第15話 冒険者ギルドで換金を
城塞都市『アルドーバ』の中へ無事に入れた僕たちは、冒険者ギルドの入り口に立っていた。
「へぇ、ここが冒険者ギルドね?」
「うん、そうだよ」
『月影の魔女』ルーナはこういうところは初めてなのか、興味深そうに建物を見上げていた。
まあ、200年程前は冒険者ギルドなんてものは存在しないと本で読んだことがあるし、当然といえば当然だろう。
冒険者ギルド。
ここは依頼を受ける冒険者たちの活動拠点であり、素材を買い取ってくれる貴重な場。
各町に点在しているが、それらはまとめて国が管理しており、冒険者の行動によって個人ランクやパーティランクは国が定めるのだ。
「―――って感じかな」
「ふぅん、なるほど。なかなか面白いわね」
ルーナに説明をしながら、建物の中に入る。
ガヤガヤと賑やかなところは、他のギルドと変わらない。
そして、他の冒険者たちが新参者に向ける好奇や疑念の視線も変わらない。
「なんだか見られているわね。私たち、そんな変かしら?」
「僕らが初めて見る顔だからだろうね。それに、ルーナは美人だから仕方ないというか······」
照れながら言うとルーナは嬉しそうに顔を綻ばせ、僕の腕に絡んできた。
「ふふっ、嬉しいこと言っちゃってくれて」
「お世辞じゃないよ?」
「分かってるわよ。あなたはそんなことが言えるほど器用じゃないしね」
クスクスと笑うルーナを見るのが恥ずかしくて、僕は視線を逸らした。
照れくささを必死に隠しつつ、僕はルーナと共に受付へ近付く。
受付嬢は僕たちの姿に気が付くと、満面な笑顔を見せてきた。
「いらっしゃいませ!初めての方ですね?登録ですか?それとも素材の買取でしょうか?」
シリオスの冒険者ギルドの受付嬢とは違い、僕に何の偏見も持たずに対応してくれている。
営業だから当然なのだが、それがなんだかとても嬉しかった。
「こら、鼻の下伸ばさない」
「痛い!」
別に受付嬢の笑顔に見惚れていたわけではないのだが、ルーナは勘違いしたようだ。
不機嫌そうに頬を膨らませながら、僕の頬を割と本気でつねってきた。
その顔は可愛いんだけど、本当に痛い。
「ふふっ、仲がよろしいのですね」
僕たちのやり取りを見た受付嬢は、クスクスと面白そうに笑っていた。
なんだか気恥ずかしい。
さっさとやることをやって、宿屋を取ってさっさと休もう。
「す、すみません。変なところをお見せしました。えっと、素材の買取をお願いしたいのですけど······」
「はい、かしこまりました。では、お見せしましたいただけますか?」
「分かりました。―――『
僕は魔法を発動させ、魔法陣から今まで狩ってきた魔物の素材を出した。
『吸収魔法』は、本当に便利な魔法だ。
『吸収』したものは、自分の任意でそれを出し入れ出来る。
いわば、『
「なっ······!?」
それを見た受付嬢は、驚天動地の勢いで目を見開き驚いていた。
いや、受付嬢だけではない。
この場に居る他の冒険者たちも、同じようにどよめいた。
「ま、魔法を詠唱破棄!?しかも、見たことがない魔法!?そ、それにこの素材の山々は······!?」
あ、しまった。そうだ、失念していた。
魔法は詠唱しなければ発動出来ない。
それは、この世界で当たり前のことだ。
僕は自信がついてしまったことで、そのことをすっかり忘れてしまっていた。
まあ、今さら隠そうとしても遅い。
隣にはルーナも居るし、ここは毅然とした態度でいこう。
「買い取ってくれないの?」
「も、もちろんそうですけど······で、でもこれは······!」
彼女が驚くのも無理はない。
僕が出した素材は、『死鬼の森』で狩ってきた魔物ばかりだ。
Bランクの『
「あ、あの······あなたは、Sランク冒険者の方ですか!?」
「えっ?いえ、Fランクですけど?」
素直にそう言うと、受付嬢は瞬きすらせずポカンとしてしまった。
それを聞いた他の冒険者たちが、どっと笑い始めた。
「おいおい、Fランクがそんな高ランクの魔物を狩れるわけないだろう!」
「あれだろ?誰かが狩ったものを譲ってもらったか、あるいは盗んできたんじゃないのか?」
「それか、そこの美人なねーちゃんがやったんじゃないのか?」
「いくら魔法を使えても、Fランクじゃあな」
次々に罵声が飛んでくるが、実際Fランクが高ランクの魔物を狩れるわけがないので言い返すことは出来ない。
それに、彼女も狩ったのも事実。
だけど、この程度の暴言なら聞き飽きているので無視出来る。
しかし、ルーナは違ったようだった。
「······あなたたち、人の旦那を馬鹿にしないでくれるかしら?」
酷く低い声を聞いて、即座に理解した。
間違いない。彼女は相当怒っている。
そんな彼女に、命知らずな冒険者たちは下品な笑顔を浮かべてルーナに近付いてくる。
「こんなひょろいFランクが、あんたみたいな美人の旦那だって?」
「冗談キツいぜ、ねーちゃんよ。そんな奴より、俺を選んだらどうだ?俺ぁこう見えてCランクなんだぜ?」
「俺だってBランクだ!」
わいわいと群がってくる冒険者たちがルーナを取り囲もうとするが、彼女は冷たい視線を向けて静かに言った。
「うるさいわね、聞こえなかったのかしら?私の旦那を侮辱するなと言ったんだけれど?」
瞬間、彼女から突き刺さるような凄まじい殺気が放たれた。
「ひ、ひぃっ······!」
「はがっ······!?」
彼女の殺気に当てられた冒険者たちは皆、その殺気に堪えられずに気絶したり怯え、震えながら失禁したりした。
本当に恐ろしい。殺気を向けられていない僕も、背筋が凍り付いてしまうほどだ。
「······ルーナ、そこら辺にしてくれないかな?少しやりすぎだよ」
「······そうみたいね、ごめんなさい」
我に返ったルーナは殺気を消し、素直に僕に謝った。
おそらくこのやり取りを見て、この場に居る全員が理解しただろう。
彼女を怒らせるとどうなるのか。
そして、それを簡単に諌めた僕と彼女の関係を。
まあ、少しやり過ぎな部分はあるけど。
「まあ、いいや。早く済ませよう。ということで、受付嬢さん。換金をお願いします」
「は、はひっ······!わ、分かりました!さ、査定に少し時間がかかるので、しばらくお待ちください······!あと、殺さないでくださいぃ······!」
受付嬢は酷く怯えた様子で、僕らに懇願してきた。
殺すも何も、冒険者ギルドの規定で冒険者同士の殺し合いはご法度なのだが。
それを忘れてしまうほど、僕たちに恐怖したらしい。本当にやり過ぎたようだ。
「すみません、彼女には言い聞かせましたので許してくれませんか?あと、殺したりなんかしませんよ」
出来るだけ優しい笑顔でそう言うと、受付嬢は安心したような顔を見せた。
「そ、そうですか······良かったです」
「むしろ迷惑をかけたようで、すみません」
「いえいえ!そんなことはありません!彼らにお灸を据えてくれたようで感謝しかないです。困ったもので、私たち受付嬢や他の女性冒険者を誘ってくることもあったので、助かりました。本当にありがとうございます!」
先程と同じ笑顔を見せる受付嬢。
良かった、どうやら警戒心は解けたようだ。
これで、ひとまずは安心かな。
「それでは査定を行いますので、少々お待ちくださいね」
「はい、よろしくお願いします」
これで首都の『セクリオン』までの必要資金は確保出来そうだ。
あとは宿屋を見付けて一泊し、『セクリオン』までの道順を調べてから出発しよう。
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