第50話  新しい地での目標




『サリュスアル大陸』。

山岳地帯が多く見られ、自然の砦が構築される広大な土地が広がっている。

そしてその中で竜峰と呼ばれる渓谷では、ドラゴン系の魔物が多数散見される他、竜と共存する種族『竜人族ドラゴニュート』の里があるといわれている。




「······と、船乗りの方から情報を聞きました」




イヴからそのような報告をされ、僕らはこの港町である『ジーアス』で宿を取ってこれからのことを話していた。




「なるほど······『竜人族』。非常に興味あるわ」




『竜人族』の噂は、僕もある程度聞いたことがある。

外見は竜の角に羽、そして尻尾があるからすぐに判断出来るらしく、特筆すべきはその戦闘力。

凄まじい身体能力に加え空も飛び、しかもなんと口からブレスを吐けるという。

そんな彼らにルーナが興味津々みたいだが、かくいう僕もちょっと興味はある。

だが、滅多に会える存在ではないのでいずれ会えることを楽しみにしていよう。




「それより、これからどうするかだけど······」




やるべきことはたくさんある。

まず、この地での調査。そして探索。

お金には困っていないが、ギルドで仕事も見つけなくてはならないだろう。

何からやるべきか悩んでいると、ルーナが「それなら······」と提案してきた。




「私たちの家を買わない?」


「家······?」


「そう、何をするにしてもまずは拠点は必要かと思うわ。いつまでもこの宿にお世話になるわけにもいかないしね。何より自分たちの家があったほうが何かと便利じゃない?」




そう言われると、反論する意見が出てこない。

正直、僕も家は欲しいなとは思っていた。

だから、ルーナの提案は非常にありがたい。




「僕もルーナの意見に賛成だ」


「ふむ、新しい地での拠点は必要じゃな」


「私も異論ありません」




満場一致で、ルーナの意見が採用された。

しかしそうなると、不動産屋を見つける必要がある。




「よし。じゃあ、私はアヴィスと一緒に不動産屋を見つけて話を付けてくるわ。あなたたちは留守番ね」


「おい、ルーナばかりズルいぞ!?妾だってアヴィスと行動したい!」


「その意見には同意します。私も、ご主人様の助けになりたいです」




うん······?なんだか不穏な空気になってきたぞ?

ルーナの提案に賛成したのだから、てっきり彼女の意見を尊重すると思ったのだが、意外にも二人はそれに異を唱えた。

なんだか、バチバチっと火花が散っているように睨み合っている気がするんだけど······。




「へぇ、いい度胸ね?正妻の私に刃向かう気?」


「ハッ、妾だって妻じゃ。譲れないわ」


「私も、ご主人様とデートしたいです」




それぞれの声色になんだか怖さがある。

というか、これってデートになるのか?

たかが不動産屋を見つけに行くだけなのに、どうしてここまで話が大きくなるのだろうか。

とにかく、三人には喧嘩して欲しくない。

そう思った僕は、思い切って提案することにした。




「ルーナ一人に任せてもいいかな!?僕、ちょっとこの町を見たいし······だから、三人にはそれぞれ仕事を任せたいんだけど、いいかな!?」


「むっ······?」


「妾たちに仕事とな?何じゃ?」




どんなにいがみ合っていても、結局は僕の言葉を聞いてくれるからありがたい。

ホッとした僕は、それぞれに説明をする。

ルーナには、不動産の内見と契約。

リザリスには、この地の魔物の調査。

イヴには、引き続きこの地の情報収集。

各々に合った仕事だと思って提案すると、三人は渋い顔をしながらもなんとか納得したようだ。




「······仕方ないわね。任せなさい、とびきり良い家を見つけてくるわ」


「ふむ、魔物の妾ならではの仕事じゃな。信頼されているようで嬉しいわ」


「ご主人様の命とあらば、全身全霊で遂行致します。お任せください」




三人は気合いを入れたかと思うと、それぞれ部屋から出て行った。

よかった、なんとかなった。

安堵の溜め息を吐いた僕は、一人宿を出ることにした。

その際、宿屋の女将に声をかけてみる。




「女将さん、この港町でおすすめな観光場所はありますか?」


「観光場所だって?そうさね······この港町じゃ、海以外何もないよ」


「そ、そうですか······ありがとうございます」




うぅん、ならどうしよう?

海か······そうだな、船ではあまり堪能出来なかったし、町から見る海も格別かもしれない。

そう思い外に出ると、ふと視線を感じた。




「······?何だ······?」




辺りを見渡すが、誰も僕を見ていなかった。

おかしい、感じたはずなんだけど······。




「······気のせいかな?」




多分、見知らぬ土地で感覚が敏感になりすぎているのかもしれない。

自分の自意識過剰さに恥ずかしさを覚える。

苦笑いをしながら、僕はさっさと向かうことにする。




しかし、この時の僕はまだ気付かなかった。

この新しい地でも、因縁はまだ途切れていなかったことを。




「······見つけた······。彼が、例の······早速、あの人に知らせないとね······ふふっ」




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