第44話 師匠VS弟子~幼馴染みside~
「来い、愚かな馬鹿弟子共。アヴィスや貴様らに見せたことがない私の本気、その一角を見せてやろう」
その言葉を聞き、私の自尊心が大きく傷つけられたような気がして唇を噛む。
何が起きたのか分からないが、こんなことで諦める訳にはいかない。
彼女が動く前に、私たちが動かなければ勝機が薄まっていくと感じた私は叫ぶ。
「ッ······ライラ、次は本当の本気を出すわよ!」
「······分かってるし!リュドミラ!」
「ええ、言われずとも······!」
どうやら二人も私と同じ気持ちなようで、すぐに体勢を整えて師匠と向き合う。
「ほう?まだ立ち向かって来る気か?」
「当然だし!」
今度はライラが単独で突っ込む。
「だぁあああっ!」
そして跳躍し、飛び蹴りをする。
しかしそれを、ゆうに躱す師匠。
飛び蹴りを失敗したライラはすぐに地面に着地し、今度は両手の拳を何発も放つ。
いわゆる、乱打というやつだ。
「はぁっ!」
だが、それも掠りもせず躱していく師匠。
彼女の動きは、もはや魔法使いのそれではない。
魔法使いが近接戦闘が得意な戦士以上の動きを見せるなど、本来あり得ないことだ。
しかし、師匠ならどこか納得がいく。
ライラは今も拳を放っているが、師匠は涼しい顔で躱し続けている。
「ふん、まるで子供のようなパンチだな」
「ッ······!?」
師匠は躱すのも飽きたのか、それとも実力の差を見せ付けるためか、ライラの拳を余裕で受け止めた。
「なっ······!?」
「何を驚く?まさか、私が拳を受け止められないとでも思ったのか?だから、貴様らは馬鹿なのだ」
「くっ······!」
ライラはその言葉に顔を真っ赤にして逆上しそうになるが、なんと師匠は軽々とライラの身体を宙に浮かせた。
「なぁっ······!?」
驚くライラをよそに、師匠はライラの身体を地面に叩き落とした。
「がっ······!」
その衝撃にライラは短い悲鳴を上げて、地面に倒れ伏した。
気絶をしているのか、ピクリとも動かない。
「ふん、この程度か?Sクラスのパーティとはいえ、所詮私の足元にも及ばんな」
そう言うと、師匠はリュドミラに視線を向けて本を持っていない左手を彼女のほうへ翳した。
何か魔法を使用するのだろう、それに気付いたリュドミラも対抗しようと杖を振るう。
「くっ······させませんわ!炎よ、天から降り注ぎし風雨の如く敵を滅しなさい!―――『
リュドミラが詠唱を唱えると、上空から巨大な炎を出現させる。
これは中範囲殲滅魔法であり、Aクラスの魔物数体を殲滅するほどの威力がある中~上位の魔法だ。
Sクラスの冒険者でさえ、まともに喰らうと怪我だけでは済まないはずなのだが、師匠はそんな魔法に対しても余裕の表情を崩さなかった。
「ふん、この程度で私をどうにか出来ると思ったのか?だとしたら傲慢だな」
師匠は悪態をつくと、翳した左手を迫り来る炎に向けた。
そして、ボソッと何かを呟くとあり得ないことが起きた。
師匠に向かった炎が急に方向を変え、リュドミラ自身に向かった。
「なっ······!?くっ······!風よ、壁を作り攻撃を防ぎなさい!―――『
リュドミラの前方に風の防御魔法が展開されるが、師匠はそれを見て舌打ちをしながら言った。
「馬鹿者が······いくらテンパったからといって、上位クラスの魔法を初級魔法で防ぐ馬鹿が居るか」
「くっ······きゃぁあああっ!」
リュドミラが放ち返ってきた炎は、風の壁を易々と突破してリュドミラに襲いかかった。
『風壁』のおかげで多少は威力が抑えられたが、命中した炎は爆発してリュドミラは地面に倒れた。
「ライラ!リュドミラ!」
私は彼女たちに駆け寄ろうとするが、師匠がその行く手を阻む。
「ふん、何が『栄光の支配』だ。この程度で良くSクラスのパーティを名乗れたものだ。私ならば、恥ずかしくて街も出歩けんわ」
「くっ······!」
彼女の言葉に激昂しそうになるが、冷静を保とうとなんとか気持ちを抑え込む。
考えろ、彼女の魔法はなんだ······!?
ライラの身体を軽々と持ち上げる身体能力、リュドミラの炎を跳ね返す謎の魔法。
安直に考えれば二種類の魔法を使ったと思うが、その魔法の正体を掴めないうちは迂闊に飛び込めない。
私一人で、彼女に勝つ方法が思い浮かばない。
「······いや、そうか」
私はすぐに冷静を取り戻した。
さっきまで勝つ気でいたが、何も師匠に勝つだけが勝利条件ではない。
彼女は言った、『私に傷一つ付けることが出来れば、アヴィスの行き先を教えてやる』と。
そうだ、別に倒す必要は無い。
傷一つ付けることさえ出来れば、私たちの勝利なのだ。
「そうと決まれば······!」
私は後ろに跳躍し、師匠との距離を開く。
下手な小細工は無しだ、私が持つ最高の大技で決める。
「火よ、水よ、風よ、雷よ!我が剣にその全てを捧げ、我が眼前の敵を滅せよ!―――『
私が持つ火、水、風、雷の四属性を私の長剣に付与し、特大の衝撃を放つ必殺技。
これをまともに喰らえば、いかにSクラスとはいえ死ぬ可能性が高い。
だが、相手はライラやリュドミラを圧倒した師匠だ。
このくらいでないと、傷も付けられないと判断して私の技を放つ。
「ふん、四属性を一つに収束することで威力を上げたのか。器用な奴でも中々出来ないが、馬鹿弟子にしては意外にやるな」
ようやく余裕の表情を崩した師匠は関心の言葉を漏らすと、魔法書のページを捲って左手を翳す。
また何かの魔法を使用するつもりだろうが、私のこの攻撃は簡単には跳ね返せない威力だ。
その攻撃は見事師匠に命中し、彼女を中心に爆発を引き起こした。
「ふ······ふふっ、やったわ!これで、少しは傷付けばいいのだけど······」
しかし、それは傲慢だったとすぐに思い知る。
爆発が収まり広がった煙も消えると、師匠はなんと無傷で立っているのが見えた。
「中々の威力だな、さすがは元Sクラスと言うべきか······」
「ば、馬鹿な······無傷だなんて······!」
さすがの私も必殺技が効かなかったことでプライドがズタズタに切り裂かれ、愕然として地面に膝を突いて長剣も手放してしまった。
これが効かなかったのなら、私がどう足掻いても師匠には敵わないと判断したからだ。
そんな私の様子を見た師匠はそれ以上、私に何かしようとはせず魔法書を閉じた。
「ふん、ようやく自分たちの未熟さを理解したか。実力も根性も、アヴィスのほうが幾分かマシだったな」
アヴィスの名を出されたことで、プライドがボロボロだった私は堰を切ったように涙を溢してしまった。
「ちっ、アヴィスに相当の仕打ちをしたくせに、随分と弱い心だな」
「だ、だって······それは······っ」
「ふん、泣けば許されると思っているのか?そんな精神で、良くSクラスを続けられたものだ。アヴィスは、貴様らの冷遇にも我慢して耐えていたというのにな」
師匠は泣き崩れる私に、辛辣な言葉を投げ掛けてくる。
しかし確かに、彼女の言う通りかもしれない。
私は、アヴィスに酷いことをしたのだとようやく思い知らされた。
だが、後悔しても今さら遅い。
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