5.狩猟
この交換会では様々な種類のギャンブルが行われているが、やはり人それぞれによって得意不得意はある。
とは言うものの、博打を生活の一部にしているわけではない女子高生らにとって自分がどれに向いているかを知るのは難しいことだ。交換会初参加の一年生であれば尚更だ。
既に二つ程度の種目で勝負し、大勝はしていないが胃が痛くなるような負けもしていない、まあまあの結果になっていた。
三つ目のゲームを少しやり、微々たる成果を得ると怖くなってそこからも離れた。
それからまた周囲の卓を見回して、どうしようかと、ひそひそと囁き合っていた。三人はこの殺気に溢れた会場で心細くなっていた。
鳩首する彼女らを見止めた女生徒がいる。三年、華道部部長の
「あなた達、楽しんでる?」
三人は知らない上級生に急に話し掛けられて
「はい!」
と元気に返事をした。
「それは良かったわ」
にっこりと微笑んだ。この優しそうな様子に三人の緊張感は
「これからどれで遊ぶのか決めているの?」
「いえ。どこに行こうか相談していて。色々あるので迷ってしまうんです」
「そう。面白そうだと思ったら積極的に参加してみるといいわ。年に一度しかない、せっかくのイベントなんだからね」
それだけ言って立ち去ろうとした。
三人はこの会場でようやく出逢えた頼れそうな先輩がいなくなってしまうのに不安を覚えて、
「あの、先輩は」
と、引き留めた。清華は振り返り、続きの言葉を待った。
「先輩はこれからどうするんですか?」
「私はそうね。ポーカーかしら」
三人は視線を交わし合い、それから、
「もしご迷惑でなければ、私達もご一緒させていただいて良いですか?」
清華はちょっとだけ目を大きくし、それから細めて、
「もちろん。いいわよ」
「ありがとうございます!」
はしゃぎながら礼を言った。そうして彼女達はポーカーの卓へと向かい、席に座った。清華は置かれたトランプを手に取ってシャッフルしながら辺りを見回し、審判役になりそうな執行委員を探した。そんな慣れた様子の彼女に寧々は、
「先輩は、さっきまでは何をやっていたんですか?」
「さっきまでもポーカー。今日はずっとポーカーね」
「お好きなんですね」
それを聞いて、ふふっと笑い、
「好きというより、これに絞って練習して来たからね。今日のために。昨日まで。やっぱり勝とうと思ったら、種目を選んで得意なものを作っておいた方がいいから」
三人は感心して息を吐き、
「勝負は始まる前から始まっているんですね」
「ふふふ。そうね。あなた達も得意と言えるものを作っておいた方が勝ちやすいわよ」
「はい!」
揃って返事をし、それから、
「先輩は今日はこれからもポーカーなんですか?」
「そう出来たらいいのだけれど、余り絞り過ぎても相手がいなくなるからね。ある程度は相手にも合わせるわ。それでも種目はトランプを使うものに限るつもり」
「なるほど。それで、トランプを使うものでも特にポーカー」
「ええ、そうね」
と、手の空いている執行委員が通り掛かり、清華は手を挙げて彼女を呼びつつ、
「ポーカーと一口に言っても色々と種類があるのよ。たとえばテキサスホールデムやセブンカードスタッド。
日本で一番馴染み深いのがファイブカードドローね。配られた五枚のカードを隠しておいて最後に見せ合うもの。あなた達がポーカーと聞いて連想しているのもおそらくこれ。そして私がポーカーの中でも一番練習したのもこれ。
出来ればこれだけやりたいのだけれど、絞り過ぎるとやっぱり相手が、ね。他のポーカーでも構わないわ。ああ、だけど、インディアンポーカーだけは駄目」
「どうしてですか?」
「見た目が間抜けだから」
肩を
「ふふ。まあ、いいわ。それじゃあ、今回のあなた達との勝負はせっかくの機会だからテキサスホールデムにしましょうか。ファイブカードじゃ私が練習しすぎているものね」
「ありがとうございます。でも、ルールが……」
清華は微笑み、執行委員に説明を頼んだ。三人は真面目に聞いておおよその理解をした。それから清華が、
「でも、実際にやってみないと分からないわよね。最初に練習で何も賭けずにやってみましょうか」
三人は彼女の気遣いに感動した。練習試合をしてみた結果は、やはり清華の勝ちだった。
「先輩は流石にお強いですね」
「ふふ。ありがとう。だけど本番では分からないわよ。ものを賭ければ心理も変わるし、運というものもあるのだから」
「はい!」
「それじゃあ、次から本番ね。楽しい勝負が出来ることを期待しているわ。頑張ってね」
「頑張ります!」
そして本番が始まった。
清華は容赦なく全力を出した。取れる手段は全て取り、やれることはやり切った。それはつまり、最前に
だが初心者の三人はルールを確認するのに思考の一部を割いていて、そんなところに意識を向ける余裕もなく、そして信頼した先輩がそんなことをするとは些かたりとも疑わず、発覚することは決してなかった。
十五分にも満たない間に、清華は三人のチョコレートを一つも残らず奪い切った。
◆◆◆◆◆◆◆◆
三人ががっかりとして卓を離れ、清華が一人でチョコレートをバッグに詰め込んでいるところを遠くから眺めている人物がいた。三年、帰宅部、
彼女は清華とは異なりこれと言って種目は定めず、次はどこに参加をしようかと、ふらふらしていた。そんな最中に彼女の姿を目に留めた。
雅は清華をじっと見詰めて、
(清華さんはやっぱり勝っているようね。そうでなくっちゃ)
清華は次の対戦相手を探すためにバッグを持って立ち上がった。雅は彼女に声を掛けようか暫し迷った。が、止めた。
(まだまだ。勝負を決めるにはチョコレートが少なすぎるわ。もっと集めてからでなければ)
視線を外して自分の向かうべき卓を探した。あちらこちらを見回しながらも、いずれ来る清華との対決に期待して、雅の胸は弾んでいた。
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