133.重力魔法の実践
一行の旅は順調に続く。ワタタ街を出て南西へ。
魔法大戦の影響で荒れていた大地を抜けると、遠くに茶褐色の山並みが煙を上げているのが見える。その火山地帯の地底にある王国。そこが次に一行が向かう、ドワーフが治める国カザドの入り口の街ノヴァータだ。
「最終装備の材料って、多分最初の街で手に入るのよね」
「何もトラブルがなければそのはず」
「それ、カナタがよく言うフラグってやつじゃ……」
ゴツゴツとした岩が増えてきたところで、一度休憩を挟みながらそんな会話をする。遠くに見える火山の影響か、少しずつ気温が上がっているような気がしてきた。モフモフたちがバテては大変、ということでかねてより用意しておいたヒエヒエマモリを付けてあげる。
「めぇ~~~~~!」
「メェッ! メェッ!」
いつものんびりなもっふぃーが目に見えて元気になった。溌溂としている感じがするので、やはりちょっと暑かったのだろう。ゲンも心なしか軽やかだ。
「おお、なんか元気出てる」
「やっぱり涼しい方が走りやすいのね。もっと早く付けてあげれば良かった、ごめんね~!」
ヒエヒエマモリはイキマモリを改造した、アタタマモリの逆バージョンである。火の魔石の代わりに氷の魔石を使うのだが。
「カナタ、インベントリに氷の魔石何個か入れておいて。アタタマモリよりも魔石の消費スピードがはやいみたいだから」
「へぇそうなんだ。やっぱり周りが暑い中冷やす方がより大変なんだろうか。まぁ、在庫はたくさんあるからドワーフの国に行くには十分だろ」
「うん、大丈夫。ゲンちゃんが熱中症になったら可哀そうだから、魔石切れには注意してね」
「了解」
メリウール族のモフモフたちは、その自前の素晴らしいモフモフが故に暑さに弱い。先に銀世界へ向かったのは、モフモフたちの装備を調えるためだった。期待通りカナタが張り切って雪の精たちを倒してくれたお陰で、現在氷の魔石の在庫は潤沢だ。むしろちょっと保管場所に困るくらいである。イエナのレベルがあと少し上がるとルームを拡張できるようなので、そのときは専用の倉庫を作りたいところだ。
そのあたりはまぁさて置いて。これから行くドワーフの国は、火山の影響もあってかなり気温が高いらしい。
「そういえば、魔物の感じも変わってきたわね」
「うん。今後なんだけど、万が一岩系の魔物が出現したら、その時は回避で。今の俺たちとムチャクチャ相性が悪いから」
「あー……確かに。岩っぽい魔物って毒が効かなさそうだもんね」
「そういうこと」
今の一行のメイン武器はイチコロリだ。これは毒とカナタの幸運系スキルの恩恵によって魔物を一撃で倒す武器である。その毒が効かないとなると、苦戦を強いられるだろう。
レベルが上がったイエナたちに比例して、もっふぃーとゲンも強くなっている。モフモフたちが魔物を倒すことは、恐らくは可能だ。実際、魔物が複数現れた際にゲンは思い切り蹴とばして倒したことも何度かあった。が、岩系の魔物相手だとやはり勝手は違うだろう。
(岩系魔物を蹴り砕くゲンちゃんもカッコいいとは思うけど、それで蹄を傷めたりしたら……)
ポーション系の備えはバッチリしているが、わざわざそんな危険を冒す必要はない。足の速いモフモフたちがゴロゴロ転がる岩系魔物に後れを取るはずがないのだから、カナタの指示はやはり的確だ。
「あ! そういえば重力魔法で足止めだけだったらできるんじゃないかしら?」
「そういう使い方、PvPで見たことあるかも」
現在絶賛練習中の重力魔法。カナタからヒントを貰ったお陰もあって、最近はうっかり素材をダメにすることもなくなった。動く魔物相手にどこまで通用するかなどの不安要素はあるけれど、何事も練習だと思う。
それはそれとして、またしてもカナタの異世界専門用語が出てきて、頭に?マークが浮かんだ。
「……ぴーぶいぴーとは?」
「えーと……何て言えばいいかな。戦争ごっことか……あ、そう、闘技場みたいなもの! 人間同士の真剣勝負するところがあるんだ」
「ふんふん、対人戦ってことね。そういうので実際に使われてるなら有効かも!」
「どうせ逃げるんだからやってみるのもいいかもな。まあそんなことしなくてもゲンたちが足で負けるはずがないんだけど」
「それはそう。ねーもっふぃー、ゲンちゃん」
「めぇ~~!」
「メェッ!」
暑さから解放された2匹が自信満々に鳴いた。
調子が上がってきたのか、火山灰で柔らかな地面もゴツゴツの岩が連続する場所もなんのそので2匹は駆け抜けていく。
出遭う魔物は岩のゴツゴツしたフォルムのものが多くなってきた。
「岩っぽいけど、普通に倒せるやつも多いわねぇ」
「岩に擬態してるんだろうな。岩っぽくないところは柔らかいみたいだし」
そんなことを話しながら、カナタはイチコロリを放つ。断末魔の叫びをあげる暇もなく、ゴツゴツしたトカゲはドロップ品へ変化していった。
ちなみに、落ちたのはなんらかの鉱石。あとで詳しく調べたいところだ。
(やっぱりカナタ腕上がってるよね。這い回るトカゲのお腹を狙うって難しいもの。うーん、私も戦闘面で活躍できるようになりたいなぁ)
「っと、イエナ。何かすごい勢いで来てる。警戒」
「はい!」
カナタに返事をしたのと同時くらいに、何やらゴロゴロと転がってきているのが目視でもわかった。
「なんだ、あれ!?」
「岩? あんな速いのってアリ!?」
ゴロンゴロンとイエナたちの腰くらいの高さの岩が2つ、こちらに向かって転がってきている。ただ、それが不自然すぎる。そもそもここは傾斜などほとんどない平地なのだ。あの勢いは絶対におかしい。
「……あれ、マルマルマジロじゃない!?」
「そうっぽい。だったら……!!」
マルマルマジロとは、固い甲羅を持つ魔物の一種である。ゴツゴツした岩のように見える部分がきっと甲羅なはずだ。丸まった状態での突進攻撃が得意で、まともに食らってしまえば成人男性でも簡単に吹っ飛ぶ威力を持つ。
だが、カナタの腕と豪運スキルがあれば絶対に1匹は倒せる。
(問題はもう1匹。絶対カナタが先にいる方を倒してくれるはず! なら……)
今騎乗させてくれているもっふぃーを信じる。もっふぃーは絶対イエナを振り落とさないし、危なくなったらどうにかしてくれるはずだ。
右手を手綱から離し、土ぼこりをあげて回転するマルマルマジロの方へと向ける。
何度も練習してきた重力魔法の耐久力テストのように。
――ドターン!
2匹のマルマルマジロが止まったのはほぼ同時だった。
1匹は、カナタのイチコロリが甲羅の継ぎ目に命中し、大きな音を立てて倒れ込んだのちドロップ品になる。
もう1匹は、急に体が重くなって動けなくなったようだ。
そして、そのチャンスをカナタが逃すはずもない。
「よしっ!」
二の矢をつがえて、放つ。ゴロゴロと転がっていたマルマルマジロに命中させたのだから、動くのを止めた相手に当てることなど造作もない。
矢は吸い込まれるようにマルマルマジロの腹に命中した。
少しの間のあと、2つのドロップ品が地面に落ちる。
「イエナすごい! 大成功じゃん!!」
「で、できた? できたよね!? やったー!」
「めぇ~~~~!」
「メェッ!!」
初めての戦闘での魔法の成功に2人と2匹が大喜びしている中、ドロップ品が珍しく放置されていた。
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