第45話  『セクリオン』に到着~シェリアside~




「······シェリア様、ここが魔導国家『セクリオン』でございます」


「へぇ、ここが······」




私、シェリア・ヴィ・シリオスは従者のフィアと元帝国騎士団団長のユリウスを引き連れて、隣国の『セクリオン』へと到着していた。

二人の半端ではない強さに助けられ、思ったよりも早い到着となった。

ここまでは順調だ。




「シェリア様、ここからが本番です。まずは、アヴィス様の手がかりを掴むために情報を集めましょう」


「ええ、それが先決ですね。とは言っても、ここも存外広い国。そう簡単に集まるとは思えませんね」




『シリオス帝国』に比べ、魔導国家『セクリオン』は国の面積は狭いものの、それでも大国と呼ぶべき場所だ。

そこの王都なら、なおさら広い。

そこで一人の男の情報収集をするなど、まるで草むらに落ちた針を探すような行為だ。




「だからと言って、諦める訳にはいきません。フィア、あなたにお願いがあります」


「はい、アヴィス様の情報収集をすればよろしいのですね?」




さすがは長年私に付き従ってきたメイド長。

私の言いたいことは、既に理解しているようだ。




「話が早くて助かります。よろしいですか?」


「もちろんでございます。では、一日お時間をくださいませ。その間、シェリア様はどうなされますか?」


「私はユリウスと共に、この国を観光致します。隣国とはいえ、赴くことがなかった国ですからね。少しは知っていたほうが何かと得でしょう。ユリウス、あなたはいいですか?」


「ハッ、お供致します」




こうして私たちは二手に別れ、それぞれ行動を開始した。

私はユリウスと共に、王都を観光する。

『シリオス帝国』に比べ面積は狭いが、この国は随分と人が多くて活気があるようだ。

国民の笑顔を見るだけで、国のトップがどんな王なのか何となく分かる。




「ここはとても良い国のようですね、ユリウス」


「はい、そのようです。ここに、兄さんが······」




遠い目をするユリウス。

本当に兄であるアヴィスのことが大事のようだ。

そして、それは私やフィアも同じ。

だからこそ、ここまでやって来れた。




「ユリウス、少しお茶でもどうかしら?」


「お茶、ですか······?」


「ええ。あなたは兄、アヴィスのことを良く知る人で、彼の数少ない理解者ですもの」


「ははっ······兄さんが聞いたら悲しむ発言ですね」


「······少し言葉が過ぎたわ、ごめんなさい」




素直に謝罪をする。

私はどうも、思ったことを素直に口に出す性格のようだ。

別に揶揄や悪口を言うつもりではなかったのだが、家族や本人からしてみれば心に傷付く発言だった。




「本当のことですから謝らないでください」




しかしユリウスは、笑って許してくれた。




「兄さんのことを分かってくれる人なんて、本当にあまり居ませんでしたからね。僕やシェリア様、フィアさんくらいなものですよ」


「······そうね、国王やあなたの姉、幼馴染みたちや他の冒険者も、アヴィスのことをまるで良く分かっていなかった。彼には、物凄い力があるというのに······」




私の『神眼』では、アヴィスは世界を変える程の力を持つと見抜いている。

それでなくとも、彼は貴重な『七属性所有者』なのだ。

初級魔法しか扱えなくてもそれだけでも充分凄いことなのに、あの実力主義の国は何も分かっていなかった。

それがどれ程愚かなことなのか。




「兄さんに、物凄い力ですか······?」


「あぁ、そういえばあなたに話したことがありませんでしたね。丁度良い機会です、お茶を飲みながら話しましょう」


「······ええ、了解致しました」




私たちはアヴィスについて話すために場所を移動しようとすると―――




「待て、君たち。今、アヴィスと言ったか?」




背後から急に呼び止められた。

誰だろうと思い振り返ると、そこには甲冑を着た女性が立っていた。

その後ろには、彼女の部下と思わしき者たちも並んでいる。

格好からするに、彼女たちはこの国の兵士だろうか?




「シェリア様、お下がりください」




ユリウスは私の護衛として、警戒しながら庇うように前に出る。

しかし私は首を横に振った。




「いいえ、ユリウス。大丈夫ですよ」


「しかし······!」


「彼女たちの格好から推測するに、彼女たちはこの国の兵士。間違っても手荒な真似はしないでしょう」


「······だと良いのですが」




心配性のユリウスを横目に、私は彼女たちに向き直る。




「私たちに何か用でしょうか?」


「突然すまない。私はラクリールという者だ。君たちがアヴィスという名を口にしてな。少し伺いたいことがある」




彼女らも、どうやらアヴィスのことを知っているようだ。

これは僥倖、まさかこんなに早く情報を掴むチャンスが来るとは思わなかった。

しかし、アヴィスは彼女たちとどういう関係なのだろうか?

気にはなるが、ここは慎重に行動しよう。




「私たちに?何の話を聞きたいのかは存じ上げませんが、私たちも彼を探しているのです。詳しい話は、彼を見付けてからに致しませんか?」


「君たちも彼を探しているのか······では、居場所は知らぬのだな?」


「ええ、あなた方の利になるような情報は持ち合わせてはおりません」


「そうか、それならば良い。だが、アヴィスについて知っていることは全て吐いてもらう」


「······何ですって?」


「貴様、誰に向かって······!」




私の身分など知る由もないラクリールと名乗った彼女は、実に堂々と上から目線で訊ねてくる。

それが気に障ったのかユリウスが激昂して詰め寄ろうとするが、私は手で彼を制止する。




「止めなさい、ユリウス。往来で揉め事を起こしてはなりません」


「し、しかし······!」


「ラクリールと言いましたね?何のために、アヴィスの情報を知ろうとするのです?」


「······貴様には関係のないことだ」




私たちから情報を引き出そうとするくせに、自分たちは話そうとしないのは気に入らない。

しかし、話したくないのならばそれで良い。

勝手に覗かせてもらうだけだ。




(―――『神眼』、発動)




私は『神眼』を発動する。

これは私が生まれた時から備わった能力故、魔法とは違い詠唱を唱えなくても使える代物。

この能力には私ですから全て把握し切れない力がいくつか存在し、その一つが『他人の本質を見抜く』こと。

そして、今私が使った力は『過去視』。

これは他人の過去を見抜くもので、負担はあるものの全てを見通すことが出来る。




(······なるほど、そういうことですか)




それによって判明したのは、アヴィスが『アルドーバ』で人助けをしていたこと。

それを知った教会や聖女が彼に詳しい話を聞くために、わざわざ面識のある彼女たちを動かしていたということだった。

それにアヴィスは一人ではなく、女性と行動を共にしているらしい。

······その女が一体何者なのか非常に気になるが、今は置いておくことにしよう。




(······教会に聖女。何の目的でアヴィスを······?)




たかが話を聞くために、こうまでしつこく彼を追うのは理解出来ない。

何にせよ、アヴィスが彼女たちから逃げ回っている以上、私たちが情報をペラペラと話す訳にはいかない。

それに、私は彼女たちが何となく嫌いだ。




「······申し訳ないのですが、私たちから話すことは何もありません。お引き取りください」


「そうはいかない。私たちもこれが仕事なのでな」


「あら、逃げる人を追いかけ回すのがあなたの仕事ですか?」


「貴様······何故、それを?」


「ふふっ、何故でしょうね?」




ラクリールは怪しむように私を睨むが、私は笑って余裕を見せる。

アドバンテージはこちらにあるのだ、こちらが折れる道理はない。

そんな中、彼女たちの後ろに居る部下たちが騒ぎ出した。

何事かと思って視線をそこに向けると、白い服を着た女性が私たちのほうへ近付いていた。

そして彼女は、口を開く。




「ラクリール、それまでにしなさい。民を守るはずのあなたがその態度とは何ですか?」


「ッ―――!?せ、聖女様······!?」




どうやら、彼女が件の聖女のようだ。




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