第2話 ぼびぃ登場



「え、長谷川君もう大学進学決定したの!?」


友人の匠がでかい声でそう言うとそれを耳にしたクラスメイトは一斉に俺の元へ寄ってきた。

「長谷川くん大学いくの〜!?」

「どこのどこの?」 

「東大?慶応?早稲田?」

「アメリカかもよ!」

聖徳太子でも捌くのが難しいだろう人数相手に、俺は一人ずつ丁寧に受け答えをし、称賛を受けながら昼休みを過ごす。

  

帰りのホームルームが終わるとすぐさま部活の練習が始まる。俺が所属するバスケ部はそれなりの強豪で俺はそのエースだった。

「長谷川先輩からぜんぜんボールとれねぇ!」

「ボール取れねぇからリバウンド狙えリバウンド!!」

「でもゴール外すこと滅多にないっすよね」

ミニゲームでは100対15で圧勝。点数の9割は俺が決めたものだ。


部活の後片付けも積極的に行い、後輩へのフォローも忘れずマネージャー兼彼女を家に送り届けるまでが俺の1日。


男女関係なく好かれ、後輩先輩の垣根をこえて尊敬される。教師からの評価もよく高校1年生の時の内申点は最高点。誰もが羨む完璧な高校生活を送っている。だか、最近の俺はなんだかおかしい。通学時間の短縮のため、近くのアパートで一人暮らしをしているのだがここ数日、友人や後輩と別れ、アパートにつく頃にはなぜか得体もしれない虚しさというものがこみ上げてくる。今さらホームシックか?いや、そんなものじゃない、もっと別の何かが………


105号室 、これが俺の部屋だ。部屋を開けたとたんに俺は床に倒れるようにして寝転んだ。しばらくそうしてるとスマホの通知音がなったためLINEを開いた。友人から明日の数学の小テスト攻略について、音楽好きのクラスメイトから今日のMステの感想について、先輩から来週のカラオケの予定について。


人生はまるでシュミレーションゲームみたいだ。相手の好む選択肢を選んでそれに応じて好感度が変わる。今日もまた、彼らの好感度を下げることのないよう努力をする。それが完璧たる所以なのだから。


頭をあげ、まずは数学の復習から取り組もうとした時、使い古した座布団の上に奇妙なぬいぐるみが置いてあるのが見えた。俺にそんな趣味はないし、一人暮らしの俺に部屋に入ってくる人間はいない。おそらく大家が要らなくなったものを押し売りしてきたか母親が勝手に入りよくわからん土産としておいたかの二択だろう。

ぬいぐるみはよく見ると丸い頭をしてタコかと思ったがおしりに猫のしっぽらしきものがついている。手足がまんまるで短く少し愛嬌を感じる顔だ。


「でも目はなんかたぬきっぽいしなんだコレ?ぶさかわと言うものなのか?」 


「ぶさかわってなんだっべ?かわだけでいいだっべ」


ん?ん?んんん??????


なんだ幻聴か?最近つかれが溜まっているんだろうか。そういえば押し入れに去年誕生日でもらった入浴剤があったな、それ使うか。


「無視してんじゃねぇべ、聞こえてんだべ」


幻聴じゃない喋ったのだ、今手元にあるぬいぐるみが。口らしき部分を動かしたぬきみたいな目をパチパチさせてるのが何よりの証拠だ。こういった場合どういう対象法がベストか。

俺はぬいぐるみを片手に持ったままキッチンへ行きガスコンロをつけた。


「とりあえず燃えるだろぬいぐるみだし」



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