第34話 イヴの力と目標
新たな仲間、機人族のイヴを仲間に加えた僕たたちは、彼女の力を見るべくギルドで依頼を受けて森の中へやって来ていた。
もちろんついでに彼女の冒険者登録しておいたことに抜かりはない。
依頼内容は、『
こいつは名前の通り鋼鉄の鱗に覆われた厄介な魔物で、倒すには結構な技術を要求される。
そのため、ランクはBになっている。
「あれだ、『
「ランクはBだけど、いざとなったら私たちが倒すから安心して戦いなさい」
「了解致しました」
確かに彼女は冒険者ランクはFだけど、力を見るべく敢えてBランクの依頼を受けた。
Bランクの魔物にどこまで戦えるか、これによりイヴの実力を図るのである。
しかし、少し不安だ。
なにしろ彼女は武器を持っていない。
どうやって、奴を倒すのか。
「行きます」
宣言すると、イヴは『
と同時に、両足に魔法陣が起動される。
「―――『
瞬間、イヴの両足の魔法具が機能してまるで疾風のようなスピードを出す。
「なっ······速い!?」
「だけじゃないわ······なるほど、魔法具を発動するため詠唱はいらないということね。いえ、『
驚く僕の横で、ルーナが興味津々に観察をする。
イヴは『
「―――『
イヴの右手が振動する剣に切り替わり、上からその刃が振り下ろされる。
しかし奴の堅い鱗を切り裂くことは叶わず、傷を一つ付けることすら出来なかった。
「なるほど、刃を振動させることによって殺傷力を高めていたのね。凄い魔法具だわ」
「感心している場合!?」
確かに凄い魔法具だが、奴の鱗はそれ以上に堅いということが証明されてしまった。
これでは剣で倒すことは出来ない。
心配して慌てる僕とは対照的に、イヴは至って冷静なままの口調で声をかけてきた。
「ご心配は無用です、ご主人様。この程度、まだ出力の半分も解放しておりません」
「えっ······?」
「次で決着を付けます」
イヴは剣を構えると、再び駆けた。
先程と同じ攻撃をするのだろうか。
しかし『
「まずい!それを喰らうな!」
『
喰らうとその神経を犯す毒により身動きが取れず、動かなくなったところを奴に食われてしま
う。これが奴の恐ろしいところだ。
慌てて注意するが一足遅く、イヴは唾液を思い切りかけられてしまった。
「イヴ!」
慌てて駆け寄ろうとすると、ルーナが僕の腕を掴んで引き止めた。
「待ちなさい、あなた」
「だって、イヴが······!」
「彼女なら平気よ。見てみなさい」
「えっ······?」
ルーナの言う通りイヴに目を向けると、彼女は神経毒の唾液を喰らったにも関わらず微動だにしていなかった。
無表情なまま口を開く。
「―――『
すると今度はイヴの左目に魔法陣が起動され、彼女はぶつぶつと喋り出す。
「エトキシン、クレナドア、フィルノポリア······神経毒の成分解析完了」
「あれは······『
「『
『解析』は、『鑑定』とは違う魔法の一種。
『鑑定』は対象のステータスを見るものであり、『解析』は対象の成分を事細かく調べるものである。
いずれも貴重な魔法だが、この力を込めた魔法具があることは知らなかった。
彼女を改造したマッドサイエンティスト······果たしてどんな奴だったのか。
「毒を浄化する修復プログラムを起動。一時機能を中断。再起動に移行します」
一瞬イヴがガクンと項垂れるが、すぐに目を開いて続けて言う。
「システムの確認を開始―――修復プログラム完了。戦闘を続行します」
僕が彼女の言っている意味が良く掴めずにいると、ルーナが感心したように呟く。
「おそらく彼女は、毒を無効化するプログラムを起動したのよ。そのため、自らの機能を強制終了したのね。なるほど、本当に機械そのものだわ······」
ルーナの言葉を聞いて、僕は胸中穏やかでは無かった。
彼女は、元々はれっきとした人間だったはず。
それを勝手に改造され、機械としての生き方を身に付けられてしまった。
人間としての尊厳は無く、ただ機械として生きる。
そんなの、あんまりじゃないか。
「―――『
そんな僕の胸中を知らないイヴは、両足の魔法具を再び起動させて宙に舞った。
「―――『
そして次は、左手の魔法陣を起動すると左手が銃のような形に変形した。
「出力30%解放。目標捕捉。魔弾斉射」
イヴがそう言うと、左手の銃口から黒い弾を発射させた。
しかもそれは、ただの弾ではない。
「あれは······魔弾よ」
「魔弾?」
「ええ、簡単に言えば魔力の塊ね。それを弾丸として撃ったのよ。凄まじい力だわ。しかも、本気をまるで出していない」
ルーナにそこまで言わせるということは、よほど凄い力なのだろう。
魔弾と呼ばれる魔力の弾は『鋼鉄蜥蜴』の鱗をあっさりと貫通し、何発も直撃を受けた奴は力無くその場に倒れた。
「討伐完了」
Bランクの魔物を倒したにも関わらず、イヴは未だに無表情のままだった。
多分、感情さえも機械染みてしまったのかもしれない。
それは記憶喪失によるものか、あるいはマッドサイエンティストによるものか。
「やるわね、イヴ。あなたの実力は、おそらくAランク以上だわ」
「ありがとうございます」
ルーナとイヴが会話をしている中、僕はあることを決意していた。
彼女の記憶を取り戻させてあげたい。
そして、本当の彼女の名前と感情を知りたいと。
「ねぇ、ルーナ、イヴ。二人に相談があるんだけど······」
「何かしら?」
「はい、ご主人様。何なりと」
「僕たちの旅に目的なんか無かった。だけど、新たに目標を作っていいかな?」
「目標?」
そう、僕らの旅路に目的は無かった。
ただ、冒険者としての生活が出来ればいいと思っていた。
だけど、イヴの姿を見て僕は新たに目標を掲げていた。
「うん、イヴの記憶を取り戻させて精霊の民に戻してあげたい」
改造された身体はもはや僕たちにはどうにもならないけど、せめて在るべき場所へ戻してあげたい。
だって、このまま機械として生きるにはあまりにも可哀想過ぎるから。
そんな僕の意図を汲んだのか、ルーナは笑顔で僕に返した。
「ええ、いいわよ。やってみましょうか」
「ご主人様の仰せのままに」
二人の了承を得たところで、僕たちの旅に新しい目的が追加された。
まだ方法も何も分からないけど、彼女のためにしてあげられることはしてあげたい。
イヴの記憶を取り戻させ、精霊の民へ戻す。
それが僕たちの使命となった。
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