124.グリフィンの風切り羽効果
ワタタ街までの旅は順調そのもの。
通常であれば4,5人編成の冒険者パーティで相手をする必要があるような魔物、グリフィンを筆頭に様々なこの土地の魔物をあっさり退治。レベルが上がったスキル「豪運」のお陰でレアドロップもがっつりゲットし、インベントリが潤った。いや、パンパンになった。
「カナタ、見て見て!」
インベントリに全く余裕がなくなったこと、なにより初めてゲットした高級素材「グリフィンの風切り羽」にイエナがソワソワしていたため、この日は早めにルームに引っ込んだ。
頑張ってくれたモフモフたちのお手入れに、食事作りにお掃除等。毎日のルーティンをこなし、カナタの美味しいご飯に舌鼓。そうしてやってきた自由時間に、イエナの浮かれきった声が響いたのだった。
「めぇ~~~~?」
「メェッ!?」
そこそこの声量だったため、何事かと2匹のモフモフたちまでリビングへやってきた。
楽しくて仕方が無いといった響きは、何かの実験が成功したことを想像させる。今度はどんな驚きが待っているのかと思いながらリビングへ向かったカナタが見たモノは――。
「空飛ぶ絨毯?」
「へ? あぁ、絨毯にしたほうが厚みがあって安定するかも! ナイスアイデアだわ、カナタ! 次チャレンジしてみる」
リビングをふよふよと浮遊する、布。それもピンと張った状態ではなく、ふよふよと波打っている姿がなんともまぁ頼りない、というのがカナタの第一印象だった。
しかし、イエナは物凄く得意気である。
「これ凄いでしょう!? ミコトさんの遺してくれた図案と、カナタが仕留めてくれたグリフィンのお陰なの!」
上機嫌なイエナは一気に語り出す。
ミコト、というのは銀世界に住んでいたカナタと同郷の女性のことだ。こちらの世界ではノイルバーン帝国の魔法軍団長にまでなった人物である。ジョブは魔法使いで「魔法を使えない人たちも恩恵を得られるように」と魔法図案というものを編み出したらしい。
海底や銀世界で大活躍したイキマモリやアタタマモリも、大元はその図案と一緒だ。特定の図が描かれることにより、なんらかの魔法的なものが発動する、らしい。
そのことに気付いたミコトは独自に研究しており、その研究をイエナが受け継いだ、という次第だ。
今目の前で浮いているこの布も、ミコトが遺してくれた図案を応用したものである。
「ミコトさんってあんまり手先が器用な方じゃなかったっぽくってね。色々図案はあるんだけど、どれも紙にペンで描いただけだと効果が出づらいみたいなの。試してみたい組み合わせなんかも遺してくれてたから助かる~」
「なるほどなぁ。その点イエナなら図案を色んな素材で試せるから適任だよな。偶然とは言え、イエナが引き継いで良かったんじゃないか、この研究」
イエナであれば、金属に彫ることも、布地に刺繍をすることも自由自在だ。その適性の一端が今浮いている布ということになる。
「えっへっへ。でもやっぱりカナタの豪運スキルあってこそだよ。普通に布に刺繍しただけだと、魔力を流しても精々床から数センチ浮いただけだから。でもこの「グリフィンの風切り羽糸」の刺繍ならかなり上まで飛べるわ!」
本日の戦利品である高級素材「グリフィンの風切り羽」は、風の魔力を宿している。
これを付与した防具は風魔法への絶大な耐性を得られるのだ。イエナが製作手帳で確認したところ、様々な装備に使えることがわかっている。が、今はそれらを作ることよりも、新技術に応用することを優先した。
何せ高級素材が手元にゴロゴロとあるのだから。
といっても、無駄遣いするつもりはない。それどころか少しも余すことなく使い倒す気満々である。
「これは魔力を流しっぱなし? それとも、魔石道具のスイッチいれるみたいな?」
「起動するだけなら魔石道具と同じよ。だから、出力さえできれば誰でも使えるようになってるわ」
魔力はこの世界に生きるどんな人間でも持っているものである。例えジョブが魔法使いじゃなくても、だ。それを発見した昔のエラい人のお陰で、今イエナたちは便利に暮らしている。
魔石道具というと仰々しい感じだが、例えばすぐそこのキッチンにある魔石コンロなどもそうだ。魔力を通せば火がつき、火加減は専用のツマミで調整する。他にも風の魔石を使ったドライヤーや、お風呂のお湯等に使う給湯器など。生活の至る所に存在する。
この浮遊する布も同じ感覚で使える、というわけである。
「しかもね、一応これ設計上は乗れるのよ!」
「ますます魔法の絨毯じゃん」
「もしかしてそっちの世界にはあったの?」
「あるような、ないような……」
カナタの歯切れが非常に悪い。あるかないかの2択なのに、何故言い切れないのか非常に不思議なところだ。
「……どっち? まぁ今回のコレは浮かすこと目的で軽い布を使ったの。というわけで、試運転です!」
「運転、なのか?」
「一応魔力の流し具合で前進後退旋回まではできるはずなのよ、理論上は」
「そこまでいくと魔法に素養のあるジョブじゃないと無理なんじゃないか?」
「そこも図案で解決できる、とは書かれていたわ。今はお試しの基本形だからその機能省いたの」
一応イエナ自身は、魔力の扱いという点だけならばそこそこできる方である。何故なら、何かの魔法を付与するような製作物は必ず魔力を使っているからだ。
ただし、それを攻撃だの回復だのに応用しようとすると、かなり難しい。もしかしたら、魔法使いなどのジョブは「付与のために魔力を扱う方が難しいんだけど!?」と思っているのかもしれない。隣の芝生は青いものなのだ。
「わかってはいるんだけど、やっぱ色々作り上げるって大変なんだなぁ……」
「そこが楽しいところでもあるけどね。というわけで、乗ります!」
勢いよく挙手をしてから、イエナは靴を脱ぐ。そしてそおっと足をのせ――。
――ビタン!
浮かぶ布から見事に滑り落ちた。
「ふぎゃっ……なんでぇ?」
「やっぱり布は足場として頼りないんだろうか? それともバランス感覚の問題?」
「むむむ、再チャレンジ!」
だが、手から乗せようがお尻から乗せようが、どう頑張っても滑り落ちてしまう。イエナの運動神経のせいかと思い、戦闘ジョブのカナタにも試してもらったが乗ることはできなかった。
ただし、カナタは落ちるときもきちんと受け身をとれてはいたけれど。
布相手に奮闘するイエナとカナタをどう思ったのか、そこに癒しのモフモフたちも参戦。すると、なんということでしょう。
「めぇ~~~~」
「メェッ! メェッ!!」
もっふぃーは最初のチャレンジで、ゲンは2回ほど滑り落ちたが3度目の正直で乗ることができてしまった。
「メリウールのバランス感覚が優れているのか、それとも単に重心が低いからなのか……」
「乗れることは証明できたけれど、これに乗っての移動は無理な気がしてきたわ。素材を変えて、絨毯くらいの厚みにすればあるいは……」
「……いや、これ乗って移動はゲンたちに乗ってるの目撃されるより更に目立つだろ」
「……そうかも」
レアな高級素材を手に入れたことに浮かれて、そこまで頭が回っていなかったイエナだった。
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