第37話 ラクリール再び
そんなこんなで、吸血鬼の王リザリスも仲間に引き込んだ僕たち一行は、ギルドにて正式にパーティ申請を行った。
これで、『無限の使徒』の誕生である。
「······にしても、本当に冒険者として登録しなくても良かったの?リザリス」
ついでにリザリスも冒険者登録しようと提案したのだが、彼女に断られてしまった。
「うむ、妾は吸血鬼。魔物の一種になるからのう。魔物が冒険者なぞ面白そうではあるが、万が一バレたら面倒なことになる。注意することに越したことはあるまいて」
「まあ、そうだけどさ······」
もう日も暮れて遅くなったので宿屋に向かう道中、僕とリザリスは耳打ちをしながら会話をする。
もしも街の人にリザリスが吸血鬼だと知れれば、大変なことになるのは用意に想像が付く。
彼女が吸血鬼だということは、極力隠さねばならない。
「それよりも旦那様、妾は腹が空いたぞ」
「そうだね。良い時間だし、宿屋に着いたらご飯にしようか」
今日一日で、イヴとリザリスが仲間になった。
そのお祝いも兼ねて、パーっとやるのも良いかもしれない。
しかし、リザリスのほうはあまり乗り気ではない様子だった。
「人間の食事か、食べたことがないのう」
「えっ?じゃあ、リザリスは普段何を食べているの?」
「血じゃ」
「血!?」
「うむ。吸血鬼は基本的に血を栄養としておる。血の一滴でも飲めば一週間は活動出来るが、逆に血がないと一週間後にはすぐに干からびてミイラ状態じゃ」
それはかなり便利なような不便なような。
しかし、彼女のために人間の血を提供するのはさすがに厳しい。
「なに、安心せよ。妾は基本的に魔物や動物の血を栄養としておる。旦那様のためにも、今後は一切人間の血は吸わんよ」
「そ、そうなの······?」
「ふははっ、当然じゃ。妾は旦那様を好いておるからのう。そんな大事な旦那様の心象を傷付けるわけにはいかんて」
恥ずかしげもなく言うリザリスに対し、僕は逆に顔が熱くなっていた。
本当に好意を持たれているのが分かる。
僕としてはまだリザリスの全てを理解していないから、彼女を妻に娶るのが不安でならないが、それを分かっているからリザリスは僕に自分に不利になるようなことも話してくれているのだろう。
信頼には信頼で応えたい。
だから僕も極力彼女を信じなければならない。
そう決意し、僕らは宿屋に向かう。
「君たち、ちょっといいか?」
途中、後ろから誰かに声をかけられた。
誰だろうと思い振り返ると、そこには甲冑を着た兵士たちが何人か並んでいた。
······あれ?何処かで見たような気が······。
嫌な予感が頭に過っていると、兵士たちの一番前に居た兵士が甲冑の兜を脱ぎ出した。
そこに居たのは―――
「やっと見付けたぞ、君たち」
「げっ······」
ルーナが嫌な顔をする。
それもそのはず、僕たちは彼女たちから逃げた過去があったからだ。
「······『ラクリール・クライシス』さん?」
「ほう、私の名前を覚えていてくれたのか。そこは評価しよう。だが、私たちから逃げたのは感心せんな。おかげで探すのに苦労したぞ」
どうやって僕たちを探し当てたのか分からないが、わざわざ『アルドーバ』から『セクリオン』まで探しに来たのか。
なんというか、律儀というか執念深いというか。
仕事のためとはいえ、ここまでするのだろうか?
「君たちのことは、『アルドーバ』の宿屋の主人から話を聞かせてもらった。アヴィス、それにルーナといったか。今度は大人しく教会まで同行してもらおう」
「あら、話だけならここでしても良いんじゃないかしら?それとも、わざわざ教会まで足を運ばなくちゃならない理由でもあるの?」
「愚問だ。君たちの処遇について、聖女様に委ねる。それに、上層部も話が聞きたいらしくてな」
「ハッ、そのためにわざわざここまで出張ったの?なんというか、ご苦労様ね」
さっきからルーナは喧嘩腰に話すが、何故彼女はこうも毛嫌いしているのか。
こういった上から目線の連中が嫌いなのか、または兵士という連中に嫌悪感を抱いているのか。
気になることだが、ここは付いていくべきかどうか悩むところである。
「ご主人様、私は拒否を提案致します」
「妾もじゃ、旦那様よ」
「イヴ?リザリスまで······」
話をするだけならと思っていたが、意外にも二人は同行を嫌がっていた。
「奥方様が嫌そうにしていらっしゃいますので、その顔から決して良い方向には進まないと判断致します」
「まあ、それもあるんじゃが······妾は、聖女というのが好かん。何故、彼女がわざわざ旦那様から話を聞きたがるのか理解出来んし、そもそも妾は吸血鬼。正体がバレたら殺しにかかってくるやもしれぬ」
確かに、彼女たちの言うことにも一理はある。
聖女というのは、この世界でたった一人神様によって選ばれた神の御使い。
彼女は教会に属しており、闇を払ったり怪我人や病人を治したりするのを生業としているが、教会は悪を倒すためなら強行手段に出るのも厭わないと聞く。
まさに今、僕らが連行されようとしているのと同じことだ。
また、教会は邪悪なものを祓う結界を施しているので、吸血鬼であるリザリスを一緒に連れていくことは出来ない。
「だけど、彼女たちはしつこいみたいだよ?なんせ、わざわざ教会警備隊長自ら来ているみたいだし······」
それは職務へ対する熱意からか、はたまた聖女へ対する忠義からか。
それは分からないが、とにかく彼女たちの意見を汲み取るべきだ。
たかが病人たちを治しただけで、ここまでされる謂れはない。
「ルーナ、ここは逃げよう」
「······そうね、面倒なことに巻き込まれたくないわ。私の『
「うん、頼んだよ」
「また何かの魔法で逃げようというのか?言っておくが、逃げようとすれば聖女様が自らやって来るぞ。さすれば、国王へ取り次いで君たちを連行するため指名手配することも可能だ」
「なっ······」
どうしてわざわざ、話を聞くためだけに聖女が来ることになるんだ?
それに、指名手配するのもやり過ぎなような気がする。
しかし驚く僕をよそに、他の三人は冷静な態度で言い返した。
「やれるものならやってみよ。まあ、お主らみたいな小童共、妾の敵ではないがのう」
「肯定します。あなた方が私たちに勝てる確率は0%です」
「当然ね。私、『月影の魔女』に敵う相手など、この世にアヴィスを除いて他には居ないわ。消し炭にされたくなければ、黙って大人しく退きなさい」
彼女たちの言葉に、兵士たちはどよめいた。
次々に、「つ、『月影の魔女』だと······?」「それが本当だとしたら、まずいのでは······?」「というか、あそこに居るのは機人族か······?」「あの黒いドレスの女性も並々ならぬ気配を感じるぞ······」と全員が不安がっていた。
しかしラクリール隊長はそんな言葉をものともせず、あろうことか腰に下げている剣を抜き放った。
「そんな戯言、聞く耳持たん。悪いが、私たちも仕事でね。強制的にでも連行する」
「ハッ、力量の差を感じ取れない脳筋女が。後悔しても知らないわよ?」
それに対応するように、ルーナは威圧を放った。
まずい、ここで乱闘騒ぎになれば面倒なことになる可能性がある。
彼女たちのおかげで冷静になれた僕は、二人を止めることを思案していた。
仕方ない、ここは逃げることを選択しよう。
「―――『
僕は魔法を発動し、闇の煙幕を作り出す。
「なにっ······!?君も詠唱破棄だと!?」
ラクリール隊長が驚く中、彼女を含む兵士たちの周りに闇の煙幕を張ることに成功する。
その隙を突いて、僕は三人に呼び掛ける。
「ルーナ、イヴ、リザリス!逃げるよ!」
「ええ、分かったわ」
「了解致しました」
「うむ、心得た」
僕ら四人は、煙幕の中から飛び出して逃げた。
彼女たちは煙幕のせいで見えないため、追いかけることは出来なさそうだ。
しかし彼女たちがこの街に居る以上、何か対策を練らないとまずいな。
そう思いながら、僕らはその場を後にした。
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