第24話 依頼を夫婦で片付ける
あれから数時間以上が経ち、僕とルーナは彼女が新たに見付けた宿屋へ集合していた。
ちなみに一部屋一泊で銀貨一枚という値段だ。
「これが冒険者ギルドで貰った仕事だよ」
僕が持ってきた仕事は、どれもBからAランクのものばかりだ。
『
『
人拐いの野盗の討伐。
そして、謎の魔物の調査と討伐。
ちなみに、これを全て達成すれば200万の報酬が手に入る。
「ふぅん、最後のは興味あるわね」
ルーナが手に取ったのは、謎の魔物の調査と討伐の資料だった。
なんでも街の郊外の古城に現れるその魔物は正体不明で、誰もその姿を見ていないのだとか。
いや、正確には見ているのだがその魔物にやられるとその魔物がどんな奴か、どんな力を使うのか、その魔物に関してだけの情報が綺麗に忘れているのだという。
つまり、冒険者は討伐内容に関しては覚えてはいるが、その魔物自体を忘れてしまっているということだ。
その魔物の正体を突き止め、可能であれば討伐してほしいとのこと。
「不思議な話だよね。多分、魔物の仕業だとは思うけど······」
「十中八九、間違いないわね。記憶を操作されているのか、はたまた恐怖で魔物のことを忘れてしまったのか······実に興味深いわ」
知らないことには興味を持つルーナは、その資料だけをまじまじと見つめている。
どうやら、お気に召した内容だったようだ。
「じゃあ、他の依頼を片付けてからその謎の魔物について調べようか」
「ええ、賛成ね。じゃあ、まずは『一角馬』からやりましょうか」
こうして僕らは、この街で初めての仕事に繰り出すのだった。
まずは、『一角馬』の角の回収。
『一角馬』自体はBランクの魔物で冒険者数人で討伐出来る比較的弱い魔物だが、その馬から取れる角は万能薬の材料となる。
だが逃げ足がとにかく速いため、こちらの姿を見ただけで逃げる臆病者だ。
しかし、こちらにはルーナが居る。
「居たわね、『一角馬』」
森の中で、水を飲む『一角馬』を発見した僕らは事前に打ち合わせした作戦を実行に移す。
「頼んだよ、ルーナ」
「ええ、任せてちょうだい。―――『闇呪鎖』」
ルーナの『闇呪鎖』によって、『一角馬』は簡単に捕縛された。
僕は身動きの取れない『一角馬』に向かい、魔法を放つ。
「―――『
風の刃は『一角馬』の角を見事に切断し、力の源であった角を失った『一角馬』はその場に倒れた。
しかし死んではおらず、また角は自然に生えるため角だけを回収して生かしておくことに。
「これで一つは完了ね」
「うん、次は『人型植物』の採取だ」
『人型植物』は森の至るところに生える、魔の植物だ。
厳密には植物型の魔物で、普段は地面に埋まっているが、それを引っこ抜くと凄まじい音量で泣き散らし、その声を聞いた者は即座に命を失うとされる。
「こんなの欲しがるとはね······」
『人型植物』を見付けたルーナは、あっさりとその植物を手に取っていた。
何でも『時間魔法』を使い、その魔物が自身が引っこ抜かれたことに半永久的に気付かないようにしたのだとか。
さすがは伝説の魔法使い、やることがチートだ。
「続いては、野盗たちの討伐か」
野盗たちは森の奥に砦を建てており、強奪や誘拐などで生活をしているらしい。
人数は未知数だが、頭目は居るとのこと。
だが、これに関してもルーナが居れば困った問題では無かった。
「―――『闇影杭弾』」
ルーナの頭上に展開された巨大な魔法陣から、これまた巨大な闇の杭の弾丸が無数に砦に向かって発射される。
その力は凄まじく、建物はみるみるうちに崩壊して出てきた野盗たちも次々にその弾の餌食になっていく。
まさに、一方的な蹂躙だ。
「て、てめぇ!何者だ!?」
頭目らしい男が出てきて、ルーナに向かって吠える。
だがルーナは涼しげな顔で無視し、闇の弾丸を男に向かって放った。
「ぐあああっ!?」
その頭目もルーナの前では無力であり、あっという間にその命に終わりを迎えた。
もう、ルーナ一人居れば問題無く僕が居なくてもいいんじゃないかなと思えるほどだ。
「これで全員かしら?」
「多分ね。確認してみよう」
ひとしきり撃ったため、建物は完全に崩壊。
数十人は居たであろう野盗たちも、今は屍と化して横たわる惨状。
しかし万が一生存者が居て逃げ出されても困るので、見付けたら捕縛しようとルーナと二人で砦に踏み込む。
「どうやら生き残っている輩は居ないみたいだね。お疲れ様、ルーナ」
「こんなの朝飯前よ」
ドヤ顔で自信満々に言うルーナ。
しかしこちらにルーナが居るとはいえ、こうもあっさり四つのうちの三つの依頼を終わらせるとは思わなかった。
「残るは、謎の魔物の調査と討伐ね」
「うん、どうやら古城はこの森を抜けた先にあるみたいだね」
ルーナの顔が、さっきまでとは違いやる気に満ち溢れている。
彼女にとってはこれだけが興味を示したようで、他の依頼はどうでもいいみたいだ。
僕は内心苦笑いをしながら、ルーナと共に魔物を狩りながら森の出口を目指す。
「あれが謎の魔物が住む古城?」
森を抜けた先には、古びた城が建っていた。
見た目はボロボロで、もはや廃墟と化している。
こんな場所に、謎の魔物が居るのか?
「アヴィス、気を付けなさい。城にはトラップがある可能性もあるわ。一応、私の『鑑定』で調べながら進むけど、あなたも警戒を怠らないで」
「うん、分かった······」
『鑑定』は人物だけではなく、無機物に対しても有効だ。
彼女の『鑑定』があれば、罠の有無などは簡単に判別出来るだろう。
しかし、油断は禁物だ。
何が起こるのか分からない。
僕らは慎重に歩み進め、古城内を探索する。
しばらく進むと、別れ道に差し掛かった。
「······別れ道か、どうしよう?」
こういう時は、手分けして探すのが定石だ。
しかし、それは大人数でのみ効果が発揮されるものだ。
単独行動になれば、まず間違いなく死ぬ確率が格段に上がる。
どうすれば良いのか悩んでいると、ルーナは迷うことなく答えた。
「手分けして探しましょう」
「えぇっ!?いや、でも······」
「あなたの言いたいことは分かるわ。確かに単独行動は危険よ。命に関わるわ。でも、資料を見た限りでは調査に向かった冒険者は誰一人命を落とさずに生還している。これがどういうことか分かるかしら?」
ルーナの言う通り、これまでこの古城を探索した冒険者たちは一人も欠けることなく生還している。
被害という被害はなく、ただ単純にその魔物に関しての記憶が無いだけである。
それを鑑みれば、命の保証は出来るだろう。
「危険は無いってことだよね?でも、さすがに万が一ってことも考えなくちゃ······」
「ふふっ、その警戒心はさすがね。でも、安心しなさい。何かあればこの通信用魔道具で連絡は出来るし、あなたに何かあれば即座に駆け付けるわ」
確かにルーナ一人なら、謎の魔物に遅れを取ることは無いかもしれない。
しかし問題は僕だ。
いくら強い魔法があるからといっても、使う暇もなく不意打ちを受けたりする可能性もある。
「大丈夫、あなたなら誰であろうと勝てるわ」
まったく根拠のない言葉。
しかし、何故かルーナの言葉はこれ以上ないほどに勇気をくれるものだった。
「うん、分かった。後で落ち合おう」
「ふふっ、さすがは私の旦那様ね。何かあれば、必ず連絡ちょうだいね?」
こうして僕はルーナと別れ、古城内の探索を再び再開するのだった。
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