょ」
「さも当然のように言うけどそれは何?」
「この程度で恥ずかしがってたらつらいよ? この先」
「この先って何? 何が待ってる?」
さらに過激な羞恥プレイをするつもりなのか。
警戒していると、ひかりはゆっくりと箸を持つ手をおろした。その顔からは笑みが消えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます