11.緒戦
次の勝負では清華が勝った。勝ち取ったのは台車が一台と三袋。勝ちはしたが多少は冷や冷やした。自分の手札は自由に出来るが、雅の手に関しては通常と同じように操れず、どんな役を持っているか読まなければいけない。
何であるにせよ、自分の台車を二台以上にまで持って来れた。これで次の勝負も出来る。一安心だ。ポーカーフェイスの裏に、そんな感情があるのを観客達は読み取った。だがそれも演技だ。
相手の手札に関しては運ではあるが、それでもイカサマをしているだけ余裕があった。
次の勝負。レイズで賭け金は十四袋まで上げられた。雅は迷った。更に上げるべきか否か。だが今の手持は二十四袋。レイズをした上で負けてしまった場合、自分の手持は台車一台を割ってしまう。次が続かない。果たしてこの手札は事実上のオールインをするほどのものだろうか。
清華は表情を一切変えないながらも、顔色はやや青褪めていた。雅がこの勝負から降りることを祈っていた。最悪でも更なるレイズだけはして欲しくない、と内心願っているように、観客達にはそのように見えた。
結局、雅はその額で勝負した。結果は清華の勝ちだった。
額を上げなくて良かった、と雅の口から軽い息が漏れた。
その一方で、清華は心の奥底で舌打ちをしていた。青褪めて見えていたのは当然、演技だ。雅がレイズをするように誘っていた。
(だが、まあ、いい。これで雅の手持は一台。次で終わる)
次局。最低額のみのレイズのない勝負。読み合いも何もない手札だけの勝負。この最後の勝負で清華は当たり前のこととしてイカサマをした。
これで終わりだからと言って手を抜くことなど決してしない。むしろ相手を終わらせる最後の一打。慎重に、そして堂々として、自分の手札にフォーカードを作った。
それぞれのチェンジが済むとその後は速やかだった。レイズはない。雅の側は降りようが負けようが全てのチョコレートを失うことに変わりはない。だから勝負をするしかない。清華もまた、
「もちろん、降りない」
執行委員はそれを聞き届け、
「ショーダウンです」
清華はにやりとした。読み合いがないのならばポーカーフェイスを続ける意味がない。いや、ショーダウンだ。ここではもう必要がない。そしてこれが最後なのだから、次のための布石を打つ必要もない。彼女は鮮やかにカードを広げた。
「フォーカード、ね」
四枚の8が並べられていた。
対して雅は、
「危なかった」
彼女もまたフォーカードだった。ただしこちらは9のフォーカード。清華は息を吞んだ。
「何でよ!」
思わず声が漏れた。
「私の勝ち」
静かに言った。
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