123.空からの襲来
「ねえ、本当にこっちの方向で合ってるの?」
もっふぃーに跨がったイエナは不安に駆られて声をあげた。今、一行は予定通りワタタ街に向かっているところである。だが、周囲の様子がどうにもおかしい。
積雪地域を走り続けること数日。風が温み陽射しが増え、緑の景色が戻ってきた。もっふぃーとゲンはアタタマモリ製の首輪をはずし、大喜びで草を食み始めた。カナタとイエナも防寒具一式を脱いで、のどかな風景にホッと息をついたのだった。
だが、ここに来てまた景色が変わり始めた。モフモフたちが喜んでいた草がいきなり見当たらなくなり、木もまばらで枯れかけたようなものばかりが目に付く。遠くに目を凝らしても乾いた大地と岩山が続いているだけだ。
どうもこの先に街があるという気がしない。
「うん、合ってるよ。この辺は大昔に魔法大戦があったらしいね」
「魔法大戦って、あの!?」
幼い頃によく読み聞かせしてもらったおとぎ話だと思っていた。その現場がここだという。
「あの、が、どのかは俺はわからないんだけどな」
そう言ってカナタは苦笑する。確かに、別の世界出身のカナタはお話自体は知らないだろう。
「時間があるときにお話する? それか、図書館行ってみるとか」
どの街にも規模は違えど図書館の1つくらいならあるはずだ。うろ覚えのイエナが語るより余程良いと思う。
「ワタタ街ならそれはちょっとアリかもなぁ……」
「是非是非! へーそれにしてもこれがあの大戦跡地なのね。ならほとんど緑がなくても納得かもー」
経緯は忘れてしまったけれど、とりあえず昔大きな魔法を使った戦争があったということだけは覚えている。それで人も土地にもかなりのダメージがあり、引き金となった魔法は封印された、とかなんとか。
「……あれ? ワタタ街ってもしかして、魔法が封印されたとこ?」
「イエナの知識でもそんな感じなんだな。そう、ワタタ街ってのは魔法を封印した土地。そんでもって、魔法の総本山というか、街全体で魔法を研究している街ってのが俺が覚えてることだな」
「研究都市、みたいなやつだ。私には縁がなさそうなとこだなぁ」
なるほど記憶にないはずだ。イエナは魔法に全く縁がないため、子ども心にも興味が向かなかったらしい。
「でも今はそうでもないんじゃないか? ミコトの魔法図案なんかはあそこで調べたら新しいことがわかるかもしれないぞ」
「あ、それもそうね」
「エバ山のことも調べたいから、ワタタ街には少しの間滞在することになるしな……っと、ストップ!」
言うがはやいか、カナタはイチコロリを手に取り矢を発射する。その先には中型の蛇の魔物がいた。あっという間に仕留められ、その身をドロップ品に変えていく。
「相変わらず良い腕してるねぇ」
「イチコロリの性能がいいだけ……とも言えなくなってきたかな。この前強運スキルが豪運にレベルアップしたから」
銀世界でヨクルのパワーレベリングを行った際に、当然ながら2人とも経験値を受け取っていた。着実にレベルが上がっており、運スキルが最終段階に到達したらしい。クリティカル率もドロップ率も跳ね上がっている。その結果が先ほどの蛇のドロップ品だ。なんとレアと通常の2種類が落ちていたのである。豪運スキルを持っていると、たまに複数のドロップ品が手に入ることもあるそうな。
「豪運、もはや怖いレベルよね。インベントリの空きがやばそう」
「最悪周囲を警戒しながらルームに放り込むことも検討する必要があるな」
拾わない、という選択肢がないあたり、根が貧乏性の2人である。特にイエナはインベントリの拡張を本気で考えたほどだ。どこかのダンジョンの最深部にあるとか言われているが、マジックアイテムである以上、魔法の総本山らしいワタタ街ならば何らかの手掛かりを得られても不思議ではない、はず。
「まぁ毎回複数ドロップするわけじゃないだろうから、今すぐどうこうって話じゃないけども。そもそもこの辺りの魔物って魔法大戦を生き残ったわけだから結構手ごわいんだ。本来ならもっと手こずるはずなんだよ。ホント、イチコロリ様々だ」
「じゃあ、最終装備になったらもっと楽になるのね!」
ドワーフの国にある、特殊な鉱石を使った武器がカナタの最終装備になる。魔法大戦を生き残ったこの辺りの魔物でさえ、イチコロリの前にはあっさりとドロップ品になっている。その最終武器とやらをカナタが手にしたら、それこそ無敵状態になるかもしれない。そんな妄想を膨らませていたイエナだったが、キッパリと当のカナタから否定の声が入った。
「いや、そんなことはないと思う」
「えー? そうなの!?」
「なんて言うのかな、得意ジャンルが違うんだよ。イチコロリは毒が効く敵限定ですごく強い。しかも遠距離だしな。けど、世の中には毒が効かない魔物だっているだろ? 最終装備はそういうのに対して使うんだ。次元の狭間があるエバ山もそっち系の魔物が多いはず。一応、それも含めてワタタ街で調べてもらう予定だけど」
「あぁそうか。なんか、岩っぽい敵に毒が効くかっていうと微妙っぽいもんね」
「あと使ってみて実感したのは、イチコロリみたいな遠距離攻撃の武器だと気持ちが楽なんだよな。やっぱり武器を使って倒すってなんかこう……微妙な怖さがある」
「あ、それはわかるかも。虫退治も素手よりは武器がある方がいいもんね」
ちり紙を手に虫を退治するよりは、ホウキなんかの武器(?)があった方が良いし、虫退治スプレーがあればもっと良い。たぶんそんな感じだ。
「おっ! イエナ、運が良いな。お目当てがきたぞ!」
「へ? お目当て?」
「一応逃げなきゃいけないかもだから、もっふぃーに乗ってくれ」
「わかったわ」
戦闘に関しては、カナタに100%の信頼を置いている。だから、意味はわからなくても指示されたことにはすぐに従った。もっふぃーに再び跨がったところで、太陽を遮る何かが頭上を通った。
「え? 何?」
思わず見上げると、そこには翼を持った魔物の影。その特徴的なシルエットで、話を聞いたことがあるだけのイエナにもその正体がわかってしまった。
「もしかしてあれって……!」
「そう、グリフィンだ!」
言いながらカナタはその影、グリフィンに向かってイチコロリを打つ。新たに得た豪運スキルのおかげか、矢は吸い込まれるようにグリフィンに命中した。上空から獲物を見つけたはずのグリフィンは、ドサリと地面に落ちドロップ品へと姿を変える。
「つよーい」
「イチコロリと豪運スキルのお陰だよ。こういう相手だとどうしても接近戦用の最終武器だとやりづらいから。それよりほら、イエナ欲しかったんだよな」
そう促されて、恐る恐るドロップ品へと近づいていく。
「グリフィンの風切り羽! レアドロップ!!」
噂に聞く超高級素材だ。強い風の魔力を宿しており、これを付与すると非常に優れた風魔法耐性のある防具の素材になる。製作手帳を見れば、この素材の活用方法が更にわかるはずだ。
何を作ろうか色々と想像が膨らむ。もっふぃーの背の上でなければ小躍りしていたところだ。
「やっと約束一個果たせたな」
「カナタ覚えててくれたんだ! 嬉しい! 本当にありがとう! このためにわざわざこの辺り通るルートにしてくれたの?」
この旅を始めるにあたって、カナタはイエナに「俺とパーティを組んでくれれば、いろんなレア素材と出合える」という誘い文句を口にしていた。あの日が随分遠くに感じる。そのくらいカナタとは一緒に旅をしてきた。
「んーまぁそれもあるな。豪運スキルを手に入れたし、レベルも上がってるから試したいのもあったし……っと、イエナ朗報だ。まだまだ手に入りそうだぞ。もっふぃー、狙われるかもしれないから逃げてくれ。ゲンは仕留め損なってたらトドメ頼む!」
「めぇ~~~~~~」
「メェッ! メェッ!!」
話している最中に、またいくつかの影がやってきた。もしかしたら今倒したグリフィンと同じ群れだったのかもしれない。
イエナはもっふぃーにしがみつき、彼が逃げるルートを妨げないようにする。
ゲンはやる気満々なようで、勇ましく鳴き声をあげた。
イチコロリは連射機能に乏しい。それでも、カナタは慣れた手つきで矢をどんどん放っていく。
その後、何度かグリフィンと遭遇し、その度に打ち漏らすことなく倒していった。ワタタ街に着く頃には、インベントリに高級素材がたっぷりと詰め込まれており、イエナのワクワクが止まらなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます