それぞれの視点

第51話  師匠VS弟子の結末~幼馴染みside~




「くっ······ふっ······あぁ······っ」




師匠に負けた、三人がかりでも傷一つすら負わせることも出来ずに完膚なきまでに敗北した。

まだ余裕すら見せる師匠からさらに叱咤の言葉を受け、涙がどんどん溢れてきてしまう。

そんな私に、師匠は変わらず言葉を続けた。




「泣くな、見苦しい。そんなに後悔するなら、最初からアヴィスを冷たくあしらうんじゃない」


「っ······」


「······一つ、聞こうか。何故、貴様らは彼を冷遇した?昔は、あんなに仲が良かったはずだろう?」




師匠の問いに、私は答えを探す。

そうだ、私たちはあんなに仲が良かった。

何処へ行くにも一緒で、私やライラ、リュドミラの後ろをいつもついてきて······。

·······あれ?私たち、いつからあんな関係になっちゃったんだっけ?




「ッ―――!?」




そう考えた途端、酷い頭痛に見舞われた。

過去のことを考えると、酷く頭が痛む。




「む······?おい、どうした?」


「あぐぅ······っ、師匠······あ、頭が······っ」




助けを乞おうとした瞬間、私の頭に何かが響いた。




『······そんなことは忘れなさい。あなたは、あなたのやるべきことを成すのよ』


(ッ······だ、れ······!?)


『誰でもよろしい······さあ、あなたの約束を成就するため、今こそ私の力をお貸ししましょう』


(······や······やく······そ、く······)


『そう、約束です。あなた方があの男と交わした、唯一無二の約束······それを果たすために、あなた方はどんなこともする。そう神に······いいえ、私に誓いましたでしょう?』


(そ、うだ······私は、アヴィスとの約束を······あの約束を果たすためなら······!)


『そう、それで良いのです。さあ、私の力を願いなさい』




欲しい······私は、あの約束を果たすための力が······彼を守るために、何者にも負けない力が欲しい!




『さあ、私の力の一部を差し上げましょう』




何者かがそう囁いた瞬間、私の内側の底から何かが溢れ出してくる感覚に陥った。

黒く、汚く、まるで泥沼のように。

私の精神が少しずつ犯されていく。




「何だ······?この、黒く禍々しい気は······?」




師匠の目が驚きに見開かれる。

まるで予想外と言わんばかりに驚いているようで、私としてもしてやったりと満足した。

だが、それで終わりな訳がない。

まだ、私は彼女に傷一つすら付けていないのだから。




「く、は······ははは·······待たせたわね、師匠。これからが本番よ······?」


「貴様、何をした······?」


「何を、ね······くはは!驚いている暇は無いわよ······!」




私は再び長剣を構え、そして駆ける。

そのスピードは、さっきまでの私の約三倍ほどだった。

しかも、まだ本気すら出していない。




「ちっ······!」




私のスピードに驚いたせいで対応が遅れた師匠が、慌てて私との間合いを取るべく後方に下がる。

しかし、私はさらにスピードを上げた。




「なっ······!?」


「貰ったぁ······!」




私は長剣を突き出す。

しかし、その先端が何かに弾かれた。

まるで、壁に当たったように。

攻撃が外れた私は、再び間合いを取るべく後ろに跳躍する。




「······なるほど、あなたの魔法が何なのかなんとなく掴めたわ」


「······ほう?」


「師匠の魔法、それはすなわち『重力魔法』というやつね?」


「······ふむ、なるほど。どうやら身体能力だけではなく、頭脳も段違いにアップしたようだな。やはりさっきの黒い気配、何かしたな?」


「悠長にしている場合じゃないわよ·······?」




私自身、この力が何なのかは知らない。

だが、こんなに溢れ出る強大な力を使わない訳にはいかない。




「火よ、水よ、風よ、雷よ!我が剣にその全てを捧げ、我が眼前の敵を滅せよ!」




さっきと同じ魔法の詠唱をするが、やはり何かが違うような感じがする。

それも感じ取ったのか、師匠は魔法書を開いて詠唱を開始した。




「原初の力よ、悠久の時を奏でよ。三界の理、天秤の法則、創造の起源。須らく我が眼前に迫る万物を悉く輪廻と還せ」


「どんな魔法を唱えても無駄よ!私の力に屈しなさい!―――『超四天裁撃クワトロスラッシュ』!」




先程全く効かなかった私の必殺技。

しかし威力も速度も段違いのようで、まるで触れたら全てを滅してしまうような強大な力が師匠を襲う。

だが、やはりこれを前にしても師匠は冷静に前を見つめていた。




「―――『天地開闢メビウス』」




瞬間、何か見えない力が私の必殺技とぶつかり合った。

おそらく重力を使った攻撃魔法だろうが、詳細はまるで分からない。

だが、私の全力の必殺技と威力は互角のようで、少しも押し負けることなくぶつかり合う。




「くっ······!まだ······まだよ!私の力は、こんなものじゃない!もっと······もっと私に力を貸しなさい!」




私は負けるわけにはいかないと、先程囁いてきた声の主に叫ぶ。




『······良いでしょう、もう少し私の力をお貸ししまょう』




途端、再び黒い何かが私の中を巡る。

すると、私の必殺技の威力を増して師匠の見えざる攻撃を押し始めた。




「イケる······イケるわ!く、くはは······!」


「··········」


「見なさい!これが私の力よ!」


「······いや、残念だがそれは貴様の力では無い」




余裕に勝ち誇る私に、師匠は冷たく言い返してきた。

何を言うかと思えば、私のこの凄まじい攻撃に負けている奴の台詞ではない。

勝った······!そう心中でほくそ笑むと、師匠はふっと小さく笑った。




「馬鹿め······これが私の全力だと思っているのなら、貴様の目は節穴だ」




そう言った瞬間、あり得ない光景が目に映った。

私の必殺技の幅が小さくなり始めてきたのだ。




「な、何が起きた······!?私の必殺技の攻撃範囲が·······小さくなり始めた!?」


「ふん、貴様が自分で言っただろう?私の魔法が重力魔法だと」


「それが······!?」


「それを応用して、上下から重力を使って弾き合い、貴様の攻撃を自滅に誘っているだけに過ぎん」


「ど、どういうこと······!?」


「ふん、全てを話すほど私は甘くはない」




何がどうなっているか分からない。

だが、私の魔法攻撃の幅が小さくなっているのは現実だ。

いくら私が力を込めても、まるで意味がない。




「くっ······馬鹿な!あり得ない!これは、どうなっているの······!?」




叫んでいる間に、私の攻撃はみるみるうちに小さくなっていく。

重力は本来上から下に圧す力のはず。

それが下からも重力を飛ばすなんて、普通はあり得ない。




「そんな······私の攻撃が······」




私の魔法攻撃が小さくなっていき、すぐに見る形も無く消えてしまった。

あり得ない、一体どんな理屈よ······!?

またしても、私の力が彼女に通じないというのか······!?




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