134.ドワーフの国入り口

 時折現れる岩系の魔物を、イエナの重力魔法で足止めしながら一行はドワーフの国カザドを目指す。

 現在イエナの重力魔法の命中率は8割ほど。残り2割は敵の数が多くて狙いを定められなかったり、単純に相手の魔物の動きが素早くて当てられなかったりなど。それでも、少しずつコツがわかってきた、気がする。


「イエナの重力魔法ムチャクチャ便利だな!」


 カナタが感心した声を上げる。


「まだ百発百中じゃないけどね」


「いやいや、まだ練習し始めて数日だろ? それにしてはかなり凄いと思う。何より、今までスルーしてた空からこっち見てる魔物も倒せるのがイイ! アレ気になってたんだよ」


 カナタは今まで、空飛ぶ魔物も気にしてはいたらしい。だが、いくらイチコロリがあるとはいえ、遠くから窺っているだけの魔物までわざわざ倒すのは効率が悪いとスルーしていたとか。勿論、近づいてきたら撃ち落としてはいたが。


「地面に落としてしまえばすぐ当てられるものね。あとは木の実を落とせるようになればなぁ……」


 ドワーフ国方面は火山地帯。とはいえ、草木が一本も生えていないわけではない。まばらではあるが果実がなる木もいくつか見かけていた。今の季節はほぼ冬にあたるが、この地方は火山の熱で暖かい。そのため、今も木の実の収穫時期なのだ。

 あの木の実が美味しいかどうかはわからないが、癒やしのモフモフたちのためにも木の実を落としたい! そう思ってチャレンジしたのだが、結果は惨敗だった。


「落とすだけならできてるんだよなぁ」


「そうなの! 重くして落とすことはできるのよ。そのあとどうキャッチすればいいのやら……」


 木の実落としは照準合わせの訓練になると思い、休憩時間中にちょこちょこやっている。木から実を落とすことはできるのだが、実が重くなりすぎるのか地面にめり込んでしまうのだ。それも何故か砕けたりせず、キレイな形のままスコーーーンと。ちょっと割れた程度なら気にしなさそうなもっふぃーが、地面にめり込んだまま取り出すことができず、悲しげに鳴いたのは記憶に新しい。


「木から実が離れた時点で魔法を使うのをやめればいいってことかな。いや、そもそも重力魔法の効果時間ってどのくらいなんだろう、めり込むほどだから相当の時間続いてるって考えてもいいのかも」


「うーーー……まだまだ修行が必要です」


 魔物の足止めはできるようにはなったが、使いこなすというにはまだ少し時間がかかりそうだ。それでも、戦闘面で少し役に立てるようになったのは、イエナとしても喜ばしいことである。


「修行しすぎないように気をつけて。魔力切れにはくれぐれも注意してくれよ」


「うっ確かに。楽しくなってきてるから気をつける」


「んじゃ行こうか」


 休憩を終えて、またモフモフたちに騎乗し走り出す。暫く進むと、巨大な洞窟が見え始めた。


「お、見えたな。次のノヴァータ街には、あそこから入っていくんだ」


「うわぁ~、大きい洞窟。すっご……あれは掘ってるわけじゃないのよね?」


 イエナにとってのドワーフは、おとぎ話の影響もあってあちこちを掘っているイメージがある。小さな背丈に大きなツルハシを持ってあちこちをコンコンしている感じだ。それとは別に、鍛冶職人というイメージもあるのだが、あの大きな洞窟を見ると思わず掘ったのか、と思ってしまった。


「自然にできたやつを、ドワーフの技術で補強してるらしい、とは聞いたことあるよ。流石に詳しくはわからないけど。あぁでも、街に入るまではドワーフたちが掘ったトンネルを使うことも結構あるとか」


「そうなると人目があるかもだから、もっふぃーたちはお留守番かな?」


「あんまりちょくちょくルームを出し入れするのも目立ちそうだし、その方がいいな。まぁノヴァータでは買い物する予定だけだから、そこまで長期間の滞在にはならないと思うよ」


 そんな話をしながら、一度モフモフたちをルームに返す。ここまで連れてきてくれた感謝の念も込めてブラッシングも食事も忘れない。

 そうして改めて、徒歩であの巨大な洞窟へと向かっていく。


「結構歩きにくいかも……もっふぃーいつもありがとう」


「火山灰の場所とゴツゴツの岩の場所とがなんかランダムに来るのが結構足に来る気がする……ゲン、すごいな」


 改めてモフモフたちの有り難みを噛みしめる2人。やはりモフモフは最高である。


「空飛ぶ布は一応完成したけど、乗れなかったしなぁ……。ううう、きつい」


「いやでも俺たちもちゃんと歩かないと、いざってとき大変だしな。……でも、乗れるようになったら乗りたい気はする。こういう場所は特に」


 万が一空飛ぶ布が人が乗れる形になったとして、モフモフたちよりも更に目立つこと請け合いである。恐らく実用化はしないだろうけれど。

 そんなちょっとした夢の話を語りながらも足を動かせば、目的地にはきちんと近づけるわけで。


「もう少しだな。イエナ、ちゃんとインベントリに冒険者カードいれてるよな?」


「モチロンよ! まぁカナタが事前に調べてくれてなければルームに置きっぱなしだったでしょうけど」


 人間の国からドワーフの国に行くための入り口はここ1つだけ。ということで、入国審査がここで行われているらしい。稀に審査に時間がかかる場合もあるため、洞窟の入り口には野営ができそうな広場も設置されている。


「あそこで野営の可能性もあったけど、空いてそうだな」


「待ってる人の姿はないから、少なくとも待ち時間はなさそうよ」


 そんな話をしながら近づいていくと、洞窟の中から小さな人が出てきた。人、いや、アレがドワーフという種族なのだろう。絵本で見た姿そのものだ。


(わぁ~~、初めて他種族の人に会えたわ! 本当に小さいんだ! でも腕の太さとかスゴい。あれなら思い切りツルハシ振るったり、ハンマー振るったりできそう)


 イエナがちょっと感激しているのをよそに、小さな出入り口から出てきたドワーフ族の男は2人に気さくに声をかけてきた。


「やぁやぁ人族さん、珍しいねぇこんなとこへ。観光かい? 儂はここを任されてる一人でダンっちゅーもんなんだがね。あぁそうだそうだ。人族さんだとなんだったかな。手続きっちゅーもんをやらねばならんはずなんだが……なんだったか」


「あ、えーと。俺たちは冒険者ギルドに所属してます。で、その証明がこれなんですけれど……」


 インベントリから冒険者カードを出すカナタに倣って、イエナも取り出す。すると、それを見たダンはポンと手を打った。


「そうだそうだ。そのなんたらカードっちゅーもんをメモせねばならんのだったか……どうだったか……。すまんが少し借りていいかね。儂がメモしとる間はその辺でくつろいどっておくれ」


 ホッホッホと笑いながらダンはイエナたちの冒険者カードを受け取り、奥へと消えていった。


「……大丈夫なのかな、あれ」


「た、たぶん? にしても、その辺って……どこだ?」


「ま、まぁ私たち以外に待ってる人もいないから、きっとすぐに手続きは……」


 済むだろう。イエナはそう続けたかったのだが、それはカナタの大きな声と、グイッと引っ張られる衝撃で途切れた。


「あぶない!!」


――――――ドゴォン!!


 同時に、大きな衝撃音が通り過ぎる。一拍遅れて、小さな石や埃が辺りを舞った。ピシピシッとあちこちに当たってちょっと痛みを感じる。

 何が起きたか、イエナには理解が及ばなかった。

 ただ、わかるのは、イエナたちが立っていた場所の至近距離に抉られたような大穴が開いていること。

 疑問を口にする前に、カナタの大きな声が再び響いた。


「何のつもりだ!? 誰だアンタ!!」


 カナタが向き直った方向には、2人とさして変わらない身長の、メチャクチャゴツイ男が立っていたのだった。

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