第29話 栄光の挫折~幼馴染みside~
「どういうこと!?」
私、ユリナ・アーデンヴァルトは普段の冷静さを欠いて叫んでいた。
それは、まさに寝耳に水。
私たち、『栄光の支配』のランクがSから最低のFにまで下がったとギルドから連絡を受けたのだ。
パーティランクだけではなく、個々のランクさえも最低へ下がっていた。
あり得ない、こんなことは何かの間違いだ。
私の剣幕に、ギルドの受付嬢は顔を真っ青にしている。
「わ、私共も非常に混乱しておりまして······!し、しかしこれは帝国第三王女、シェリア・ヴィ・シリオス様からのご命令でして······!」
「第三王女の······!?」
その名を聞いて、私は驚愕に目を見開く。
シェリア・ヴィ・シリオス。
この『シリオス帝国』の第三王女。
そんな大物が、何故私たちのランクを下げる命令を下したのか理解出来ない。
私たちが一体何をしたというのか。
「こ、このギルドも王女のご命令で本日限りで解散させられることにはなっておりまして······私も新しい職を探さなきゃならなくて······」
ギルドの受付嬢も、涙を流して唇を結んだ。
だが、彼女の事情などどうでもいい。
ギルドなど、この国にはたくさんある。
しかし、問題は私たちのランクだ。
SからFに下がるなど前代未聞。
何かしらの大罪を犯さぬ限り、こんなことは決してあり得ない。
「くっ······どういうことよ?何かの間違いだわ······!」
憤慨した私は、彼女に言っても仕方ないと判断してギルドを出る。
王族の命なら、ギルドに拒否権は無い。
それは、どうあっても覆せない事実。
だが、そんなもので納得出来るわけがない。
努力に努力を重ね、長い年月をかけてようやく夢であったSランクになれたのだ。
こんな理不尽に奪われていいものではない。
「こうなったら、最後の手段ね······」
最後の手段、それは王族への直談判。
おそらく第三王女は何かの手違いか、あるいは勘違いで私たちを処分した。
ならばそこをどうにか誤解を解ければ、私たちのランクは元に戻るに違いない。
「きっとそうよ······そうと決まったら······!」
私は一人、王城へ足を運ぶ。
同じパーティのライラとリュドミラには、他に気になることを探ってもらっているため、どうしても別行動になるのだが致し方ない。
「何者だ!」
王城の門まで辿り着くと、私の姿を発見した門兵が行く手を遮る。
こいつ、Sランクだった私のことを知らないのかしら?
「私はユリナ・アーデンヴァルト。冒険者よ。直ちに第三王女、シェリア様への面会を希望したいのだけれど······」
「シェリア様だと······?」
門兵は怪しげに私を見た。
その視線は品定めするかのようで、とても不愉快だった。
しかし、ここで事を荒立ててしまっては面会はおろか捕まることにも成りかねない。
苛立ちを抑えつつ返答を待っていると、門兵は毅然とした態度で口を開いた。
「申し訳ないが、シェリア様は不在だ。また日を改めると良い」
「は?何よ、それ······?」
あり得ない返答に、私はきょとんとした。
この返答に、二つの解釈があるからだ。
一つは、公務か何かで出掛けている場合。
そしてもう一つは、私を王城へ入城させないための方便。
どちらにせよ、このまま素直に引き下がりたくはない。
「シェリア様は何処に行ったのよ?」
「貴様に教えることは、これ以上何もない。お引き取り願おう」
「貴様······私を誰だと思ってるの?」
「知らん、貴様の名など聞いたこともない」
Sランクだった私を知らないはずはない。
私たち『栄光の支配』は、この国ではトップクラスの実力だったのだ。
そのリーダーたるこの私を存じず、さらには私に対する態度は我慢ならない。
「少し痛い目に遭いたいようね······?」
怒りで沸騰した私は、自身の腰に下げている剣に手を伸ばそうとする。
しかし、剣を抜くことは出来なかった。
誰かに手を掴まれてしまったから。
「お止めなさいな、ユリナ!」
「リュドミラ!?」
私の手を掴んだのは、同じパーティのリュドミラ・ハイッセンその人だった。
「何故、あなたがここに?」
「そんなことはどうでもいいですの!それより、あなたは少し頭を冷やしなさいな!」
「私は冷静よ、邪魔しないで!」
「いいえ、あなたは冷静を欠きすぎていますわ!こんなところで暴れたら、王族への反乱と処断されてもおかしくないのですわよ!?」
「ッ―――!」
リュドミラの叱咤に、私はようやく自分が何をしようとしたのか理解する。
城内部ではないとはいえ、ここは城の門。
そんな場所で門兵を傷付けたとあらば王族への反乱、ひいては国への反逆として処罰される。
そうなれば、待っているのは死罪だ。
いくら私たちが強くても、国を相手取ることは出来ない。
「······ごめんなさい、冷静さを欠いていたわ」
「ふぅ······いえいえ、手遅れにならず済んで良かったですわ。それよりライラも待っていますし、場所を移動しましょう」
「······そうね」
こうなっては、もはや直談判は無意味だ。
私はリュドミラと共にこの場を後にし、拠点である宿屋へ集合することにした。
「······遅かったじゃん」
宿屋の一室に戻ると、不貞腐れたライラが私たちを出迎えた。
彼女もどうやらご立腹のようだ。
「で、どうだったのさ?あたしたちのランク、どうにかなった?」
「······ダメだったわ。ランクどころか、ギルドも解散命令を下されたようだし、直談判しに城へ行っても門前払いよ」
「くっそ、マジ萎えるわ······」
私の報告を聞き、舌打ちをしながら悪態つくライラ。
「どうやら私たちのランクを下げたのもギルドの解散も、全てシェリア様の命令だったらしいわ」
「は?シェリア様って······第三王女の!?何でそんなお偉いさんがあたしたちのランクを下げる命令を下したのよ!?」
「······私が知るわけないでしょう」
そんなもの、こちらが聞きたいことだ。
肝心の王女には会えないため、これはどうあっても覆しようがない。
「それより······あなたたちのほうはどうだったの?アヴィスの所在、掴めたのかしら?」
そう、私が彼女たちに任せたのはパーティを脱退した元メンバーのアヴィス・クローデットの捜索だ。
私たちにとって、アヴィスを弄るのは日常茶飯事のことだった。
それは彼も理解していたし、どんな暴言や態度を取っても彼は笑って許してくれていた。
そんな優しい彼につけ込んで、私たちはさらに彼を酷く扱った。
それもまた許してくれると思っていたのに、あの日アヴィスはパーティを抜けた。
あの追放は本当に冗談で言っただけなのに、彼は本気で私たちから離れていった。
それがどうしても納得いかない。
何故、いつもの冗談だと理解してくれなかったのか。
「ダメだったよ、アヴィスの所在を知ってる奴には会えなかった」
「私のほうも彼の実家を訪れたのですが、門前払いされてしまいました。その様子を見るに、どうやら彼は実家にも戻っていないようですわ」
何処に行ったのよ、あいつは······。
本当に手間のかかる幼馴染みだ。
昔からそうだ、いつも私を困らせて心配させて······。
私が居ないとダメだった奴が、パーティから抜けた上に行方知れずなんて本当信じられない。
「いい?この際、ランクはもはやどうにもならないわ。まずはどんなことをしてでもランクをSに戻す。そして、アヴィスを連れ戻す。私たちがやるべきことはこの二つよ」
「任せて!危険な依頼一つこなせば、すぐにあたしたちは返り咲くよ!」
「こちらも承知しましたわ。アヴィスは、必ず見付け出します」
そう、私たちはまだ終わらない。
終わってたまるものですか。
また再び、あの栄光を取り戻すの。
アヴィスを連れ戻し、Sランクになる。
これが私たちの今の目標となっていた。
しかしそれが破滅の道を辿ることになろうとは、今の私たちは気が付かなかった。
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