『サリュスアル大陸』へ

第41話  資金調達のために




「ふむ、お主と二人きりになるのは初めて会うた時以来じゃな」


「そうだね」




僕は今、リザリスと共に資金調達を兼ねて依頼された魔物狩りをしていた。

依頼内容は、Aランクの『不死王ノーライフキング』の討伐。

報酬価格は、『黒牛鬼ベヒーモス』より破格だ。

その理由は、『不死王』はアンデッド族の頂点に立つ存在だからだ。

奴を葬るためには、光属性の魔法を持つ仲間が必要不可欠だ。

しかしながら現在、僕はリザリスと共に依頼で指定された場所へ来ていた。




「あのさ、リザリス。本当にルーナじゃなくて僕で良かったの?」


「む?どういうことじゃ?」


「いや、僕は光魔法だけじゃなく初級魔法しか使えないから」


「ふはは、問題はない!妾とお主が居れば敵無しじゃ!」




果たして、その自信はどこから来るのか。

だが、リザリスが共に戦ってくれるのは非常に心強かった。




「む、血の匂い······旦那様、下がっておれ。おそらく魔物じゃ」




リザリスがそう制し、僕はその場で立ち止まる。

と同時に、魔物が僕たちの前に現れた。




「『屍喰狼グールウルフ』······!」




『屍喰狼』は単体ではCランク程度の魔物だが、群れを成した奴らはAランクへと跳ね上がる。

団体で狩りを得意とし、襲った相手をわざわざ腐らせてから食べることを好む狂暴な魔物だ。

僕らの前に現れた『屍喰狼』は一匹ではなく、視認するだけでも軽く30匹近くは居る。




「くっ······!」




いくら『吸収魔法』が強いと言っても、物理的な攻撃しかしないこいつらでは手に余る。

自身の魔法を吸収して肉体強化しても、数が多すぎて捌き切れない。

やはりルーナも連れてくるんだったと後悔していると、リザリスはふっと笑って僕の前に堂々と立った。




「安心せよ、旦那様。このような駄犬共、妾一人で充分じゃ」


「リザリス······!?」


「妾を信じろ、旦那様」




リザリスは僕に笑顔を向けてそう言うと、背中から血のような赤黒い翼を生やして宙を飛ぶ。

そして奴らを上から見下ろして言う。




「我が血よ、惨禍をもたらす裁きの雨と成りて降り注げ。―――『血雨ブラッディ・レイン』」




リザリスが自分の指を口で切って血を振り撒くと魔方陣が起動し、そこから大量の血が地面へ降り注いだ。

その血が一匹の『屍喰狼』に当たると、その部分が腐り落ちて絶命した。

その様子を見た『屍喰狼』は逃げようとするが、降り注ぐ血の雨から逃れることは叶わず次々に血の雨に当たっては倒れていく。




「凄い······」




僕は思わず感嘆の声を漏らした。

見ている光景は一方的な殺戮なのに、何処か綺麗に見えたからだ。

血の雨が降り終わると、リザリスは地面へと着地した。




「ふふん、どうじゃ?妾の『血液魔法』は?」


「これが、『血液魔法』······!凄い、本当に凄いよ!」




初めて見る魔法に、僕は興奮を隠し切れず彼女のほうへ駆け寄っていた。




「前にも見たけど、それって血を媒介にした魔法だよね!?それって自分の血じゃないと駄目なのか!?というか、僕たちと戦った時にそれを使えば良かったんじゃない!?それに、あの時はもしかして本気じゃなかったの!?」


「ぬぉっ!?お、落ち着け、旦那様よ······興奮する気持ちは分からないでもないが、ひとまず離れてくれんか?」


「あっ······ご、ごめん······!」




そう言われて気が付けば、僕はリザリスの顔に急接近していた。

それはもう、キスしそうなほどの距離まで。

我に返り、恥ずかしさで離れて顔を逸らす。




「べ、別に夫婦なのじゃから別に構わん······」




チラッとリザリスのほうを見ると、彼女もまた恥ずかしさからか顔を赤くして逸らしていた。

僕よりも長生きしているのに、その様子はまさに恋する少女だった。




「さ、さあ、早く依頼を片付けてしまおう!」


「う、うむ、そうじゃな!妾の魔法について知りたいならば、後でたっぷりと教えてやろう」


「た、楽しみにしてるよ······!」




僕らは互いに照れながらそんな会話を交わし、依頼の指定場所へと急ぐ。

端から見ると、初々しいとか言われるんだろうなぁと内心思いながら。













「ここが例の場所か······」




僕とリザリスは襲ってくる魔物を蹴散らしながら、ようやく目的の場所である廃れた村へやって来た。

ここにAランクの『不死王』が居るはずなのだが······。




「ふむ、廃村になってまだそんなに日は経っておらぬの······」


「なんで分かるの?」


「血の匂いじゃ」




さすが吸血鬼の王。血の匂いから判断したようだが、普通の吸血鬼はそんなことは出来ない。

やはり彼女もまた別格のような存在だ。




「しかし、『不死王』とやらは何処におるんじゃ······?」




二人で村を散策するが、それらしい魔物は見当たらない。

しかしギルドの情報は確実なので、何処かには居るはずなのだが······。

辺りを見渡していると、目前の地面から何かが這い出してきた。




「これは······『屍人グール』!?」




『屍人』は名前の通り、死んだ人間がゾンビ化した魔物。僕ら冒険者の間ではメジャーな魔物で、力もスピードも耐久力も無い。

だが、この数はいくらなんでも多すぎる。




「ふむ、どうやらここの村人だった奴らが『屍人』化したようじゃのう」


「そんな······」




その事実に、胸が締め付けられる。

冒険者は弱き者を魔物から救う仕事だ。

僕らが当時居なかったとはいえ、この結末はあまりにも残酷過ぎる。




「悲観するでない、もう過ぎたことじゃ。妾たちがそこに居れば良かったというもしもの考えは切り捨てろ。この世は、所詮弱肉強食じゃ」


「弱肉強食······」




リザリスの言っていることは分かる。

『あの時ああしていれば』『どうしてあの時あの場所に居なかったのか』なんていう後悔は、きっと無駄に等しい。

直視したこの現実を受け止め、理解しなくてはならない。




「······分かった」


「旦那様は優しいが、甘さがどうも目立つのう。その甘さが、命取りにならなければ良いのじゃが······」




心配そうにこちらを見つめるリザリスだが、そこまで言われるほど僕は甘いのだろうか?

自分のことなのに分からずいる僕に、リザリスは困ったようにやれやれといった具合で溜め息を吐いた。




「はぁ······まあ、その甘いところも旦那様の良いところなのじゃろうな」


「褒め言葉になってる?」


「一応は、な······」




などと会話をしている中、『屍人』たちは一斉に僕らに襲いかかってきた。

動きは遅いが、囲まれたりされるといくらDランクでも驚異となる。

それに僕はついこの前までFランクだったのだ、油断しているとあっという間にやられてしまう。




「旦那様、下がっていろ」




しかしリザリスは毅然とした態度で、堂々と彼らの前に立ち、再び自ら血を流す。

やはり、彼女の魔法は血を媒介とするようだ。




「我が血よ、我が敵となる者を斬る刃と化せ。―――『血剣ブラッディ・ソード』」




そして彼女の手に握られていたのは、血が凝固した西洋風の形をした長剣だった。




「さて······『屍人』となったお主らに、妾が救いの手を差し伸べてやろう」




そうして、再びリザリスの一方的な殺戮ショーが幕を開けるのだった。




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