第27話 吸血鬼の王との決着
「―――『
「またそれか。そんなもの、妾に当たる訳がなかろうて」
室内故にかなり手加減しているであろうルーナの攻撃を、余裕綽々の笑みで躱していく吸血鬼の王リザリス。
僕は準備をしながらチャンスを伺うべく、二人の戦いを見守る。
「チッ······調子に乗ってんじゃないわよ」
「ふふん、ならば妾を焦らせてみせよ。ほら、行くぞ。舞え、我が血の刃よ。―――『
ルーナに再び、血の刃が襲う。
彼女が繰り出す血には、存在を朽ち果てさせる効果がある。
あれを一度でも喰らえば、その先に待つのは死のみである。
だが、ルーナは先程の経験を身を以て味わったため同じ轍は踏まない。
「―――『
ルーナが魔法を発動した瞬間、血の刃は空中でその動きを止めた。
その光景に、リザリスは驚愕に目を見開く。
「なに!?お主、何をした!?」
「当たれば必滅ならば、当たらなければどうということはない。ただ、それだけよ」
ルーナが繰り出したのは、『時間魔法』。
物体の時間を止めるというごく単純で強力な魔法だが、あくまでも一時的なものであり無機物のものしか停止させることが出来ない。
しかし、奴の虚を突くには充分だった。
「―――『
彼女の隙を狙い、闇の鎖が彼女を拘束した。
「しまった······!」
身動きが取れず、そのまま落下したリザリスに対し、ルーナは止めと言わんばかりに魔法を唱える。
「これで終わりよ。―――『
拘束されたリザリスの背後に、『鉄の処女』を彷彿とさせる黒い拷問器具が出現した。
その中は暗闇に包まれており、まさに闇へ誘うように恐怖を演出させる。
「なっ······!?」
驚くリザリスを尻目にその拷問器具から無数の黒い触手が生え、リザリスを絡め取って内部へ引きずり込んでしまった。
「あの中に入ったが最後、徐々に底知れぬ深い闇に身体を蝕まれていき、跡形もなくこの世から消滅する」
「あ、跡形もなく······?」
「ええ、塵も残さぬほどにね」
とてつもなく恐ろしい魔法だが、彼女を討伐した証が無ければギルドへ報告出来ない。
つまり、タダ働き同然である。
せっかくの依頼がパーか、と内心悲しんでいると、ルーナの目が険しくなった。
「本来なら、抵抗など無意味なのだけれど······さすが吸血鬼の王を名乗るだけのことはあるわ」
「えっ······?」
ルーナの言葉が気になった僕は、まさかと思い未だ顕現している黒い拷問器具に目を向ける。
そして気が付き、目を見開く。
黒い拷問器具は徐々に赤黒い色へと変貌していき、それは砂のように消滅した。
そこに立つは、血を大量に流したリザリスの姿。
「はぁ······はぁ······っ」
「······恐れ入ったわね。あの一瞬で自ら血を噴出させ、闇ごと拷問器具を腐朽させるとは······」
ルーナの顔に、初めて冷や汗が浮かぶ。
『混沌竜』を相手にしても余裕の態度を崩さなかった彼女が、ここまで焦っているのは初めて見た。
「ふ······ふはは······ふははははははははは!面白い!実に面白いぞ、『月影の魔女』よ!よもや、妾をここまで追い詰めるとは!」
「······それはどうも」
忌々しげに呟くルーナ。
彼女の姿を見ると、如何に彼女が規格外の存在だということを改めて思い知らされる。
果たして僕の作戦が通用するのかと、今更不安になってくる。
しかしルーナは僕に微笑み、優しく言った。
「······信じてるわよ、アヴィス?」
その目は、本当に僕を信頼していた。
信頼には信頼で応える、それが僕のポリシーだ。
僕が深く頷くと、ルーナはリザリスに向き直る。
「次で最後にするわ」
「おや、もう終わりかのう?まあ、良い。妾も随分と血を流し過ぎた。お主らを倒した後、その血を貰い受けよう。なに、安心するのじゃ。ちゃんと生かしておく······ただし、もはや廃人同然になるかもしれぬがのう······!」
酷い見た目とは裏腹に、未だに恐怖を感じさせる威圧を放ってくる。
本当に強敵だ。過去一番の強さだ。
しかし、僕らは絶対に負けられない。
「いくわよ、アヴィス。夫婦の絆、見せ付けてやりましょう」
「······分かった、ルーナ」
今こんな状況では、恥ずかしいと感じる余裕も無い。
僕は既に準備完了しており、いつでも動くことは出来る。
それをアイコンタクトで送ると、ルーナは意を決した顔をして魔法陣を起動させた。
「魔力の大部分を消費するけど、あなたに敬意を表して私の三大究極魔法の一つを見せてあげるわ」
「ほう、それは光栄じゃ。ならば、妾もその覚悟に恥じぬ力を見せよう」
ルーナの覚悟を感じたリザリスは、ニヤリと笑うと彼女もまた魔法陣を起動させる。
つまり、二人は大勝負に出る。
「いくぞ、『月影の魔女』。我が血よ、全てを滅す闇となれ。―――『
まるで闇を彷彿とさせる大量の血の奔流。
いくらルーナでも、当たれば無事では済まない
と本能がそう囁く。
しかし、僕はこの時を待っていた。
「―――アヴィス!」
「なに······!?」
ルーナの合図により、僕はルーナの前に出る。
そして、右手を前に突き出して叫ぶ。
「―――『
どんな強力な攻撃であろうと、全てを吸収する僕の魔法には全てが無に等しい。
案の定、血の奔流は瞬く間に僕の手の中に全て吸い込まれていく。
「バカな······!?わ、妾の魔法が消えた!?いや、これは······!」
僕の魔法を初めて見たリザリスは、焦って状況を即座に判断しようとする。
その隙を、ルーナは見逃さなかった。
「喰らいなさい、私の三大究極魔法の一つ!―――『
リザリスの足元に魔法陣が出現し、そこから巨大な手の形をした闇が彼女を掴む。
その直後、闇の手は彼女の下半身を握り潰してしまった。
「ぐっ······あぁあああああああああっ!?」
「私の『厄災魔手』は、握り潰したもの全てを消滅させる魔法よ。あなたの魔法は確かに強力だけど、朽ち果てる前にあなたを仕留めてしまえばどうということはないわ」
ルーナの魔法により下半身を消滅させられてしまった彼女はその強烈な痛みに耐え切れず、地面に転がって悶える。
ここが一番の隙だと感じた僕は、すかさず次の一手を繰り出した。
「これで終わりだ―――『
僕の手から、先程吸収した彼女自身の魔法を放つ。
「なにっ······!?わ、妾の魔法!?な、何故人間如きが······!?」
ダメージの痛みによってその思考を鈍らせていたリザリスは、あり得ない事象を目の前にして身体を硬直させる。
「し、しまった······!」
その一瞬の隙が命取り。
血の奔流は、一気に彼女を飲み込んだ。
「ぐっ······ぎゃぁああああああっ!!」
そのダメージは図り知れず、血の奔流は壁を壊してまで続いた。
そうしてようやく収まり、残ったのはボロボロになった彼女の無残な遺体のみ。
この魔法が僕らに向けられていたのかと思うと、背筋が凍るほどの寒気を感じる。
何はともあれ、僕の作戦は成功したようだ。
「や、やった······」
その安堵と疲れから、地面に尻餅を着く。
そんな情けない僕に、ルーナは優しい笑顔で手を差し伸べた。
「やったわね、アヴィス。お疲れ様」
「う、うん······ルーナもお疲れ様」
彼女の手を取り立ち上がった僕は、依頼達成の証拠とするため、彼女の遺体から羽の一部を風の刃で切り取る。
吸血鬼の王は、凄まじい強さだった。
しかしその強さに恥じぬプライドは、まさに王に相応しい。
僕はそんな彼女の本当の強さに敬意を表し、手を合わせて冥福を祈る。
「さて、それじゃあ帰りましょうか。さすがの私も疲れたわ」
「うん、そうだね。帰ろうか」
僕らは用事が済んだため、揃ってこの場を後にする。
吸血鬼の王。その志と思いを生涯忘れぬよう、胸に刻みながら。
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