第2話 高校入学

中学の暗黒時代を乗り超えた俺は杉並区の都立高校に入学する。

高校入学前、父親から「ちょっと話があるんだけど三人とも聞いてくれ。」と言われ三人揃って父の前に座る。

___いわゆる家庭内事情。


「実は、お父さんの仕事があまりうまくいってない。私立は難しいけど、なんとか都立なら三人とも行かせられるとは思うが・・・。」

まあ、男三人も中学卒業まで見てくれただけでも有難い。特にモノを欲しがる三人でもなかったが、食べる量は凄かった。特に俺の食べる量は夜だけでご飯3合。とにかく大食いだった。父の大変な中での率直な現状報告は僕らにとっては有難かった。自分達でもこの先の事を考える指針にはなったからだ。


ただ、神妙な面持ちで話す父とは対照的に、三人の返事と言えば、「フーン」位の反応だった。そうなった事は仕方がない。だからこれからはどうする?みたいな三人だったから不安とかも特には無かった。

家の事情に対して何の感情も三人とも持っていなかったように思う。

皆、口を揃えて「中学出たら働いても良いけど」と言っていたから、それ位働く事に対しても抵抗感を持っていなかった。

寧ろ、俺に関しては働きたい、しかなかった。

そして、三人とも無事に約束通り都立高校に入学する。


____


当時入学した高校は、都立高校でも珍しい学校生活スタイルで、制服でも私服でもいいというかなり緩い学校。だからクラスを見渡せば制服と私服が半々だった。

今考えてもかなり不思議な光景だったが、そのどちらでもいいという校風が人気を集めていたのも事実だった。

偏差値も真ん中よりは上みたいな学校で、都立高でもギリギリ進学校の仲間入りをしていた。その為、勉強も遊びも全力でしたい!という人達で溢れていた。

私はもちろん・・・勉強だ・・・。そう、間違いなく勉強だ・・・。


ただ、服をあまり持っていない俺からすれば、制服は絶対的「神」のような”存在”だった。何と言っても、制服の凄い所は、毎日同じ制服を着ていても他人に不快感を感じさせない所だ。__そう、あまり汚いと思われない。(これは俺だけの感情か?)

まさしく「制服マジック」だ!

私服で二日間同じ服だと、陰で何を言われるか分からない。

特に女の子にしてみれば、二日間同じ服を着ていれば間違いなく、

「あいつ、絶対に彼の家とかに泊ってるぜ!」

「やだ!〇〇さんお泊りかしら?進んでるー!」

と、コソコソ話がクラスに蔓延し、至る所から細い目線を浴びる結果になる。

※あくまでも昭和の話です。



部活に関しては中学校でバスケ部に頑張り過ぎた分、高校に入ったら絶対にバスケットはしない!と決めた俺だった。

アルバイトをかなりして、お金を貯めて家を出るという企画も同時進行していた。

もうバスケットには縛られたくなかったし、もっと楽しい青春時代を過ごしたかったからだ。イメージ的には、かなり煌びやかな生活だけが頭に浮かんでいた。

中学時代にはあまり経験の無かった・・・女子との恋などもそこには含まれている。


ところが、いざ入学してみると高校のバスケ部の先輩の中に、中学の頃の先輩がいた。背の大きかった俺はその先輩から声が掛かる。なるべく目立たないように行動していたつもりだが、大きいからすぐにバレてしまう。


「タカヒロ元気?、あのさ、部活もう決まった?もし決まってなければバスケ部入ってよ。頼む!」


「すいません、もうバスケやる気ないんです。疲れるし、大きくなりたくないし。帰宅部志望です。中学で燃え尽きました。」


「分かった、でもさ、とりあえず見に来るだけいいから来てよ。見学だけ!本当に見学だけでいいから!それからでも遅くないでしょ!」


「分かりました。見学だけですよ。入りませんよ、絶対に!」


昔から約束だけは守る俺。

仕方ない・・・、という事で放課後に体育館までバスケ部を見学しに行く事に。


体育館に近付くにつれ、聞こえてくるバスケットシューズが床を擦る「キュッキュ」という音と「バーンバーン」というボールをドリブルする音が、中学の頃のバスケット部を思い出し、懐かしさを感じさせてくれた。

でも実際に練習を見るとそんな懐かしさは吹き飛んだ。


(いやいや、中学以上にハードじゃないか・・・無理無理。しかも先輩の体でかいし、高校生、皆老けてるし。この中では絶対にやれないよ。)と、やる気「0」。


「タカヒロ、バスケやらないのは分かっているけど、ノルマで部員だけ集めないといけないから名前だけ書いてくれない?本当に名前だけでいいから。休んでいいから。頼む。」


「そうやって嘘つくんじゃないですか?本当に名前だけですか?俺、バイトもしないといけないし。本当に名前だけですよ!やりませんよ!バスケット!嘘ついたりとか絶対に無しですよ!」


「大丈夫、名前だけだから・・・。俺、嘘ついた事ないし。」


「・・・。」


他人って簡単に嘘をつく生き物だと、この時改めて知った。

初日だけ顔を出すはずだったが、顔を出したら最後。

結局無理やり他の先輩の圧力も加わり入部する事に。


練習もかなりきつく、授業の前の朝練、お昼ご飯を早弁してからの食べ物が胃に残ったままの昼連、授業後の通常練習。最悪だった・・・。


でも、青春時代をバスケだけで終わらせるのは本当に嫌だった。

それだけは高校入学時に考えていた事だ。

そう、煌びやかな青春もきちんとしないと、何の為に共学に入学したか分からない。

頭の中は常にキラキラしていた。


ついでに諸々と必要なお金も出てきた為、家庭の事情を考え、お金の事は極力自分でどうにかしようと思った。そこで学校近くにある、当時ではまあまあ大きい電気屋さんで働く事に。

何故電気屋さんか?というと、とにかく”電気製品が好きだったから”しかない。ステレオなんて見ているだけでワクワクした。


入学早々、部活してからの直ぐにアルバイトへ行く、という形がこれで出来上がったのだ。それ以来、働いていない時はない位、仕事をしている。

働くって楽しい・・・これが当時の自分の考えだった。


ただ、もう一つだけやりたい事があった。

高校に入学したら絶対にやりたい事が・・・。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る