第43話 栄光の行方~幼馴染みside~
「······ダメ、何処を探しても見付からない」
私、ユリナ・アーデンヴァルトは途方に暮れていた。
あれからパーティを抜けた幼馴染み、アヴィスを数日手分けして探し回っていたが、結局この『シリオス帝国』の何処にも姿は見付からず、情報の欠片すら掴めなかった。
「何処に居るのよ、アヴィス······ッ」
この私たちがここまで探し回ってあげているというのに、何故姿を現さないというのか。
本当に、居なくなっても手間をかけさせてくれる······!
「ユリナ、お待たせ致しました!」
「こっちも居なかったよ!」
「そう······」
手分けして探していたライラ、リュドミラも合流したが、結果は芳しくなかった。
その報せを聞き、さらに歯痒くなり苛つきも増してくる。
「本当に、何処に居るのよ······!」
「もしかしてあいつ、一人でクエスト受けて失敗して死―――」
「それ以上言うな······!」
「ッ······ご、ごめん」
ライラのその先の言葉を聞きたくなくて、つい語気を強めて怒鳴ってしまった。
それ以上は、本当に聞きたくもないし想像もしたくない。
だが、ライラがそんな不安に駆られるのも無理はない。
リュドミラもその可能性を考えなかった訳ではなかったのか、顔が青くなっている。
しかし、彼女は顔を青くしたまま私に声をかけてきた。
「······ユリナ、私に一つ心当たりがありますの」
「心当たり······?」
「ええ、もしかしたら彼女なら何か知っているかもしれませんわ」
「彼女って、誰よ······?」
アヴィスには、私たち以外に頼れる人はこの国に居なかったはず。
もしかして、彼の弟であるユリウス・クローデットなら何か知っている可能性があるかもしれないが、彼は私たちのことを嫌っているため情報を話してはくれないだろう。
力に任せて聞き出しても良いが、彼も私たち並みに強いと聞く。
私たち三人が相手でも、彼が帝国近衛騎士団を引き連れてしまえば敵う相手ではない。
だから彼に関する情報が得られなかった訳だが、リュドミラが言う心当たりがある人物とは誰のことだろう?
「アヴィスや私たちのお師匠様、クロデューヌ・ド・シモンですわ」
「帰れ、貴様らに話すことは何もない」
私たちは早速、国近郊の師匠が居る山小屋に赴いていた。
しかし、開口一番彼女の言葉がそれだった。
「師匠!」
「ふん、貴様らの顔など二度と見たくは無かったのだがな······馬鹿弟子共め」
アヴィスの行き先を知らないか聞きに訪ねに来ただけだが、返ってくるのは辛辣な言葉のみ。
私たち三人は、師匠に嫌われている。
その理由は確認するまでもなく、アヴィスが関わっている。
師匠は言葉と態度こそ冷たいが、アヴィスのことは気に入っていた。
しかしそれが気に入らなかった私たち三人は、余計にアヴィスに強く当たってしまった。
それを師匠が気付き、私たちを嫌うようになってしまったということだ。
「しかし、私たちもそう簡単に引き下がる訳にはいかないのです!師匠、お願いします!」
「くどいわ、お主らに語ることは何一つ無い。尻尾巻いて帰れ」
私たち三人が土下座をしても、師匠の顔色が変わることはなかった。
私たちを見る師匠の目がとても冷たい。
まるで、ゴミでも見るかのようだ。
しかし、やはりここで引く訳にはいかない。
ここで何も情報を得ることがなければ、本当に私たちに打つ手が無くなってしまう。
「お願いします、師匠!」
「·········」
必死に頭を下げて媚びるように頼み込んだのが功を奏したのか、師匠からの罵倒も帰れという言葉も無かった。
しかし代わりに無言になった師匠は、座っていた椅子から立ち上がって歩き出した。
向かう先は、玄関だった。
「来い、馬鹿弟子共。私が直々に貴様らの根性を叩き直してやる」
その言葉は、まさに自分らに対する処罰のように聞こえた。
「しかしもし貴様らが私に傷一つ付けることが出来れば、アヴィスの行き先を教えてやる」
「ッ―――!」
絶望的かと思っていたが、師匠からまさかの言葉が出てきて思わず頭をガバッと上げていた。
まさに、飴と鞭。
だが、この機を逃す手はない。
「本当ですか······!?」
「ふん、私がこんなことで嘘をつく訳なかろうが。付いてこい、馬鹿弟子共」
相変わらず辛辣な師匠だが、私たちは互いに顔を見合わせて立ち上がった。
師匠と戦ったことなど一度も無いが、傷一つ付けることなら師匠が相手でも私たち三人なら勝機が少しはありそうだ。
なにせ私たちは師匠の力を今まで一度も見たことがなく、ただ昔は勇者パーティの一員だったということで指導を受けていただけに過ぎない。
『賢者』だかなんだか知らないが、一線を引いてかなりの時が過ぎている彼女にならもしかしたら圧倒的に勝つことが出来るかもしれない。
「さあ、来い。馬鹿弟子共」
そして私たちは、師匠と対峙した。
私は長剣を抜き、ライラは自分の拳を構え、リュドミラは杖を握る。
対する師匠は、本一冊だった。
確かアヴィスに以前聞いたことがあるが、彼女の持つ本は勇者パーティ時代から持っているとされる魔法書であり、その中には彼女が今まで使っていた百以上を越える魔法の詠唱が書かれているらしい。
だが、こちらは三人。詠唱中に攻撃すれば、彼女も抵抗することが出来ずに負けを認めるだろう。
「いくわよ、ライラ、リュドミラ」
「オッケー」
「了解ですわ」
私たちは再度、構えて彼女と対面する。
そして、合図も無く私とライラは同時に駆けた。
「風よ、疾走する者を支え吹きなさい!―――『
補助魔法が得意なリュドミラが放った魔法により、私たちが走る背中に風が吹き当てられて駆けるスピードが格段に上がった。
対する師匠は、本を開いたままで詠唱をすることもなく微動だにしない。
「貰ったわ!我が拳に力を与えよ!―――『
ライラが使ったのは、強化魔法の一つの腕力を強化する魔法。
これを使うことで、コンクリートの壁を簡単にぶち抜くことが出来る。
ただ人体にそのまま使うことが出来ないため、今はかなり威力をセーブしているようだ。
私もそれに同調し、長剣を構えて詠唱を唱える。
「燃え盛る炎よ、我が剣に集い宿え!―――『
私の魔法は、物体に属性を付与する付与魔法。
付与出来る魔法は火、水、風、雷の四属性のみだが、これにより破壊力が抜群に増す。
「でやぁあああっ!」
「はぁあああっ!」
ライラと息を合わせた拳と長剣の二重攻撃。
近接戦闘職でなく魔法使いの師匠が相手なら、さすがにこれは対処出来ないだろう。
何故なら師匠は、まだ詠唱を口にしていない。
勝ったと確信したのだが、次の瞬間―――
「えっ······!?」
「なっ······!?」
私とライラは、バランスを崩して地に倒れ伏していた。
何が起こったのか分からず、ライラと二人で立ち上がることもせず師匠を見上げていた。
リュドミラも呆然としていたが、師匠はふんと鼻息を鳴らして私たちを見下す。
「どうした?そんなものだと、私に傷一つ付けることすら叶わんぞ」
「くっ······!」
そんなことを言われて悔しがる私たちを見下したまま、彼女はさらに冷たい声色で続けた。
「来い、愚かな馬鹿弟子共。アヴィスや貴様らに見せたことがない私の本気、その一角を見せてやろう」
そして師匠は、ようやく戦う意思を見せたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます