第55話 双子傭兵、現る~シェリアside~
私たちの前に現れたのは、褐色の肌をした双子の少女たちだった。
ただ、普通とは違う何かを感じる。
ただ者ではないオーラを沸々と漂わせている。
その雰囲気に気が付いたのか、フィアとユリウスが私を庇うように前に出た。
「······何かご用でしょうか?」
フィアが事務的に訊ねると、双子の片割れはクスクスと笑いながら返してきた。
「そんなに警戒しないでよー!ただ、お姉さんたちがアヴィスって名前を出したからねー」
「······私たち、その人を捜している······」
もう片割れは、淡々とそれだけを告げた。
捜している?この少女たちがアヴィスを?何故?
アヴィスがシリウス帝国に居た頃は、この子たちの情報など一切無かった。
だから、友達という訳ではないことはすぐに分かる。
なら、この子たちは何者?
気になった私は、『神眼』を発動していた。
この『神眼』には、万能の魔法『鑑定』よりは劣るが、相手の素性も調べることが出来る機能がある。
「······なるほど、そういうことですか」
調べて、すぐに理解した。
この子らは、クローデット家······いえ、正確にはエルミオラから雇われている傭兵らしい。
金さえ積めばどんなことをもやってのける傭兵国家、『アルハーヴァ』の出身。
そこでは性別年齢関係無く、厳しく傭兵として育てられると聞いたことがある。
だから、こんな幼い子たちが傭兵だとしても何の驚きも沸かない。
ただ一つあるのは、危険だという警戒だけだ。
「あなたたち、アヴィスをどうなさるつもりです?」
「んー?ちょっとね?ある人から頼まれてね。その人を連れてこいってさ」
「······ラル、喋りすぎ······」
『ラル』と呼ばれた少女は、やっちゃったとばかりにてへっと可愛いし仕草をしながら笑う。
「リル、ごめんねぇー?」
そして謝りながら、『リル』と呼んだ少女に抱きついていた。
なるほど、おおかたエルミオラがアヴィスの価値を知り、連れ戻そうとしているんだろう。
しかも彼の実力と性格を認めた訳ではなく、ただ剥奪された貴族としての立場を取り戻すために彼を利用しようとしている。
あのゲスな女の考えそうな魂胆だ。吐き気がする。
そんな女なんかに、アヴィスを渡すはずがない。
「あなたたちの目的は分かりました」
「あ、納得してくれたぁー?」
「分かっただけで、別に納得していません。何があっても、あなたちにアヴィスは渡しません」
「えぇー?でも、私たちも仕事だしぃー?居場所を知っているなら教えてほしいなぁー?」
「知りません。例え知っていても、あなたちには教えませんのでお引き取りください」
彼女たちに教えるのは非常にまずい。
アヴィスの所在が知られれば、しつこく食い下がってくるのは明白だ。
あのエルミオラが簡単に諦めるとも思えない。
頑なに拒否すると、それまでニコニコしていたラルが眼を細めて真面目な顔をした。
「これだけ頼んでも?お姉さんさ、立場分かってる?」
瞬間、ゾクッと寒気がした。
彼女から、とてつもない殺気を感じたからだ。
さすが傭兵としてやってきただけのことはある。
実戦経験があまり無い私でも、その殺気は確かに恐怖を感じるものがあった。
しかしだからといって、やはりアヴィスのことを話す訳にはいかない。
私は彼の婚約者だ、愛する人を危険な目に遭わせる訳には断じていかないのだ。だから、ここは引けない。
「······あなたこそ、いい加減に諦めたらどうです?」
「それが出来たら苦労しないんだよー?あー、もう······面倒くさいなぁ······」
彼女はぶつぶつと呟くと、なんと懐に携えた短剣に手を伸ばした。
この子、まさか本気······!?
こんな往来の場所、しかも無関係の人たちが大勢居るところで剣を抜くなんて、あまりにも信じられない行動に私は驚愕する。
「······ラル、人の目が多い······」
「関係ないよー、リル。力ずくで聞いたほうが手っ取り早いじゃん?」
「······それは、一理ある······」
ラルを窘めていたリルも、同じように腰にある剣に手を伸ばした。
あり得ない、この子たちには倫理観や道徳観というものが欠落しているようだった。
例え無関係の人を巻き込んでも任務は必ず達成する。
多分、幼い頃からそう教育されてきたのだろう。
それが『アルハーヴァ』のやり方かもしれない。
だからといって、こんなところで戦闘したら間違いなく被害が出てしまう。
どうしたら良いものかと内心焦っていると、それまで黙っていたフィアが静かに言った。
「······シェリア様、一つ提案がございます」
「えっ······?何です、フィア?」
「私が彼女たちをここから遠ざけます。なので、あなた様から一時離れる許可をいただきたいのです」
「フィア······?」
彼女から放たれる言葉には、確かに静かな怒りを私は感じていた。
でも、その提案は決して無謀でないことを私は理解している。
だって彼女は私の従者、フィアなのだから。
「分かりました、許可します。私はユリウスと共にここで待っていますので、あなたはその子たちをお願いしますね?」
「提案を受け入れてくださり、ありがとうございます。すぐに終わらせますので、お待ちください」
そんなフィアの言葉が気に入らなかったのか、ラルとリルはムッとした表情を浮かべた。
「なにー?お姉さん一人で、私たちを相手にするのー?正気ー?」
「······無謀すぎる······」
「相手······になるかどうかは、あなた方次第です」
さらっと言うフィアの言葉に、二人は分かりやすく怒りの表情をして怒号を放つ。
「面白くない冗談だけど、いいよー!その挑発に乗ってあげる!」
「······私たちを怒らせたこと······後悔させてあげる······」
「それはこちらの台詞です。あなた方は私を怒らせました······その代償は高いですよ?」
彼女らは知らない。フィアが怒ると、どれほど怖いのかを。それを今から身を持って体験することになるだろうが、私は哀れに思わない。自業自得だから。
「それでは行って参ります、シェリア様」
「ええ、待っているわ······フィア」
私は、去っていく彼女らを見送った。
彼女はきっと帰ってくる、そう信じながら。
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