第35話  予期せぬ再会




「はい、こちらが『鋼鉄蜥蜴アイアンリザード』の討伐報酬になります。ご確認ください」



イヴの実力も確かめ、心強い仲間が出来た僕たちはギルドで『鋼鉄蜥蜴』の討伐依頼の報酬を受け取っていた。

そしてついでにイヴの冒険者ランクもBへと一気に上がり、幸先良いスタートになった。




「ふむ、そろそろ私たちもパーティを組むべきかもしれないわね」




そんな中、ルーナが思い付いたように言った。




「パーティ?」


「そうよ。確か、パーティは三人以上でないと組めない規則だったわよね?」


「はい、その通りです」




ルーナが確認するように受付嬢に言うと、彼女は笑顔で頷いた。

冒険者がパーティを組むのは暗黙のルールとして知れ渡っているが、三人以上とギルドが指定しているのは単純に冒険者の死亡率を下げるためである。




「私とアヴィス、それにイヴも居れば安定したパーティになると思わない?」




確かに前衛にも後衛にもなれるイヴが居れば、三人パーティとしては結構いい線をいく。




「そうだね。僕は賛成だけど、イヴは?」


「ご主人様にお任せ致します」




やはり家族だと命令しても、その態度の堅さは譲れないようだ。

これは早めに記憶を取り戻させたほうがいいかもしれない。

何はともあれ、これで三人パーティとしてギルドへ申請することが出来る。

しかし、問題が一つある。




「パーティを組むのは良いけど、名前を決めなくちゃ申請出来ないな······」


「名前?」




ルーナとイヴが不思議そうに首を傾げる。

あぁ、そうか。ルーナもイヴもギルド自体は初めて利用するから分からないのか。




「パーティ設立をギルドに申請する際に、名前も提出するんだ。箔が付くし、何よりパーティの名が売れれば王族や貴族たちから極秘の依頼を受けることもある。その報酬も破格だよ」


「ふぅん、なるほどね······」


「さすがご主人様、博識ですね」




一応冒険者として当然の常識なのだが、二人は感心したように僕を見つめてきていた。

なんだか照れくさいので話題を変えてみる。




「そ、それより名前だよ。どうしようか?何か良い案はある?」


「そうね······『アヴィスと愉快な仲間たち』というのはどうかしら?」


「いえ、ここは『ご主人様親衛隊』のほうがよろしいかと······」


「それはさすがにないよ!」




なんということだ、二人のネーミングセンスが壊滅的過ぎる。

そんな名前で有名になんかなりたくない。

この二人に任せておくと、きっとろくでもない名前を付けるに決まっていると判断した僕は、自分で名前を考えることにした。




「······『無限の使徒』ってのはどう?」


「······『無限の使徒』?」


「なるほど、この世界を創造したと言われている無限の女神から取りましたね?」


「ま、まあね······」




そう、イヴの言う通り。

『無限の女神』は、世界の創造神『アリス』の二つ名として広く知られている。

その名にあやかって付けてみたが、ちょっと格好付けすぎたかな?




「良いんじゃないかしら?」


「はい、良い名前です。さすがご主人様です」


「そ、そうかな······?」




二人に褒められると、なんだか照れる。

誤魔化すように苦笑いをしていると、不意に背後から視線を感じた。




「ほう、なにやら面白い話をしておるのう?」




と同時に、聞き覚えのある声が聞こえた。

気になって振り向くと、そこに立っていた人物の姿を見て驚愕する。




「お、お前は······!?」




その人物は、黒いドレスに身を包んだ血のように赤い髪をした見覚えのある女性だった。

なんで······どうして彼女がここに居るんだ!?

だって、あの時倒したはずなのに······!




「吸血―――」


「おっと、待て待て。妾の正体をここで言うと、この場が混乱してしまうじゃろう?」




彼女は僕の口を手で塞ぎながら、シーッと指を自身の口に当てる。

やはり、間違いない。この容姿に口調。

吸血鬼の女王リザリス。

僕たちが対峙した、あの時のままの姿の彼女が僕たちの目の前に居る。




「不思議そうな顔をしておるのう?」




僕が唖然としていると、リザリスはニヤッと微笑みながら他に聞こえないように耳打ちをしてきた。




「大方、何故妾が生きておるのか気になっておるといったところか······違うか?」


「ッ······!」




まさかこいつ、僕たちに報復しに来たんじゃ······!?

だが、迂闊なことは出来ない。

なにせここは冒険者ギルドとはいえ、この場に居るのはほとんど人間だ。

僕らが力を合わせて戦うことになれば、彼女はおそらく人間を操ってしまうだろう。

吸血鬼には人間を傀儡にする技がある。

それを使われたら僕らは冒険者たちと戦わざるを得なくなり、僕らは犯罪者として捕まってしまう。

それだけは避けたかったのだ。




「妾は吸血鬼じゃぞ?銀の弾丸や心臓に杭を打たれるといった弱点を突かれぬ限り、妾は何度でも蘇る。詰めが甘かったのう?」


「くっ······!」


「それで、あなたは何をしに来たの?報復でもしに来たのかしら?」




悔しがる僕とは正反対に、ルーナは冷静に僕の前に出て彼女を睨む。




「もしそうなら、私の闇の杭で今度こそトドメを刺してあげるわよ?」


「おぉっと、そんなに怖い顔をするでない。安心せい、妾はそんな惨めなことはせぬよ」


「ハッ、どうかしらね······?」




ルーナとリザリスの視線の間に火花が散る。

まさに一触即発。今にも戦いが始まりそうだ。

しかし当のリザリスはそんな気がないのか、僕らに対して柔らかい笑みを浮かべた。




「妾の言葉が信用出来ぬのは当然じゃろうが、考えてもみよ。報復する気なら、こんな場所とタイミングではないわ」


「······確かに、そうかもね。あなたなら、もっと上手いやり方で来るはず······」


「ようやく分かってくれたか。では、その物騒や殺気を抑えろ。でないと、周りが大惨事になるぞ?」




リザリスに言われて気付く。

受付嬢を含むギルドに居る連中が、ルーナの放つ殺気に当てられて冷や汗を流したり顔を真っ青にしたり怯えたりしていた。

確かに、さすがにこれ以上はまずい。

それをルーナも感じたのか、溜め息を吐きながら殺気を仕舞った。

それを見届けたリザリスは、踵を翻して僕らに背を向ける。




「妾に付いてこい。場所を変えようぞ。妾も、お主たちに話があるのでな」




そう言って、リザリスは外へと出ていった。

呆然と見送っていた僕に、ルーナが声をかけてくる。




「······どうするの、アヴィス?」


「どうするも何も、他に選択肢はないよ。もし彼女が何か企んでいるなら、僕らは責任を取って止めなくちゃいけない」




彼女を生かしてしまったのは、討伐した僕たちの責任だ。

しかし、ここで戦うと他の人たちまで巻き込む可能性がある。

故に、僕らに選択肢などありはしなかった。




「大丈夫よ。何があっても、あなたは私が守り抜くから」


「その意見に同意します。私もご主人様を必ず守り通します」


「はは、ありがとう······」




二人が居れば、彼女が何をしてこようと問題無く対処出来る気がする。

本当に心強い、頼りになる仲間だ。

安堵した僕は騒ぎになる前に、パーティ申請はせずに仲間たちと共にリザリスを追って外に出た。




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