125.ワタタ街到着
ワタタ街は、荒れ地に突然現れた文明都市といった感じの街だった。
周囲の土地は荒れているのにも関わらず、一歩街に足を踏み入れるとキレイに敷き詰められた石畳や、等間隔に並ぶ色形が似通った建物に目が行く。
「大賢者様が結界魔法で守ったっていうのも頷ける感じよね……すごーい、物語の中にいるっていうか、歴史を感じるっていうか……」
今までとはまた違った造りの街並みにイエナは興味津々だ。特にこの場所は昔話で聞いていた歴史ある場所とわかったのでより楽しく見ることができている。
「とりあえずは宿の確保と、冒険者ギルドへの依頼かな」
「調べ物、早めにわかるといいねぇ」
そんなこんなでまずは宿を探すことに。ワタタ街は魔法研究都市から転じて、学びの都となっているらしい。さまざまな分野の研究が日夜行われており、人口の半分以上は学生や研究者だそうだ。
そうなると、宿の選択肢がかなり少なくなる。
「んーここにしようか」
結局大通りにあった大きめの宿に決定した。夕飯はいつも通り周辺のお店を物色しようと思っていたのだが、宿のオーナーからは熱心に夕食付きプランの勧誘を受けた。
「よっぽどご飯に自信があるのかな?」
「明日あたり夕食付きにしてもいいかもな」
そんなことを口にしながら街を歩く。歩いていれば、どこかに美味しそうなご飯屋さんがあると信じて。
そして、十数分後。
「ない!? ごはんがない!?」
「いやまぁないわけじゃないんだけど……」
あるにはあるのだ。「ルーミィの食育実験屋」とか「ガバンス魔法固形物屋」とか。本当にギリギリ、もしかして食べ物を扱っているのかなといった感じ。他は雑貨のついでに保存食が置いてあるような店で、イエナたちの求めている食堂のような店舗は全くもって見当たらなかった。
「……ううう、ご当地の味、どこ~~?」
「あんまり外食の文化がないのかもな。とりあえず宿に持ち帰ることならできるみたいだから、そうしようか」
「じゃあ、さっき見えたあの店にしましょ」
正直言ってどの店も「なにかヤベーセンサー」がビンビンに働く。誰しもそんな勘が働くときはあるだろう。それでもやはり、旅をしている以上現地の特産物を食べてみたいという欲求はあるわけで。
そんなせめぎ合いの後、イエナは一番マシだと思える店から食物と思えるものを買った。見た目は四角い固焼きクッキーのようなもので、色は紫と黄色と緑のマーブル。何故これを、と思うかもしれないが、他のモノの方がよりヤバそう、と第六感が囁いたので仕方がないではないか。
ちなみに、カナタはちょっと楽しんでいるような顔をして、ヤバそうなオーラを放つ固焼きパンみたいなものを購入していた。
「じゃあこれは宿で頂くとして、折角外に出たついでに冒険者ギルドに寄っていこう」
「おっけー。あ、ついでに商業ギルドの依頼確認と、アデム商会さんの場所確認もしたいな」
とりあえず本日の夕食を確保したところで、この街に寄った目的である情報収集を開始する。一番大事なのは、次元の狭間があるエバ山の現在の状況だ。
この街の冒険者ギルドは、街並みに紛れてひっそりと存在している感じだった。
「こんにちは~」
「はーい、こんにちは~。どのようなご用件でしょうか~?」
「えぇと、調べものをしてもらいたくて……」
カナタが受付嬢に依頼内容を話している間、イエナはフラリと依頼掲示板を見に行く。基本的には商業ギルドで製作依頼を受けるつもりではあるが、こういったところにも面白い情報が紛れている場合がないこともない。あと何より見るのが楽しい。
(へぇ、思ってるより護衛任務が多いかも。研究者さんが思い切りフィールドワークできるようにってことかな。……でも、私でも無茶じゃんって思う場所への同行依頼も多い気が、する……)
研究への情熱が迸っているのか、駆け出し冒険者のイエナでも無茶と思える依頼がチラホラ見受けられる。例えば、火山に住む火龍の生態調査のため5分だけ火龍を大人しくしてくれる冒険者募集、とか。高山に咲く月光彩花の亜種発見までの護衛募集、とか。
(退治だけでも大変なのが想像つく火龍を、5分大人しくさせるって……どんな人ならできるんだろう? 亜種発見までの護衛にしたって、発見できなかったらずっと護衛してろってことなのかしら……)
色々と疑問が浮かぶ依頼の掲示を見ていると、依頼を出し終えたカナタがイエナの元へとやってきた。
「なんか面白い依頼あったか?」
「うーん、面白いと言えば面白い、かな? 受ける人いるんだろうか、とか」
「どれどれ……あー……確かにこれは、面白いっちゃ面白い、か」
依頼文にざっくり目を通したカナタも苦笑を浮かべた。恐らくイエナと同じような感想を持ったのだろう。イエナよりよっぽど知識があるにも関わらず、バッサリ無茶無謀と切って捨てないあたりにカナタの気遣いを感じる。
「そっちは? ちゃんと依頼出せた?」
こんな難しい依頼が掲示されているくらいだから、カナタの調べもの依頼が却下されるわけはない、とは思っているけれど。確認は大事である。
「あぁ、バッチリ。ただ、職員不足もあって、ちょっと時間かかるってさ」
「職員さん足りてないのね」
「冒険者を何でも屋だと思ってる研究者が多くって苦労してるって愚痴まで聞かされちゃったよ」
声のトーンを落として耳打ちしてくるカナタ。
掲示されている依頼を見るだけでも、ちょっと納得できる話である。
(研究者って職人と同じくらい頑固な人が多そうなイメージあるもんなぁ。研究以外目に入らないというか。私も注意しないと)
少々己を省みつつ、戒めとして覚えておこうと思ったイエナだった。
「まぁ時間かかるのは仕方ないわよね。商業ギルドでの依頼も見ておこうかしら」
「あ、あと図書館の場所も聞いておいたよ。ここいくつも図書館があるみたいだから、製作だけじゃなく色々と調べられると思う」
そう言われて思い浮かんだのが、ミコトの魔法図案だ。
「……そうね。知らないことが多すぎるからちゃんと学んでみるのもいいかも」
職人としてそれなりに研鑽を積んでいる自負はあるが、知識という面は自信がない。特に、ミコトの魔法図案は素晴らしい技術である半面、デメリットも大きい気がする。
(ミコトの名前を出すだけで帝国ではお尋ね者になっちゃう、とかもあり得るものね。これを機に国とかそういうのも気を付けた方がいいかも。旅に出るまでは国とか首都とかまるで縁遠かったからなぁ)
「じゃあギルドの結果が出るまではお勉強タイム、かな。あんまり得意じゃないんだけどなー勉強」
「え? そうなんだ? なんか凄い知識あるから好きなのかと思ってた」
「いやぁ……イエナならわかってくれると思うんだけど、興味あるモノじゃないと脳みそが受け付けてくれないんだよ」
「あぁ……」
イエナも別に学校の成績が悪い方ではなかった。しかし、それは将来の不安に駆られてがむしゃらに詰め込んだ結果である。職人見習いとして過ごすうちに、興味のなかったアレコレは全て抜け落ちていった自覚があった。
結論、興味がなければ記憶を維持することは難しい。
「でも、今回は興味がなくても覚えておかなきゃいけないこと、よね。勉強、頑張りましょう」
「うっす……ゼンショシマス」
余程勉強という単語に苦手意識があるのか、珍しくカナタが萎れていた。
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