第16話  いきなりランクアップ




「お待たせ致しました。こちら、素材の報酬金額となります。お受け取りください」




査定を頼んでからしばらくして、受付嬢が戻ってきた。

カウンターには一枚のミスリル貨、数枚の白金貨、大量の金貨が並んでいる。

この世界には共通してミスリル貨、白金貨、金貨、銀貨、銅貨が流通しており、ミスリル貨はおよそ1000万、白金貨は100万、金貨は10万、銀貨は1万、銅貨は1000円となっている。

つまり、僕らの前にあるこの大量の硬貨を換算すると―――




「えーっと、1760万!?」




一気に大金持ちになってしまった。

確かにSランクの魔物も狩ったとはいえ、結構な額を稼いでしまった。

隣に居るルーナは、なんだか不服そうな顔をしている。




「ふぅん、それっぽっちか。もっと狩れば良かったかしら?」


「いやいや、これでも凄い額だよ······!」




200年という歳月のせいか、やはり金銭感覚が違うのだろう。

しかし1000万以上稼ぐのは、並みの冒険者でもなかなか実現出来ない。

そもそもSランクの魔物を狩れる冒険者すらあまり居ないので、1000万以上稼ぐとなれば地道にやって10年で達成する額だ。

それを一回でこんな額を稼げるなんて、誰も夢には思わないだろう。




「ふふっ、本当に凄いことです。私もミスリル貨なんて初めて見ました」




受付嬢が僕たちのやり取りを見てクスクスと笑うと、僕のほうを見て言った。




「あなたはFランクとのことですが、これだけの魔物を狩った成績もあるのでランクアップをされてはどうですか?」


「ランクアップ?」




ルーナが首を傾げる。

ランクアップは、冒険者の個人やパーティのランクを上げることである。

ランクアップをするには、単純に依頼クエストを一定以上クリアするか、自分より上の魔物を狩るかなど多岐に渡る。

今回は魔物を多く狩ったということで、ランクが上がるのだろう。

それをルーナに説明していると、受付嬢がルーナに向けて言った。




「あなたは冒険者ではないようですが、これを機会に冒険者になってみてはいかがですか?」


「私?」


「はい。あなたの先程の殺気を感じて、只者ではないと感じました。それも他の冒険者たちを圧倒するほど。なので実力は相応のものがあるのではないかと思うのですが······」


「そ、そうかしら?」




あまり褒め慣れていないのか、ルーナは頬を赤くして照れていた。

ルーナが冒険者か。

確かにそれは良いかもしれない。

いくら彼女が傍に居るといっても、この先依頼で冒険者しか立ち入れない場所に行くことも多分あるだろう。

そうなれば当然、彼女は付いてこれない。

だが、冒険者になれば色々とメリットはある。

それに、彼女と二人でパーティを組むのも良いかもしれない。

そう思うとついワクワクしてしまい、僕も受付嬢の言葉に賛成した。




「ルーナ、冒険者になってみようよ!そうしたら、二人でパーティ組もう?」


「パーティ······パーティね。ふふっ、いいわよ。じゃあ、冒険者になってあげる」


「やった!」


「ふふっ、子供みたいにはしゃいじゃって。可愛いわね」




そうは言われても、嬉しいものは嬉しいのだから仕方ない。




「だけど、魔法使い二人のパーティか。ちょっと奇抜過ぎるね」


「あら、いいんじゃない?私とあなたがいれば最強よ?」




それは確かに。

彼女さえ居れば、怖いものは無い。

例え魔王が攻めてきたとしても、僕と彼女なら難なく倒せそうな自信すらある。

二人でそんな和やかに話していると、受付嬢の顔が青くなっていた。




「えっ······?ま、待ってください······魔法使いで、名前がルーナ?そ、それっでまさか······あ、あのお伽噺に出てくる······?」




あぁ、どうやら彼女も彼女の存在は知っているようだ。

まあ、世界の誰もが知っていることだから当たり前といえば当たり前か。




「失礼ね。私は、架空の人物じゃないわよ。正真正銘、私は『月影の魔女』ルーナよ。まあ、今の私はこの人、アヴィスの妻なんだけどね」




そう言い、ルーナは僕の腕に絡んでくる。

僕は気恥ずかしくて頬を掻いてそっぽを向くが、受付嬢の顔は逆にどんどん真っ青になっていった。




「ま、まさか実在していたなんて······い、いえ······でも······いや、そんなはず······」




どう反応したら良いか分からないといった感じで、頭を抱えて自問自答を繰り返している。

まあ、その気持ちは痛いほど良く分かる。

僕も最初は信じられなかったけど、彼女の異常な強さを見てからは信じるようになったくらいだ。




「言っておくけど、彼女の強さは本物だよ。僕も彼女のおかげで強くなったんだ」


「は、はぁ······」


「良く言うわよ。今じゃ、私とあなたは同格の強さよ?いえ、私でも思い付かない機転、予想以上の飲み込みの速さ。それらを含め併せたら、あなたのほうが実力は上よ?」


「あはは、そうかな······?」




伝説の魔法使いにそこまで言ってもらえるなんて、本当に嬉しい。

その言葉を聞いた受付嬢は、あわあわと慌てて冷や汗をだらだらと流していた。




「えっ······?えっ······?待って······伝説の魔女が実在していて······?それで、彼女よりFランクの彼が強い······?ど、どういうこと······?」




酷く混乱していらっしゃる。

まあ、仕方ないよね。




「えっと······じゃあ、僕のランクアップと彼女の冒険者ギルドカードを発行してくれますか?」


「ひゃ、ひゃいっ······!で、ではギルドカードの提出をお願いしまひゅっ······!」




噛んだ。ちょっと可愛い。

僕は懐からギルドカードを渡すと、受付嬢は慌てながら奥へ引っ込んで行った。

大丈夫かな、あれ······?

うーんと悩んでいると、ルーナが僕の腕を引っ張った。




「ねぇ、ギルドカードって?」


「あぁ、それはね······」




待っている間、僕はルーナに色々説明することにした。

冒険者には、ギルドカードが配布される。

ギルドカードは、いわば身分証明書だ。

これがあれば世界の何処でも依頼を受けることが出来る上、ランクが上がればこれを見せるだけで世界の重要な場所にも出入り出来たり、要人にも会えたり出来る。

まあ、それにはSランク以上にならないと駄目なんだけど。




「ふぅん、一応メリットはあるのね······」


「まあ、世界の要人に会うなんてことは、ルーナにとっては興味ないと思うけどね」


「あら、分かってるじゃない。さすが私の旦那様ね」




この短い付き合いでも、彼女は興味のあること以外は本当に無頓着なのを知った。

だから王様とか貴族とか現れても、ルーナが興味を持たない以上は相手にしないだろう。

まあ、身分証明書を持つこと自体はメリットがあるから持ったほうがいい。




「お、お待たせいたしました!」




そんな会話をしていると、受付嬢が戻ってきた。丁度良いタイミングだ。




「え、えっと······こちら、ルーナさんのギルドカードになります。最初は全員Fランクからのスタートなので、頑張ってください」


「ふぅん、これが······」




ギルドカードを受け取ったルーナは、まじまじとそれを見ていた。

初めて見るからか、少し興味があるようだ。




「そ、それと······こちらがアヴィスさんのギルドカードです。ランクアップ済みですので、ご確認ください」


「あ、はい。ありがとうございます」




僕は言われた通りギルドカードを受け取ると、ランクを確認してみる。




「えっ······!?え、Aランク!?」




あまりの飛び級に、僕は思わず目を見開いて驚きを隠せなかった。

Fランクから、まさかのAランクへの昇格。

普通は一つずつランクが上がっていくのに、これはさすがに破格すぎる。




「へぇ、Aランクなんて······さすが私の旦那様かしら?」


「そんな······えっと、間違いじゃないんですか?」




あまりに信じられず、受付嬢に確認を取る。

受付嬢は苦笑いをしながら答えた。




「あ、あはは······私も驚いたのですが、ギルドマスターと話し合った結果、そうなりました」


「ギルドマスター?」




ギルドマスターは、文字通りギルドの長だ。

ギルド内では一番の権力者であり、貴族や王族ともコネクションがある重要人物。

そんな人物が、僕のランクをFからAにしたというのか?




「おう、呼んだか?」




考え込む僕らの前に、その人物は現れた。

いかつい身体と顔の中年男性。

ニッと笑顔を見せた彼は、陽気に口を開いた。




「俺がここのギルドマスター、『アンウッド・バッド』だ。よろしくな、ボウズ共!」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る