第4話 目指せ歌手!ダメなら美容師?

祖母の家に引っ越す前までの俺はというと、ファッションにはかなり興味があった。

雑誌と言えば阿部寛さんがメインモデルの「メンズノンノ」が俺のバイブルだ。

当時、爽やかに着こなす阿部ちゃんは俺の中のカリスマ的存在。

海がここまで似合う人は他にはいないと思うくらい「白い」歯と、「青い」空のイメージが強かった。

しかしお金が無かった俺は、阿部ちゃんが着ている服を雑誌に載っていたブランドでは高過ぎて買えない為、安い洋服屋さんで似たデようなザインのものを見付けては買っていた。

それっぽく見せる為の、俺なりの精一杯の努力だ。

でも不思議なのは、当時安い洋服屋さんで買った服は一度洗うと必ずと言っていいほど縮む事だ。長袖を買ったつもりが、次、着る時には必ず七分丈になっていたりする。その為、一度目の洗濯はかなりの恐怖心があった。

背が大きい俺からすると、買った時の雰囲気が洗う度に変わるので着こなしが大変になる。カッコよく着こなすはずが、丈が短くなるせいで可愛い感じになってしまう。

まるっきり求めていない結果だったが、捨てる事は出来ない為、どんどんと縮んでいく服に合った着こなしを毎回考えていた。

今思えば、安い服は「それなり」だという事。

今ではちゃんと縮まない服を買えているので、多少本物を見極める目が養えたのかもしれない。


そして、祖母の家への引っ越しと高校卒業が近付くにつれ、俺の高校卒業後の明確な将来のビジョンがだんだんと固まってきた。

一番にはもちろん「歌手」になる事。

でもどうやって?・・・何したら「歌手」になれるの?

デモテープをレコード会社に送るとか、雑誌に載ってあるオーディションを受けるとか?そんな方法しか当時はなかったような気がする。

だからデモテープを送っては連絡を待つ事にしていた。

※歌手になりたいと、歌が上手いのは違うんだよ、と今なら分かるのだが、当時は歌手になりたいだけで夢が叶うような気がしていた。


こう言っちゃなんだが、美容師には友達がなるから「俺も歌手がダメなら美容師にでもなるかな?」くらい適当に決めた職業だった。

完璧に美容師を甘く見ていた。甘ちゃん過ぎた・・・。

当時の自分に会ったら伝えたい。かなり肉体的にきついぞ、と・・・。


そもそも、美容学校に行く理由として一番大きかったのは、「学費と学校に通う期間が短い」という事だった。自分が調べた色んな専門学校の中で、1年間だけ通えば卒業出来て(現在は2年制)自分でも頑張ってアルバイトをすれば払える授業料の金額だった、というのがその想いを決定的にさせた。だからそこまで「美容師」への想いもない。

あくまでも「歌手」になれなかった場合の「滑り止め」くらいの気持ちだったから仕方がない。

実は生まれてから高校卒業まで、一度も「美容室」や、「床屋さん」で髪の毛をカットしてもらった経験が無かった。俺が生まれる前に、母親は美容師をしていた事もあり、いつもカットしてもらっていたからだ。

という事で、俺は生粋の「お客様素人」。だからお客様の気持ちも分からない。

その結果、変な美容師が生まれてきてしまった事にもなる。


まあ、そんな事から美容学校を卒業すれば切れるようになれると思っていた位、その世界の事を丸っきり知らなかったから勿論、下積みなんてあるなんて思ってもみなかったのだ。世間を知らないって本当に恐ろしい事だと思う。


とりあえず未来への段取りはこんな感じだった。

〇美容学校に行く為にお金を貯める。

〇バイトしながら月謝を払う

〇学校に通いながら歌手へのオーディションを受ける

〇最後のオーディションでダメであれば諦めて美容師になる

※でも、本当に歌手になるつもりだったので、美容師になるイメージはゼロに等しかった。


こんな感じに、家を出る前に立てたプランは固まっていった。

そしていよいよ、家を飛び出す準備が整い始めた。

そこからは後ろは向かず、前進あるのみ。


オーディションを受けるために組んだ最後の望みのバンドは、まさかの実の兄と組んだバンドだった。兄は本当にギターが上手かった。そしてキーボードでの打ち込みも得意だった。兄弟仲はあまり良くなかったが、ギターの実力は本当に凄かった。

時代はTMNが全盛期になる少し前に、俺達は打ち込みのバンドへと向かっていった。勿論俺は、ボーカルとダンス。目指すはオーディション突破だ。


__最終的に歌手デビュー・・・というシナリオが出来上がった。


そして卒業前の1月に、祖母の家へと引っ越す準備を始めるのであった。

いよいよ、タカヒロ飛び出しカウントダウンが始まる。







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