137.カザド料理
「ほい、当店自慢の根菜のシチューとコケーットリスの溶岩焼きだ。地底魚のパイは今焼いてるところだからちょっと待ってくれよ」
カウンター席に座った2人の前に、ドンドンと料理が並べられる。
イエナの前に置かれた根菜のシチューはホワイトシチュー。地下で育った根菜がゴロゴロと入っており、ミルクとキノコの香りがたまらない。付け合わせのちょっと平べったいパンととても良く合いそうだ。
カナタの方にはジュウジュウと音を立てるコケーットリスステーキ。鉄板の代わりに溶岩を使って焼いているので、溶岩焼きだそうな。パリパリに焼けた皮にハーブソースがたっぷりかかっている。
「美味しそう~!」
「ホントに! 半分こな」
「モチロン!」
流紋亭の女将作の観光案内を吟味した上で訪れた食堂は、イエナの「その土地の美味しい食べ物を食べたい」という期待にバッチリ応えてくれた。何せあまりにもメニューが豊富で注文をするときにも物凄く迷ったのだ。ドワーフの国ならではの根菜やキノコ、地底魚という耳慣れない魚、コケーットリスは野生種をどうにか養殖したと聞く。その他にも食材からして魅力的なものがとても多い。
より多くの種類を食べたいということでシェアすることにした。せっせと取り皿にシチューをよそう。
「しかし、酒は飲まんのか? 合うぞ~?」
カウンター向こうの店主は酒をガブガブ飲みながらそんなことを言い出した。
「いえ、飲まなくてもすっごく美味しいです!」
「飲んだらもっと美味しいのかな。そう言われると興味出てきちゃうけど……」
「人間のコッコでも飲めるだろうに。うすーく作ってやろうか?」
「ん~~~~。残念ですけどやめときます。潰れて迷惑かけるのはアレなんで」
それに、酒がなくても十分美味しい。イエナが堪能しているシチューには野菜だけじゃなくお肉もごろっと入っていた。何の肉かはわからないけれど、キノコの風味ととても良く合う。
「はぁ~美味しい~」
「こっちもメチャクチャ美味しいぞ」
食べ盛りのカナタは既にペロリと半分平らげていたらしい。残り半分をイエナの方に寄越してくれた。一緒に過ごしていてわかったのだが、カナタは結構食べるスピードが速い。イエナがゆっくり堪能しているだけかもしれないが。
「カナタ、お腹に余裕あるならもう一品追加してもいいよ?」
「えっマジ? う、うーん。ちょっとメニュー見させて」
「残しても持って帰れそうなやつならマグマ蓮の包み焼き系かねぇ」
2人のやり取りを聞いていた店主が、横から料理の説明をしてくれた。
マグマ蓮というのは、マグマの上に咲く植物とのことだ。熱は通すけれど、燃えたりはしないのだとか。それで包み焼をするととてもジューシーかつ香り高く焼きあがるらしい。しかも、葉が皿の役割をしてくれるので持ち帰りにピッタリだとお勧めされた。洗って再利用もできるマグマ蓮はドワーフの国ではよく使われているそうだ。
「美味しそう! それなら後のお楽しみにもできるわね」
「だなー。イエナはこっちとこっち、どっちが好み?」
コケーットリス焼きを楽しみつつ、カナタが見せてくれたメニューを覗き込む。
そんな2人の様子を見ていた店主が愉快そうな顔で尋ねてきた。
「アンタらはあれかい? 新婚旅行ってやつかい?」
「えぇっ!? 違いますよー」
カナタは一瞬だけ動揺を見せたが、すぐに冷静に否定した。イエナはといえば、コケーットリスを喉につかえさせないように必死だったりする。
店主はそれ以上突っ込む気はなかったようで、そのまま流してくれた。
「なんだい、ちげぇのか。んじゃただの観光か?」
「観光もありますが、この国でしか手に入らない鉱石が欲しくて来たんですよ」
「ドワーフの技術は世界一ですもんね!」
コケーットリスの肉を無事飲み込むことに成功したイエナは元気よく続ける。
あわよくば、ドワーフの技術も生で見てみたい、と密かに思っていた。弟子入りは無理だとしても、見るだけならワンチャン!
イエナの勢いが面白かったのか、店主だけでなく、周りのドワーフたちが機嫌よく話しかけてきた。
「そりゃあ目が高いなぁ。何が欲しいんだ~?」
「カザド名産つったらやっぱアダマンタイトだろ」
「そりゃあ名産だが、加工技術も必須じゃねぇか」
陽気な酔っ払いたちは口々に好き勝手言い出す。
(わぁ~。伝説の素材アダマンタイトも、ドワーフの技術があれば加工できちゃうのね! 製作手帳に書いてあるんだから、レベルが上がったらいつかは私もできちゃうかも!?)
「んじゃ答え合わせと行こうか。何が欲しくてはるばる来たんだい? 大体のモンなら人間の国でも流通してねえってことはないだろう」
「実は死光石という石が欲しくて来たんです。あちらでは全然手に入らなくって……」
店主の面白がっているような問いかけに、カナタは生真面目に答えた。
カナタが最終武器と定めたのは「デスサイズ」という即死効果付きの鎌だ。とは言っても、ほとんどのジョブでは即死効果自体は1%程度のオマケのようなもの。しかしながら、豪運スキルを持ったギャンブラーだと話が変わる。カナタは運を上げるアクセサリーやダイスも持っているため、即死確率は75%を超える計算になるらしい。更に、イチコロリと違ってほぼ全ての敵に効果があり、即死効果は攻撃する度に発生する。
(5回くらい攻撃を当てればほぼ即死効果が発動するってカナタ言ってたものね。しかも物理攻撃力も中々高いわけだし)
ただ、その分デメリットもある。装備の耐久度の減り具合が半端ない、らしい。
その点はイエナがいれば恐らくカバーできるだろう、というのが現時点の見解だ。実際に作って、使用してみないとわからないけれど、製作手帳に載っている武器なのだから恐らくは大丈夫だろう。
「あーーーあれか。アンタたち運がいいなぁ」
「んだんだ。いいタイミングじゃねぇか」
「ホントにいいときに来たなぁ」
カナタが死光石という言葉を口にした途端、周りのドワーフたちがわざわざ集まってきてカナタの背中を叩き始めた。背こそ低いが皆ガッシリしている。バシバシという音がちょっと痛そうだ。
酔っぱらっているドワーフたちの話を総合すると、死光石は確かにカザドの特産品らしい。ただし、近年ちょっとしたトラブルがあって採掘が難しかったようだ。
「迂回路がもうすぐ開通するから、そしたらまた出回るさ」
「なんなら俺が売ってやるからよ、がっはっは」
「なんだぁ? 新婚祝いにくれてやるくらい言えねぇのかおめーは」
「あはは、新婚ではないですけどね」
「酔っ払いどもは人の話なんざ聞きゃしねぇからなぁ。ほい、地底魚のパイ、おまちどう」
苦笑いをしながら否定するカナタの前に、店主がドンと皿を置く。芳ばしく焼けたパイとハーブの香りが鼻腔をくすぐった。
美味しそうな見た目と匂いの前に、店主が新しい酒瓶を開けたところは見なかったことにする。彼もまた酔っ払いなのではというツッコミは、してはいけないのだ。
「うわぁ、すごい」
「魚の形のパイなんですね、美味しそう~!」
いつの間にかシチューも食べきっていたカナタがいそいそとパイを切り分ける。中から白身魚とクリーミーなソースが溢れだしたのが見えた。とっても美味しそうだが、イエナのお腹はそろそろ八分目を超えてきている。付け合わせのジャガイモはカナタに任せると伝えると、ニッコニコの笑顔が返ってきた。
「それにしても、なんでまた迂回路が必要になったんですか?」
「死光石がとれる山に行く道の途中にバカでかい魔物が現れてなぁ……」
「最初は退治しようとしたんだが、妙に固いわ熱いわ」
「ただ、近寄らなければ大人しくってなぁ。放置して道を掘ろうってなったわけよ」
「俺らドワーフにとっちゃ戦闘よか道掘るのが楽なんだわ」
そんな店主を含めたドワーフたちの会話に、イエナとカナタは思わず顔を見合わせたのだった。
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