第36話 第二の妻
「さて、ここなら思う存分話せるぞ」
吸血鬼の王リザリスに連れられ、僕たちは街の廃墟へと足を運んでいた。
「吸血鬼の王リザリス。話とは何かしら?」
未だ警戒しているルーナの質問に、リザリスは無邪気な笑顔を浮かべていた。
「そう警戒するでない。言ったであろう?妾は復讐する気で来たわけではないとな」
「警戒するなというほうが無理があるわよ」
「同感です」
ルーナだけでなく、彼女の異様な雰囲気を感じたのかイヴもまた臨戦態勢に入っていた。
僕はもはや警戒も戦う気も無いので、彼女に問いかけてみる。
「リザリス、君が生きているということは僕たちの依頼は未達成ということになる。そうなれば僕たちは規約違反として罰金とランク降格になる。それを報告することで一つの復讐に成りかねないんだけど、そうしなかったのはやはり復讐が目的じゃないってこと?」
「何を言うておるのじゃ、お主?妾はこうやって復活はしたが、ちゃんと一回は倒されたぞ。ならば討伐したのと同じではないか。他の魔物もたくさん居る中で、依頼の数だけ討伐すれば達成したのと同じことじゃ。違うか?」
「······まあ、一理はあるけど」
「それに、今の妾は昔の妾ではない。生まれ変わったのじゃ」
「生まれ変わった······?」
「うむ、言うなれば転生に近い形じゃな。魂と記憶を引き継ぎ、遺体をベースに身体を再構築して復活を遂げるのじゃ。つまり、今の妾は昔とは同じようで別人といった感じじゃな」
リザリスはドヤ顔をして説明をする。
もし彼女の言っていることが本当だとすれば、いくら倒しても復活を遂げるならば意味がないということだ。
まあ、一応倒したことにはなるから依頼未達成という規約違反は免れたようだが。
しかし、そんな無敵状態のリザリスがこうして僕たちの前に現れ戦闘体勢を取らないということは、やはり復讐が目的ではないのか。
「あなたのご自慢の復活話なんてどうでもいいのよ。復讐が目的じゃないなら、何の用で私たちに近付いたのかしら?」
それでも警戒を解かないルーナは、リザリスを睨み付けながら質問をしていた。
どうやらルーナは、一度敵と定めた相手には容赦しないようだ。
それでもリザリスは、涼しい顔をしている。
「うむ、それなんじゃがな······」
と思ったら、何故か頬を赤らめて僕のほうをチラチラと見てきた。
それはまるで、恋する乙女のように。
「わ、妾はどうやらお主に惚れたようなのじゃ、アヴィス・クローデット」
「······はい?」
突然の告白に、僕は理解出来ずに思わず首を傾げてしまった。
「なっ······!?」
「······?」
ルーナは目を見開いて驚き、イヴは何が起こったのか分からないといった具合に僕と同じく首を傾げていた。
「ぼ、僕に惚れた······?な、何の冗談なんだ?」
「むっ、冗談などではない。妾は至って本気じゃ。お主の未知なる強さに惚れたのじゃよ」
「な、なんで······!?」
ようやく理解した僕は、恥ずかしくなって大声を出してしまった。
「今はほとんど居なくなってしまった吸血鬼じゃがな、吸血鬼は自分より強い異性に惚れ込む性質にあるのじゃ。自分より強い異性の子供を産みたい、それが吸血鬼の本能というわけじゃな」
「こ、子供······!?」
僕だけじゃなく、ルーナやイヴまでも彼女の言葉に驚天動地の勢いで驚いていた。
未解明な部分が多い吸血鬼には、そんな性質があったのか。
「まあ、そんなわけで妾はお主の子供を産みたい。協力してくれるかのう?」
「ちょっ······!?」
呆然とするルーナなイヴを尻目に、リザリスは甘えたように僕の身体に抱き付いてきた。
ルーナに負けず劣らずの美人にこんなことを言われては、男として反応してしまうのは自明の理。
「何してるのよ、あなた······!」
しかしルーナはそれを許さず、慌てながら僕とリザリスの間に割り込んできた。
イヴも同じく僕の前に立ち、睨み付けるようにリザリスを見つめる。
「アヴィスの妻は私よ!あなたなんかに、私のアヴィスは渡さないわ!」
「ふむ、それは存じておるぞ」
敵意剥き出しのルーナに対し、リザリスはきょとんとした顔で返していた。
「しかしな、この世界は一夫多妻制というのを忘れてはおらなんだ?」
「ぐっ······!」
確かにこの世界は一夫多妻制が基本だ。
ルーナもそれを理解しているからこそ、言葉が詰まったようだった。
「だ、だけどあなたは危険な吸血鬼じゃない!私のアヴィスに何かあったりしたら······!」
「ふむ、では血の契約を果たしても構わんぞ」
「血の契約······?」
僕が再び首を傾げると、リザリスは嬉しそうにふっと笑った。
「血の契約は、自分より強い異性に対して服従の意を表す儀式みたいなものじゃな。じゃが、奴隷とは違い強制力は無いものの、契約者が死ねば、吸血鬼もその魂を完全に消失する」
つまりもし僕がリザリスと血の契約を交わせば、契約者である僕が死んだら彼女も死ぬ。
魂が消失するということは、転生も出来ないということだ。
まさに、一蓮托生というやつか。
「しかも、この血の契約は生涯に一度一人だけにしか扱えない。これを以て、妾はアヴィスに忠誠と好意の証としようぞ。どうじゃ?」
「そ、そんなこと言われても······」
僕が悩んでいると、イヴが僕の服の裾を引っ張って声をかけてきた。
「ご主人様、私はよろしいかと思います」
「イヴ······?」
「ご主人様や私、そして奥方様であるルーナ様が居れば戦力は充分ですが、この世界は広い。私たち以上の敵が居ないとも限りません。なので戦力を増やすという意味でも、彼女を仲間に引き込むことを推奨致します」
確かにリザリスが居れば戦力は大幅に強化されるし、僕もそれはありがたく思う。
だが、問題はルーナだ。
彼女はリザリスを敵視しているから、パーティが上手く機能しない可能性がある。
そう思っていると、何故かルーナは顔を赤く染めてくねくねしていた。
「お、奥方様······な、なんか良い響きね······そ、そうよ、私はアヴィスの奥さんだもの······」
「ル、ルーナ······?」
「し、仕方ないわね······!私はアヴィスの正妻なんだから、余裕を持ったほうがいいわよね、うん······度量が狭い女とは思われたくないし······」
なんだかイヴの言葉で、自分の世界に入ってしまったルーナ。
と思ったら、ルーナはリザリスに指を差して宣言した。
「吸血鬼の王リザリス!あなたをアヴィスの第二の妻として迎え入れることを許可するわ。ただし一番は私だし、子作りは私が先!そして、アヴィスのことを最優先に考えること!それが条件よ!それが飲めないなら、アヴィスのことは諦めなさい!いいわね!?」
「ふははっ、いいだろう。むしろ望むところじゃ。一度は敵対した仲じゃが、今度は仲間としてよろしく頼もう」
ルーナの言葉にリザリスは満足そうに微笑み、二人はガシッと強い握手を交わした。
イヴはそれを無表情に拍手で歓迎し、僕はただただ唖然と見ているだけだった。
なんにせよ僕たちに新たな仲間、吸血鬼の王リザリスが加わってしまい、さらに彼女は僕の第二の妻として迎え入れることになってしまった。
······僕、まだ了承していないんだけど。
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