第23話  王女の制裁~王女side~




「さて······情報は掴んだかしら、フィア?」


「はい、全ての情報を手に入れました」




私、シェリア・ヴィ・シリオスの前で膝まずくメイド、フィアが頭を下げる。

私は彼女にアヴィスの情報を探るよう命令をし、半日経たずに収集したという。

さすがは私が信頼を寄せる従者、やることなすこと完璧だ。




「それは上々。それでは聞かせてください」


「はい、ではまずアヴィス様が追放となった経緯からご説明致しましょう」




フィアの報告は、私が知っていることの裏付けだった。

アヴィスは幼馴染みパーティ『栄光の支配』から追放され、クローデット家から除籍された後、冒険者ギルドへ足を運んだそうだ。

しかし、そこでも依頼を受理されなかったため、彼はこの国を見限って国を後にしたという。

我が国の臣民は、本当に愚かな者たちばかりだ。

私も見限って正解だ。人を見下すこの国にもはや未練はない。




「フィア、その馬鹿な冒険者ギルドにはギルド解散の通達を出しなさい。それと『栄光の支配』のランク下げ、クローデット家には貴族の権限を剥奪しなさい」


「はい、仰せのままに」




実力至上主義のギルドなど、もはや崩壊させてしまったほうが世のためだ。

幼馴染みでありながら彼をぞんざいに扱ったパーティも、実の家族でありながら大切にしない家も、もはやどうでもいい。

私のアヴィスをバカにしたのだから、それ相応の報いは受けてもらう。

晒し首にされないだけ、ありがたいと思ってもらおう。




「フィア、彼の行き先に関しての情報は?」


「はい。目撃した者の話によれば、彼はこの国を出て『死鬼の森』に向かったそうです」


「なるほど······彼は、『セクリオン』へ向かったのですね?」


「おそらくは」




『シリオス帝国』と魔導国家『セクリオン』の国境には、『死鬼の森』が存在する。

彼がそこへ向かったのであれば、行き先は間違いなく『セクリオン』だ。

あそこは『魔法至上主義』の大国。

魔法使いである彼が生きやすい国であるため、そこへ向かったのも納得だ。




「しかしシェリア様、彼が『死鬼の森』から生還して抜ける可能性は······」


「それ以上言うことは許しません、フィア」


「失言、失礼致しました」




彼女の言いたいことが分かった私は、つい頭に血が昇ってしまい殺気を放ってしまった。

その殺気を感じたフィアは、無表情ながらも頭を下げて謝罪をする。

彼をバカにする奴は、例えフィアでも許さない。




「では私たちも準備が出来次第、『セクリオン』へ向かいます。異論はありませんね?」


「はい、フィア様の仰せのままに」




『死鬼の森』は、危険な魔物たちが徘徊するデッドゾーンだ。

しかしながら、行かないわけにはいかない。

彼に会うためなら、どんなことでもしよう。




「お待ちください、シェリア王女殿下!」




私たちの前に、一人の男性が現れた。

彼はいつもの甲冑ではなく、軽装をしてこちらに歩み寄ってくる。




「あなたは······ユリウス?」




ユリウス・クローデット。

アヴィスの弟であり、爽やかな笑顔が印象的で女の子と見間違うほどの美少年だ。

帝国の騎士団長である彼が、何故甲冑も着ずに軽装で居るのか理解が及ばない。

呆然とする私をよそに、ユリウスは私の眼前で跪く。




「シェリア王女殿下!僕も是非、兄さんの探索にご同行させてください!」




その申し出に、私は目を見開いた。

何故、私たちが彼の探索の旅に出るのを知っているのか。

フィアに視線を送るが、私の意図を理解した彼女は首を横に振った。

どうやら彼女がユリウスに話したわけではないらしい。




「······ユリウス、何処でその情報を?」


「あなた様が兄さんの所在を掴もうとしていたのは、クローデット家にお越し頂いた時から気が付いておりました。なにせ、あなた様は兄さんの婚約者であり理解者。そんなあなた様が兄さんを捨てることはないと思いまして······」




なるほど、態度が表に出てしまっていたか。

にしてもこのユリウス、アヴィスだけではなく私のことも理解しているようだ。

さすがは、未来の義弟。話が分かる良い子だ。




「なるほど、あなたのその慧眼は敬服します。さすがはアヴィスの弟ですね」


「勿体無きお言葉」


「ですが、よろしいのですか?私たちは、この国を捨てるため、二度と戻ることはありません。そんな私たちに付いてくるということは、あなたもその地位を捨てることになります」




帝国騎士団長は、簡単に就ける地位ではない。

死に物狂いで鍛練や修練を積み重ね、並々ならぬ功績を挙げてようやくその地位になれる。

彼がその地位に就いたのは、言うまでもなく兄のアヴィスのため。

不遇な兄を守るために、頑張ってきたのだ。

その努力は、簡単に捨てられるものではない。

しかし、ユリウスの目には迷いがなかった。




「構いません。騎士団長は、元々兄を守るために目指していただけ。その兄さんが居ないのならば、その地位に食らい付く意味はありませんので。ですので先程、辞表を提出し、実家にも除籍を願い出てこの身一つと愛剣を携えて来ました。シェリア様が行かずとも、僕一人でも行く気です」




その目は真剣だった。

それほどまでに、彼は兄のことを慕っていたのだ。

兄想いだが、少し嫉妬してしまう。

だが、戦力は多いに越したことはない。

何しろ私たちが今向かう場所は、『死鬼の森』。命がいくつあっても足りない場所だ。




「分かりました、あなたの熱いその気持ち、しかと汲み取りました。ではユリウス、あなたも私に同行を願います。一緒にアヴィスを探し出しましょうね?」


「ハッ、感謝致します!」




頼もしい仲間が出来た。

一流の剣の腕を持つ前衛のユリウス、あらゆる雑務をこなすフィア、回復魔法が得意な後衛の私、シェリア。

つまり、オーソドックスなパーティが出来た。

これで森を無事に抜けられそうだ。

しかし、万全には万全を期したい。




「フィア、あなたには先程の命令に加え、もう一つお願いがあります」


「はい、何でしょうか?」


「確か、アヴィスには師匠と呼ぶべき人が居ましたね?その人の場所を探し出してください」


「はい、かしこまりました」




以前アヴィスから、魔法を教えてくれた師匠が居ると話を聞いたことがあった。

その人が加われば、私たちのパーティはSランクにも匹敵する強さになる。

そうなれば、より安全に森を抜けられるはず。




「待っていてくださいね、アヴィス。きっと、すぐに会えますから······」




再会した暁には、私に何も言わずに置いていった責任を取ってもらうため、結婚することに致しましょう。

私はもはや国を捨てた身、アヴィスとは立場も身分も関係なく釣り合うはずだ。




「ふ、ふふっ······ふふふっ······楽しみですね、あなた······」




再会することを期待に胸を膨らませ、私たちはアヴィス捜索の旅に出ることになった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る