第46話  元王女と聖女~シェリアside~




「ラクリール、それまでにしなさい。民を守るはずのあなたがその態度とは何ですか?」


「ッ―――!?せ、聖女様······!?」




人混みの中、颯爽と現れた白い服を身に纏った気品溢れる白髪の女性が噂の聖女のようだ。

王族や貴族とはまるで違う、独特の雰囲気と神々しさを感じる。

なるほど、この様子なら王族より権力があるというのも納得がいく。

しかし、何故彼女がアヴィスを探しているのか疑問である。

その聖女はラクリールの前に立つと、なんと私たちに頭を下げてきた。




「不愉快な思いをさせてしまい、大変申し訳ありませんでした。無理な情報収集はしないよう厳命したのですが······」


「せ、聖女様······!?」




ラクリールを始め、部下たちも騒ぎ出す。

当然だ、世界一と言っても過言ではない聖女が頭を下げるなど前代未聞だ。




「ふん。まあ、不愉快ではありましたが、あなたのせいではないですからね」


「いえ、部下の不始末は上司の責任です」




なるほど、彼女が人気な理由も分かった気がする。

だがしかし、彼女が悪いわけではないので責めるといった愚かなことはしない。

さっさと話題を切り替えたほうがいい。




「······それで?あなたは、アヴィスを何故追っているのですか?」




私は、一番気になっていることを質問してみた。

これがもしアヴィスの不利になる理由だとしたら、私は一切何も喋らない。

聖女は悩む様子すら見せず答えた。




「はい。彼は『アルドーバ』で人助けをしたらしいのですが、規模が貧困街に住む住人全員と聞きまして。しかも、中にはただの治癒魔法では治せない重病人も居ると······そんなことが出来るのは私のような聖女しか居ないと思いまして······」


「······なるほど、それで話を聞きたいと?」


「そうです。彼が何者なのか、私は知りたいのです」


「話を聞くだけですか?」


「もちろんそうですが、場合によっては私に代わって民を治したことを讃えて褒賞を与えようと······」




なるほど、大体話は分かった。

確かに話を聞いた私も不思議でならない。

アヴィスが持つ魔法は、火、水、風、土、雷、光、闇の七属性のはず。

私が見た限りでは何らかの力があるとされているが、それが住人たちを治したことと何か関係があるのだろうか。

とにかく、聖女が気になるのも無理はない。




「しかし、聖女様。あなたは勘違いをなさっています」


「勘違い······ですか?」


「はい。アヴィスは別に見返りを求めようとして、誰かを助けたわけではありません。彼は、ただ優しいのです。だから、困っている人を見捨てられなかった。ただ、それだけです」




そう、アヴィスは優しい。

私やフィアにも優しく接し、王族や貴族という立場を無視して平等に扱ってくれた。

そんな彼だからこそ、私は婚約を受け入れたのだ。

それを聞いた聖女は悩んだ様子を見せた後、笑顔を私に向けた。




「なるほど······そうですか。ですが、私としても非常に気になるのです。彼が何者なのか、どんな力を持っているのか······」


「確かに······それは、私も気になります。しかし、だからと言ってあなたはアヴィスから無理に聞き出そうとしているのですか?」


「そ、それは······」




だとしたら、彼女は傲慢過ぎる。

それに、理由はそれだけじゃないような気がする。

どっちにしろ私は、生理的にこの人を受け入れることは出来なさそうだ。




「申し訳ありませんが、私はあなたに話すことは何もありません」


「······そうですか、分かりました」




意外にも素直に引き下がる聖女の反応に、私は違和感を感じていた。

これだけの部下を使って情報を収集しようとした彼女が、こんなに簡単に諦められるものだろうか?

······なんだか嫌な予感がする。




「それでは私はこの辺で失礼致します。皆さん、行きますよ」




聖女は驚く部下たちを引き連れ、早々と歩き去っていく。

姿が見えなくなったところで、ユリウスが私に耳打ちしてきた。




「······シェリア様、良かったんですか?聖女と共に兄さんを探したほうが効率的では?」


「確かに効率は良いかもしれまんが、私はあの人が嫌いです」


「嫌い······?」


「······私の『神眼』が彼女に通用しなかったのです」


「ッ―――」




そう、私は彼女に『神眼』を使おうとした。

彼女が何を考えているのか、何が目的なのかを

知るために発動した。

しかし、何故か彼女には効かなかった。

何かの魔法を発動していたのか、そもそも彼女の性質なのかは分からない。

だが、真意が分からなかった私は彼女のことが生理的に嫌いになっていた。




「私の『神眼』が効かなかったのは、今まで彼女一人だけです。それに、私には彼女がアヴィスを敵視しているような目をしているような感じに見えました」


「兄さんを······?」


「もしかしたら、彼女はアヴィスが自分以上の実力を持っていることに感付いたのかもしれませんね」




清楚そうに見えて、結構プライドが高い人かもしれない。

なんにせよ、彼女をアヴィスに会わせることは避けさせたほうが良い。

破棄されたとはいえ、私は彼の婚約者だ。

未来の旦那様を守るのは、妻である私の役目なのだから。




「彼女らに、アヴィスを先に見付けさせる訳にはいきません。フィアが戻って来たら、すぐに彼を探しましょう」


「それは良いのですが······何か当てはあるのですか?」


「······フィアが情報を集めて戻って来るまで何とも言えませんが、私の見解ですがアヴィスはもうこの国に居ないような気がします」


「······その理由は?」


「アヴィスは彼女たちから逃げている。この国に留まっては必ず見付かる。私はそう思っています」


「確かに、その通りとは思いますが······」




そう、私がアヴィスなら逃げ続けるのではなく、いっそのこと隠れ住むほうが懸命と判断する。

そのほうが労力も金銭的にも得するからだ。




「しかし、隠れ住むにしてもやはり食材や資金を集めなくてはならない。だから、国の近くに居ると推測します」


「なるほど······しかし、だとすると兄さんは何処に居るやら······」


「さあ、それは私にも分かりません。もしかしたら、私たちでさえ予想も付かない場所に居るのかもしれません」




アヴィスは頭も切れる人だ、誰もが予想出来ない破天荒なことを思い付くこともしているかもしれない。

もしかしたら、意外に私たちの近くに居るのかも。




「なんにせよ、フィアが戻って来るのを待つしかありませんね」


「······ええ、そうですね」




聖女の目的が何であれ、私たちはアヴィスに会うためにここまで来たんだ。

だから、どんな方法を使ってでも彼に会ってやる。

それに······アヴィスと共に居るという謎の女のことも、私は知らなくてはならない。

彼女が何者なのか、何故アヴィスと共に居るのか、アヴィスとどんな関係なのか。

場合によっては、その女とじっくりと話し合う必要があるかもしれない。




「では、ひとまず観光の続きと行きましょうか」


「は、はぁ······結局観光はするんですね」


「当然ですよ」




私は呆れるユリウスと共に、この王都を散策の再開をするのであった。




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