第47話 連れ戻す算段~姉side~
「アヴィスがこの国にもう居ない······!?」
貴族の権利と栄誉を剥奪されてから数日後。
私、エルミオラ・クローデットは部下の報告を聞いて目を見開いていた。
「はい、目撃情報もないことからアヴィス・クローデットは既に出国したと思われます」
「ちっ······」
思わず舌打ちが出てしまった。
私が部下に命令したのは、愚弟のアヴィスを探し出して私の前に連れて来ること。
そしてアヴィスを私自身の糧にすることが目的のはずだったが、よもやこの国に居ないとは驚きだ。
まさか、あの弱虫能無しアヴィスがこの国を出るとは予想外である。
「······もう良いです。下がりなさい」
「はっ······」
私は部下を下がらせ、思案する。
アヴィスがこの国に居ないとなれば、あいつの行き先は二つ考えられる。
一つは、魔法至上主義とされる魔導国家『セクリオン』。
だが、あの弱虫が『死鬼の森』を無事に抜けて出るとは考えにくい。
もう一つは、海を渡って別の大陸に向かった可能性。
こちらのほうも、正直可能性は低い。
なにせ船を手配するにしても、この国では色々と面倒な手続きが必要になる。
それまでの間、アヴィスがこの国に居た形跡が無いと報告を受けた以上、海に渡ったのも考えづらい。
しかし、どちらも可能性が無いとは言い切れないのも事実。
「······となれば、やはり行動を起こすしかないわね」
私は、自室の机に置いてある小さいベルを鳴らした。
そして、部屋のドアが静かに開く。
「お呼びでしょうか、我が主」
「なになにー?久々の命令かなー?」
「······ようやく······身体を動かせる······」
入ってきたのは、執事服を着た初老の男性と双子の少女たち。
執事服の男性の名は、『ガイゼル』。
貴族剥奪された私に、今も仕えてくれる数少ない部下の一人。
そして双子の少女たち、『ラル』と『リル』は、私が長年雇っている傭兵だ。
金のためなら情報から暗殺、色々なことまでしてくれる便利屋のようなものだ。
彼らを呼び出したのは他でもない。
「あなたたちに命令するわ。私の愚弟、アヴィスを探し出して連れてきなさい」
「ふんふん、なるほどねー。連れて来るのはいいけど、もし抵抗したら手荒な真似しちゃうよぉー?」
「構わないわ。四肢を切断しても生きているのなら、私はそれで充分よ」
「あははっ、ひっどいお姉ちゃんだねー。まあ、それが仕事なら喜んで私たちは引き受けるよ。ねぇ、リル?」
「······お金のため······」
双子の少女、姉のラルは可笑しそうにケタケタと笑うが、別に私はおかしいことは何一つ言っていない。
あの第三王女が言ったことが本当だとすれば、アヴィスには国を大きく変える力がある。
それを利用すれば、私は貴族に返り咲くどころかこの国を動かす存在にも成り得る。
つまり要は、アヴィスの存在が私の糧になれればそれで良いのだ。
「我が主、一つよろしいでしょうか?」
「ん······?」
挙手をしたガイゼルが私に無表情に問いかけてきた。
いつも命令を聞くだけの彼が私に質問するとは珍しい。
「アヴィス様を探すのはよろしいですが、噂によれば第三王女であらせられるシェリア様やもう一人の弟様、ユリウス様もこの国を出たようでして······」
「なんですって······?」
第三王女がこの国を出るのは大方予想ついていたが、まさかユリウスまで出るとは思わなかった。
······いや、良く良く考えれば納得のいくことである。
ユリウスは昔から何故か私ではなくアヴィスを慕っていて、いつも屈託のない笑顔を向けていた。
奴が家を出て行った時も、ユリウスは怒りの形相で私に問い詰めついたが······よもや今の地位を捨ててまでこの国を出るほどとは、本当に気に入らない。
追放したとはいえ、我が弟ながらいちいち不愉快になる男だ。
「ユリウス様もシェリア様も、おそらくはアヴィス様を追いかけたと思われますが······連れ戻す際、遭遇する可能性もあると思います。その場合、どのような判断を下せばよろしいので?」
「······ふん、抵抗するならやむを得ないわ。その場合は、力尽くで叩き伏せなさい」
「はっ、かしこまりました」
そう、この国を出たということは第三王女といえど他の国ではその権力や地位は通用しない。
もしアヴィスと合流して私の邪魔をしてこようとも、その場合は有無を言わさず叩き潰せばよい。
そうなっても、私には何の責任も無い。
「まずは······ガイゼル、あなたはこの海を出て他の大陸方面を探してもらいます」
「はっ、承りました」
「そしてラルとリル、あなたたちには『セクリオン』へ向かっていただきます」
「はいはーい、了解だよー」
「······了解······」
その昔、一騎当千と讃えられた元英雄ガイゼルならば一人でも問題はない。
別の大陸に向かっても余裕だろう。
ラルとリルは傭兵とはいえ、その実力はSに匹敵すると言われている。
彼女たちなら、『死鬼の森』も無事に抜けられるはずである。
アヴィスがどんな力を持っていたとしても、彼らに抵抗する術は無い。
「アヴィスが居なかった場合、自己判断で動いてもらうわ。いいわね?」
私がそう言うと、三人は素直に頷く。
「それでは行って参ります、我が主」
「行ってきまぁーす!」
「······行ってくる······」
命令を受けた三人は、私の部屋を出て行った。
そして再び一人になった私は、椅子から立ち上がって窓から外を見る。
「ふ、ふふっ······待っていなさい、アヴィス。私があなたを飼い慣らしてあげるわ」
そう、弟は姉の糧になるために存在する。
その姉の私が弟のアヴィスをどうしようと、私の自由なのだ。
「く、くくく······私の足元に跪かせてやるわ······ふはは······くはははははははぁっ······!」
口元を歪め、高らかに嗤う。
その私の背後に、黒い何かが蠢いているとは知らずに。
『······あぁ、実に良いですよ、その黒い感情······実に甘美!しかし、まだあなたは動かないのですね······せっかく私の力を差し上げたというのに······。ですが、あなたが動く時が私の計画の礎となる。······く、くく······くふふふふ······あぁ、その時がとぉっても楽しみですね·······』
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