第54話  元王女たちの動向~シェリアside~




「お待たせ致しました、シェリア様」 




私たちがお茶を飲んで休んでいると、情報収集をしていたフィアが戻ってきた。




「フィア、首尾はどうでした?」


「はい、情報は集まりました。シェリア様のご期待に添えるものかと思います」


「それは上々」




さすがは、私が望んだことを完璧にこなすメイド長。

ということは、アヴィスの行き先を掴んだに違いない。




「では、早速報告をお願いします」


「はい。まずは、アヴィス様は冒険者としてこの国に貢献なさっているようです。他のメンバーと組み、パーティを組んでいるようです。名前は、『無限の使徒』。『セクリオン』の冒険者ギルドマスターも認めるほどの実力だそうです」


「へぇ、なるほど······」




ということは、アヴィスは自分の秘められた力に気が付いているのか。

それとも、そのメンバーが優秀なのか。

どちらにしろ、あの『栄光の支配』より遥かに良いメンバーたちと組んでいて一安心だ。

それも、『セクリオン』のギルドマスターに認められる程だ。

話には聞いたことがある。彼女はとても優秀で、人を見る目がある才能があると。

噂通り、大した人物のようだ。そんな人に認められるとは、私もなんだか鼻が高くなる。




「それで?肝心のアヴィスの行き先は?」


「はい。目撃情報等からアヴィス様たちはこの王都から出て、『サリュスアル大陸』へ向かったそうです」


「······『サリュスアル大陸』!?」




私たちが今ここに居る大陸、『コーディアス大陸』と海を隔てている別大陸。

彼がそこに渡ったと聞いて一瞬驚いてしまったが、考えれば納得してしまう。

なるほど、そうくるとは思わなかった。

まさか未知の大陸へ渡るとは予想外だが、確かにこの大陸で生きていくよりも生きやすいかもしれない。

貴族の位を剥奪された彼の姉、エルミオラ・クローデットや、Sクラスから降格された幼馴染みパーティが逆恨みをして彼を追いかけるかもしれない。

それに、あの聖女もなんだか気になる。

彼がそれを認知しているかは分からないが、彼の周りには敵が多すぎる。なら、いっそのこと別の大陸へ渡ってしまえば少なくとも気苦労は減るだろう。

でも、油断は禁物だ。彼がいくら強いといえど、未知の大陸では何が起こるか分からない。

それに、彼と行動を共にするパーティメンバーも素性が気になる。なんだか嫌な予感がするのだ。

とにかく、何であるにしろアヴィスがそこに向かったというのは間違い無さそうだ。




「フィア、ユリウス。大変申し訳ありませんが、早速『サリュスアル大陸』へ赴くために港に参りましょう。私の我が儘でこの大陸から離れることになりますが、覚悟はよろしいですか?」


「シェリア様の御心のままに」


「はい、了解致しました」




二人は迷うことなく、私の提案に従った。

フィアはともかく、ユリウスまでここまでついて来るとは思わなかった。

よほど、姉よりも彼のことが大事らしい。ちょっとだけ嫉妬してしまう。いけないいけない、彼は大事な義弟になるのだから、もっと度量を大きくしないと。

しかしフィアとユリウスと一緒なら、未知の大陸に渡るのも不思議と怖くない。

そこにアヴィスが居るなら、危険も省みず会わなければならない。

だって、私は彼の婚約者なのだから。




「行きましょう、二人共」


「はい」


「ハッ!」




私は二人を引き連れ、早速『サリュスアル大陸』へ向かうために港へ向かった。

船乗りに話を聞くと、どうやらアヴィスは美人たちと共に船に乗ったらしい。

······美人たち?まさか、他のメンバーというのはその女たちのことだろうか?

私という者がありながら?······ふふふ、これは会ったらちょっとお話をしなくてはいけませんね。




「シェリア様、どうされました?」




私の黒い考えが顔に出てしまっていたのか、珍しく心配そうな顔をしたフィアが私に問いかけてきた。

彼女は知っているのだろうか?いや、知っていたとしても私に余計な心配を負わせないようにあえて黙っているかもしれない。

そんな彼女の気遣いを無碍にしないよう、私は笑顔を彼女なに向ける。




「いえ、何でもありませんよ。フィアは気にしないでください」


「はぁ······それなら良いのですが。もしかしなくても、アヴィス様のことをお考えですか?」




さすがは私に長年仕えてきた従者、私の考えていたことはどうやら看破されてしまっていたらしい。

彼女に嘘は通用しない。改めてそれが分かった私は、誤魔化すことなく彼女に話すことにした。




「······フィア、あなたは知っていましたか?アヴィスが他の女と一緒に居ることを」


「はい、存じていました。ですが、シェリア様に不安させないよう、私の独断で黙殺していました。申し訳ありません」




さすがは私の従者、思った通りだった。

だけど、謝る必要は無い。彼女は、ただ私のことを第一に考えての行動をしただけなのだから。




「私のことを思って黙っていたのです、何も謝る必要はありません。ありがとう、フィア」


「シェリア様······」




私は、本当に良い友達を持った。

なんだか嬉しくて、自然と笑みがこぼれる。

しかし、その空気を壊すかのような発言が私たちに降りかかってきた。




「ねぇねぇ、今『アヴィス』って言ったぁ?」


「······聞き間違い、ではないと思う······」




声をかけられ振り返ると、そこに年端もいかないであろう少女二人がそこに立っていた。




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