第40話  忍び寄る崩壊の足音~国王side~




わしはシリオス帝国国王、ザイフェス・ド・シリオス。

この国を繁栄させるべく実力主義国家にしたり、臣民も我に忠誠を誓ったりと順風満帆な人生を送ってきた。

にも関わらず、今わしは憤慨していた。




「えぇい、まだ見付からんのか!?」


「は、はぁ······申し訳ありません、情報がなかなか無くてですね······」


「言い訳は無用じゃ!縛り首にされたくなければ、さっさと探してこい!」


「ひぃっ······!わ、分かりました!」




わしが恫喝すると、配下の者は怯えて玉座の間を出ていく。

本当に役に立たない臣下だ。

わしは、配下の者たちにある命令を下していた。それは―――




「くっ······何処へ行ったのだ、あの馬鹿娘は······!?」




そう、わしが命令したのは家出をした第三王女、シェリア・ヴィ・シリオスの捜索だった。

娘は、わしにこう言った。

『私は、あなたに愛想が尽きました。よって、あなたとの縁を切らせていただきます』と。

そうわしに叫び、兵士たちを振り切って出て行ってしまった。




「馬鹿者め······!そんなこと、認められるものか······!」




あの娘は、自分の価値を分かっていない。

あの女は、王家に稀に生まれるという『神眼』という能力を持ち、さらに『神聖魔法』という数少ない上級魔法の持ち主だ。

それを用いて我が国の頭脳として長らく君臨していたが、よもや栄光や名誉、地位を全て捨ててまで出て行くとは誤算だった。




「何故······何故、こうなった······?」




わしは悲嘆する。

まさかそれほどあの男、クローデット家の長男のアヴィス・クローデットを慕っていたとは。

奴とは、何回か顔を合わせたことがある。

名誉あるクローデット家に生まれ、Sクラスのパーティ『栄光の支配』に所属していたという実績があり、この世界に稀に存在するという『七属性所有者』という存在はわしも気に入っていた。

だが、報告によれば扱える魔法は初級のものでしかなく、また自身も最弱のFクラスであると聞かされた。

さらにクローデット家の当主によれば、奴は無能でひ弱だという。

そんな者をシェリアの婿にする訳にはいかず、我が王家に迎え入れるのは恥だと思って婚約を解消した。




「······だというのに、娘があの男を気に入っていたとは予想外じゃった······」




婚約破棄を知らされた娘は激昂し、わしに暴言を吐いて出て行った。

普通であれば、王家の者とはいえ国王に暴言を吐けば斬首刑なのだが、そうならなかったのはやはり娘が持つ類い稀なる力のおかげだ。

あれほどの能力を持つ女を死なせるなど、国の繁栄を目指すわしにとって損害の何物でもない。

だから必死に探して連れ戻そうとしているのだが、なかなか見付からないのが現状だ。

おそらくこれは、共に出て行ったシェリアの侍女であるフィアの仕業だろう。

あの女が本気で情報工作すれば、一国を騙せることが出来る。




「しかし······どうしたものか······」




だが、このまま手をこまねいているだけでは手遅れになってしまう。

シェリアが居ないと、我が国は繁栄するどころか崩壊の道を辿ることになってしまう。

それほど、『神眼』という能力は凄まじいものなのだ。




「へ、へ、陛下ぁ······!」


「なんじゃ、騒々しい!」




どうしたものかと悩んでいると、一人の宰相が慌てた様子で玉座の間へ入ってきた。

イライラしながら返すが、宰相は真っ青にした顔で慌てながら口を開く。




「ご、ご報告申し上げます!第三王女、シェリア様の行方が判明致しました!」




その報告は、まさに吉報だった。

それを聞き、わしのイライラが一気に解消していく。




「おぉ、でかした!ならば、早く娘を連れ戻せ!」




いかにシェリアとフィアが優秀といえど、国の兵士1000人ほど差し向ければ抵抗は諦めるだろう。

あの女が帰ってくれば、このくにも安泰だ。

しかしその前に、わしに従順になるようにあの女を矯正してやらねばなるまい。

そう、わしの言いなりになるように。

そう考えれば考えるほど思わずニヤついてしまうが、宰相の顔は青ざめたままだった。





「む?どうしたのじゃ?はよう準備せい」


「そ、それが······」


「ええい、わしの命令が聞けぬのか!?」




宰相が素直に頷かないため、再び苛つきが募って声を張り上げるが、宰相はおずおずとした様子で口を開いた。

その顔は、絶望の色に染まっていた。




「も、目撃情報によればシェリア様たちは······この国を出て魔導国家『セクリオン』方面へ向かったそうです······」


「······は?」




宰相の報告を聞き、わしは目を丸くした。

聞き間違いか冗談かと思ったが、宰相の様子を見る限りそうではなさそうだ。




「あ、あの馬鹿娘がぁあああっ······!」


「ひ、ひぃっ······!」




わしは再び憤慨して叫んだ。

我が国と魔導国家『セクリオン』は、非常に国家間の仲が悪い。

我が国シリオス帝国は実力至上主義に対し、『セクリオン』は魔法至上主義だ。

元々気に入らない国だったが、反りや意見が合わないために犬猿の仲になっていた。

よりによって敵国といっても過言ではない場所を亡命先に選ぶとは、あの馬鹿娘は一体何を考えているのだ?

まさか、その国にアヴィスが居るのか?

奴を追いかけるために向かったと考えれば納得はするが、万が一あの女が『セクリオン』に助力することになれば我が国は危うくなる。




「くそっ······それだけは、絶対に避けねば······」




こうなれば、もはや後先考える余裕は無い。

一刻も早く、奴を連れ帰らねば······!




「宰相!兵を編隊して『セクリオン』に向かい、馬鹿娘を連れ帰ってこい!」


「は······?い、いえ、しかしそうすればあの国の女王は侵攻してきたと勘違いし、下手をすれば戦争になりかねません······!」


「構わぬ!実力至上主義である我が国が、魔法主義のあの国に負けるはずがないわ!戦争をしても、我が国が有利じゃ!」


「し、しかし······!」


「ええい、くどいわ!兵だけで足りなければ、我が国に属する冒険者を雇ってもいい!戦力を整えなければ、『死鬼の森』すら攻略出来ん!今は、あの娘を連れ戻すのが先決なのじゃ!」


「は、はっ······承知致しました」




わしの意見に納得した宰相は、急いで玉座の間を出ていく。

そうだ、丁度良い機会だ。

あの娘を連れ帰る際に、『セクリオン』を攻めて我が国の領土を広げればさらに国は繁栄を極めるだろう。

問題は国境にある『死鬼の森』だが、そこも領土を拡大した我が国が攻めれば如何に魔境といえど我が手中に治めることも可能だ。




「く、くくく······一石が二鳥にも三鳥にもなるわ······その日が楽しみじゃな」




そう、我が国が負けるはずがない。

なにしろこちらには、我が国の兵四万に冒険者一万が控えているのだから。

そのどれもが、かなりの実力を持っている。

この軍勢ならば、『セクリオン』など簡単に沈めることが出来るだろう。

しかし、この時のわしは気が付かなかった。

ほくそ笑むわしを、冷めた眼差しで見つめる者が二人居たことを。




「······どうします、姉様?」


「そうね······お父様ももはやこの国の害になりつつあるようだし、そろそろ不要かしら?」


「そうですね。では姉様、私たちの計画も進めておきますか?」


「ええ、そうしてちょうだい。······お父様、この国は、第一王女の私『ミシェル・オゥ・シリオス』と第二王女の『アイラ・クゥ・シリオス』が貰い受けるわ。······くふふ、くはははは······!」






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