王都『セクリオン』
第21話 散策の末の人助け
「······ここは、何処?」
宿屋から転移したは良いものの、ここが何処だか分からなくて呆然とする。
街並みの中に居るのは間違いない。
だが、本当にここは何処なんだ······?
「ここは、おそらく『セクリオン』ね。私が以前来た時とは、大分街が変わっているけど······」
「えっ?ルーナ、前にここに来たことあるの?」
「あるわ。たった一回なんだけれどね」
ルーナ曰く、『空間転移』は一度行ったことがある場所なら指定可能とのことらしい。
だからここは首都『セクリオン』で間違いないとのことだが、『空間転移』でいきなり街中に現れたため周りの人たちが驚いてこっちを見ていた。
「おい、こいつら今いきなり現れたか?」
「もしかして魔法なんじゃない?」
「マジかよ。何の魔法だ?姿を消す魔法?」
「ふむ、興味あるな」
周りの人たちが興味深そうに凝視してくる。
さすがは魔法に対して熱心な『セクリオン』らしいが、目立つのはあまり良くない。
何しろ、アルドーバであんなことがあったんだ。
指名手配され、こちらに情報が流れ込んできていてもおかしくはない。
「ルーナ、場所変えよう。ここはさすがに目立ちすぎる······」
「そうね。あの場から逃げ出すためとはいえ、少し油断したわ」
幸い、見られていたのは少数だ。
僕らの人相も覚えられていないだろうし、噂になる前に僕たちは急いでこの場から逃げ出す。
「ふぅ······ここまで来れば大丈夫かな?」
「ええ、おそらくね」
走り去り、人目から隠れるために来たのはこの街の路地裏だった。
人気が少なく、身を隠すには最適の場所。
「さて、アヴィス。『セクリオン』に着いたはいいけど、これからどうするのかしら?」
「う~ん······そうだね」
やることはたくさんある。
まずこの街を活動拠点にするなら、宿屋を探し出さなくてはならない。
生活基盤は、何よりも重点的にしなくては。
そして、次にギルドへ行って依頼を探す。
お金はまだたくさん残っているが、お金は腐らないし稼ぐに越したことはない。
それらをルーナに伝える。
「なるほどね、ご尤もだわ。それじゃあ、ここは分担して探しましょう。一つ一つやっていたら効率が悪すぎるもの」
「それは良いんだけど······どう分担するの?」
「そうね······アヴィス、あなたはギルドで依頼を探してきてちょうだい。私は宿屋を探してみるわ」
彼女に何か良い案があるのかもしれない。
それに異論は無いし、僕は快く引き受けることにした。
「うん、分かった」
「あぁ、それと······あなたにこれを渡しておくわね」
そう言って、ルーナが手渡してきたのは小さなピアスだった。
しかし、ただのピアスでないことは僕にだって分かる。
だってこれには、微妙な魔力を感じられたから。
「ルーナ、これは······?」
「それはピアス型の魔道具よ。それを耳に着けて魔力を込めれば、離れた場所でも音声通信が可能になるの。これで、いつでも連絡は取れるわ」
魔道具自体は何処にでもあるが、通信連絡手段のものはなかなか無いと聞く。
さすがは伝説の魔法使い。
こういう道具も常備していたのか。
しかしこれがあれば便利だし、ありがたく受け取っておこう。
「ありがとう、ルーナ」
「ふふっ、これで離れていても安心ね」
ウインクをするルーナが可愛らしく、ドキッと胸が高まる。
僕は早速耳に着け、お互い注意するようにと約束を交わした後でルーナと別れた。
「さて、冒険者ギルドは······」
冒険者ギルド自体は、建物が大きいのでおそらくすぐに見付けられるだろう。
ただ、辺りを見渡してもそれらしい建物は無いため、やはり歩いて散策するしかないようだ。
やれやれと溜め息を吐きながら歩くと、何やら路地裏で人影が動いたのを視界に捉えた。
「······ん?」
注意深く観察すると、フードを被った連中が綺麗なドレスに身を包んだ女性を囲んでいるようだった。
「もしかして、あれは······」
フードの連中は、お世辞にも人相が良いとは言えない顔と表情をしている。
囲まれている女性は、俯いていて顔は良く見えないが必死に抵抗しているようだ。
「止めなさい!私を誰だと思っているのですか!?」
「あん?知らねぇよ。だが、別嬪さんにゃ違いねぇ······俺らで楽しく遊んだ後、奴隷商にでも売り付けてやるよ」
「っ······下劣な!」
少し会話を聞いただけで、なんとなくだが理解した。
つまり男共は女性を襲った後、奴隷商に売るという卑劣な行いをしているようだ。
まったく、何処に行ってもこんな連中は居るのは世の常か。
見てしまった以上、このまま素通りするのも罪悪感が残ってしまう。
「······仕方ない、助けるか」
まだ冒険者ギルドを見付けるという任務は果たしていないが、彼女を見捨てるのも忍びない。
僕は彼らに近付き、声をかけた。
「ナンパにしては、些か乱暴過ぎではないですか?女の子には、もっと丁寧に扱わないと······」
少し緊張していたのか、キザったらしい言葉が出てしまった。
非常に恥ずかしいが、ここで引くわけにはいかない。
「あん?なんだ、てめぇ?」
彼女を囲んでいる連中は、合わせて五名。
何処にでも居そうなチンピラ風の男たちだ。
これなら、僕でも余裕で勝てそうだ。
だけど、慢心は禁物。油断大敵だ。
「痛い目に遭いたくなければ、さっさと彼女を解放することをお勧めしますが······?」
まずは説得を試みる。
無血で事が収まるなら、それに越したことは無い。
だが、そんな言葉が通用しない連中なのは既に分かっていた。
彼らに逃走の意思が見えなかったからだ。
「ハッ、バカか?こんな上玉、逃がすわきゃねぇだろ?」
「ひょっとして、お前も混ざりたいのか?」
「いや、こいつ結構身なりが良いぞ。身ぐるみ剥いで、こいつも奴隷商に売り払おうぜ」
「そいつぁ名案だ!がはははは!」
聞いているだけで、頭が痛くなってくる。
こいつらに情け容赦は無用のようだ。
仕方ない、悪人には痛い目に遭ってもらおう。
「忠告はしたよ。―――『
「「なっ······!?」」
僕の手から魔法陣を起動し、電撃が彼らの一人に命中する。
初級魔法とはいえ、当たればしばらくは身体が痺れて動かないはず。
「ま、魔法だと!?こいつ、魔法使いか!?」
「しかも詠唱してなかったぞ!?」
「何者だ、てめぇ!?」
彼らはあまりに衝撃的なことに動揺したため、隙だらけで攻めやすかった。
僕はその隙を狙い、さらに魔法を唱える。
「―――『
風の刃と炎の球が二人の男に襲う。
「ぎゃあっ!?」
「ぐあっ!」
短い悲鳴を上げ、彼のうち三人はあっという間に倒れた。
残るは二人。その内の一人は、なにやらぶつぶつと呟いていた。
「氷よ、我が敵を凍て貫け!『
瞬間、魔法陣が起動して数本の尖った氷が僕に向かって飛ばされた。
なるほど、内一人は魔法を扱えるらしい。
だけど、それは僕にとっては栄養の何物でも無い。
「―――『
「なっ······!?」
全ての氷柱が僕の手に吸い込まれるのを見た彼らと女性は驚きに顔を歪ませたが、僕は気にせず次の魔法を唱える。
「―――『
お返しとばかりに、僕の手から先程吸い込んだ氷柱を彼ら目掛けて飛ばした。
「ぎゃああっ!」
彼ら二人を上手く同時に仕留めた僕は、辺りを今一度見渡して安全を確認する。
どうやらこの五人で全員のようだ。
一息つくと、僕は座り込んでしまっている女性に声をかけた。
「大丈夫ですか?」
「あっ······は、はい······だ、大丈夫······です」
呆然としてしまっている彼女を改めて見ると、とても綺麗な容姿をしていた。
ピンク色の長髪に青い瞳、白い肌に物腰柔らかそうな見た目をしている。
うっかり一目惚れしてしまいそうだ。
しかしその顔は何故か赤く染まっているのだが、何故だろうか?
普通、恐怖していたなら顔は真っ青になっているはずなのだが、解放されて安心したせいかもしれない。
「ここは治安が悪そうなので、早めに離れたほうがいいですよ?」
「は、はい······そうしましゅ······」
······『しゅ』?
何故噛んだのか分からないが、ボーッと僕の顔を見つめてくるのは正直恥ずかしい。
とにかくここは、なんとか話題を変えよう。
「え、えっと······つかぬことをお聞きしますが、冒険者ギルドはどちらにあります?」
「えっ······?あ、えっと······わ、分かりません······すみません、お役に立てず······」
「い、いえ、お気になさらず!そ、それじゃあ、僕は失礼します!」
「あっ······ま、待っ······!」
彼女は何か言いかけたが、僕は気にせず急いでこの場を後にした。
あんな美人と何話せばいいか分からないし、どうも緊張してしまうからだ。
ごめん、ルーナ。
僕は必死に心中で妻に謝りながら、冒険者ギルドを再び探すのであった。
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