新婚旅行という名の旅路

第11話  その頃のシリオス帝国~シェリアside~




私の名前は、『シェリア・ヴィ・シリオス』。

この『シリオス帝国』を治める国王、『ザイフェス・ド・シリオス』の娘であり、第三王女でもある。

だけど、私はこの国がとても嫌いだ。

この『シリオス帝国』は実力主義国家であり、力無き弱き者は強者に悉く蹂躙される。

いわば、弱肉強食の国。

それを強き国の象徴だと主張する我が父母も、その背中を見てそれが当たり前だと育った姉たちも私は大嫌いだった。




「そんなので、本当に強国に出来ると本気で思っているのですかね、あのバカ共は······」


「シェリア様、素が出ております」


「別に良いんですよ。この私の部屋にはあなたしか居ないんですから、フィア」




私の侍女で、メイド長の『フィア』が無表情に注意してくるも、私の部屋にはフィアしか居ないのだから気を遣う必要はまったく無い。

フィアは、私の素を知っている二人の友人の一人だから。

そして、もう一人は―――




「そういえばフィア、アヴィスはどうしたのですか?昨日から、顔を見せに来ませんけど······」




『アヴィス・クローデット』。

この国で有数の大貴族、『クローデット家』の長男であり、私の婚約者でもある少年。

彼は貴族ながら冒険者として活動しており、その冒険者ギルドの中でもトップクラスのパーティ、『栄光の支配』に所属している魔法使いだ。

しかしそんな経歴よりも、私は初めて会った日から彼の人柄に惹かれていた。

彼は困っている人が居たら迷わず助けるほど、底無しに優しくてお人好しだ。

この国には無い、他人を思いやる気持ちを彼は持っていた。

私は彼にすぐに婚約を取り付けたが、彼はまんざらでもない様子で毎日というほど顔を見せに来ていた。

なのに、昨日からまったく姿を見せなくなっていた。

何か用事があったのかもしれないが、用事がある時はいつもフィアが連絡係として教えてくれるはずなのに。




「シェリア様、そのことでご報告があって参りました」


「報告?なんです?」




いつになく、真剣な顔をするフィア。

あっ、フィアったらいつも無表情だから真剣とか分からなかった。

とにかく、アヴィスに関しての報告なら私も真剣に聞かざるを得ない。




「落ち着いて聞いてください。実は―――」




そして、私はフィアの報告を最後まで聞いた。

フィアが話し終わったと同時に、私はこれ以上無いほどの大声を上げた。




「はぁあああああああああああああっ!?何ですか、それ!?」


「シェリア様、はしたないですしうるさいです。仮にも姫なのですから、もう少し淑女に······」


「そんな悠長なこと言ってる場合ですか!」



フィアから聞いた話は、まさに寝耳に水だった。

アヴィスが『栄光の支配』から追放されただけではなく、『クローデット家』からも除籍されてしまったらしい。

それだけでも充分衝撃的なのだが、私は彼女から放たれた最後の言葉が信じられなかった。




「わ、私との婚約を破棄したですって!?」


「はい。補足しますと、本人たちの了承無しに国王様と『クローデット家』の家長、『エルミオラ・クローデット』によって破棄された模様です」


「な、何を考えているんですか、あの人たちは······!?頭がクルクルパーなんですか!?」


「シェリア様、落ち着いて······って、既に私の声が届いていませんね」




彼との結婚は、この国を大きく変えるきっかけになる。

そんな人柄と才能が彼に眠っているというのに、、本人に確認しないで何を勝手なことをしてくれるのだろうか。

というか、彼の才能を手放した国王も『クローデット家』も『栄光の支配』も、皆馬鹿だ。

そいつらこそ、本当の無能である。




「っ、認めない······断じて認めません!行きますよ、フィア!」


「どちらに?」


「直談判に決まってるわ!」












「お父様、お話があります!」




そうしてまず最初に訪れたのは、もちろん国王が居る玉座の間だった。

その玉座に座るのが、私の父で国王の『ザイフェス・ド・シリオス』である。




「シェリアか······何用だ?何やら憤慨しているように見えるが······?」




何用だ、ですって······?

用があるからわざわざ来たんでしょうが、このアンポンタン!

そう叫びたかったが、相手は一応父で国王なので素を隠して問う。




「フィアから訊きました。私とアヴィスの婚約を破棄したとは、どういうことですか?」


「む、そのことか······どういうも何も、そのままの意味だ。お前がどうしてもというからその男と婚約させたが······聞けばその男、国として有名な『無能魔法使い』とのことではないか。そんな奴と結婚させ、子供が無能だとしたらどうするのだ?王族が無能なのはいかん。だから私は『クローデット家』と話して決めたのだ。なに、安心しろ。『クローデット家』から弟の『ユリウス・クローデット』を婿に取らせると約定を頂いておる。彼の噂は私も聞いておるし、お前にピッタリな男だ。良かったな」




私が何故怒っているのか分からないのか、黙って聞いていればペラペラと随分勝手なことばかり言ってくれる。

しかし、それで納得出来るはずもない。




「何も良くはありません!彼は無能ではない!彼は、『七属性所有者』です!この国に貴重な人材ですよ!?」


「ふん、しかし初級魔法しか扱えないと『エルミオラ・クローデット』から聞き及んでおる。せっかくの『七属性所有者』でも、初級魔法しか使えぬのなら宝の持ち腐れよ。我が国は実力でものを言う。そんな弱者など、貴重でもなをでもないわ」


「なっ······!」




彼の言い分に、私は心底呆れてしまった。

『七属性所有者』は、世界に何人も居ないとされるほど珍しいもので、初級魔法しか使えないとは言ってもその存在は非常に貴重だ。

それを弱いからいらないなどと、本当にこの人は愚王と呼ばざるを得ない。

いや、私との婚約を勝手に破棄した時点で既に馬鹿なんだけれども。




「どうかご再考ください、お父様!彼は、私にとって必要不可欠な方なのです!」


「くどい!必要は無い!」




必死な懇願にも耳を貸さない父の姿に、私は頭に血が昇ってしまった。

こんなのが国王ならば、この国はきっと先は長くはない。

ならば、もう知るものか。




「······やじ······」


「ん?何か言ったか、シェリアよ?」


「このクソ親父って言ったんです!耳まで遠くなるとは、もはやジジイですね!」


「シェ、シェリア······?」




家族の前ですら見せなかった自分の素に、お父様は目を丸くして唖然としていた。

だが、もう知ったことではない。

私は、もう決めたのだから。




「老害には、もはや興味ありません。私は、この城から出ていきます」


「な、なんだと······!?」




私の発言に、父だけではなく護衛の騎士や兵士までもざわつき始めた。

まさか出ていくと言い出すとは思わなかったのだろう、全員顔が真っ青になっている。

その中でも一際顔を青くしているのは、他でもないお父様だった。




「バ、バカなことを申すな!お前は、我が国の頭脳でもあるんだぞ!?城を出るなど、断じて許さん!」


「あなたの許可なんて必要ありません。私は、あなたに愛想が尽きました。よって、あなたとの縁を切らせていただきます」


「なっ······!?」




私の突然の絶縁宣言に、お父様は顔を絶望の色に染めた。

しかし、そんな顔をされても意思は変わらない。




「そんなにあの無能男との婚約破棄が気に入らなかったのか!?そこまで奴を愛しているのか!?考え直せ!お前は一時の感情に流されておるだけだ!」




この人は、本当に何も分かっていない。

やはり絶縁宣言は正しかった。

私はこれ以上言うことは何もないと思い、背を向けて出口へ歩き出す。




「ま、待て!ならん!行かせはせん!皆の者よ、そのバカな娘を捕らえよ!」




背後で父の焦った声が響き、命令通りに私を捕らえようと騎士や兵士たちが駆け寄ってくる。

しかし、その手は私を捕まえることは叶わなかった。




「······聖なる光よ、我を守る盾となれ。―――『聖光壁セレントウォール』」




私が魔法を唱え、私と兵士たちの間に光の壁が出来たからだ。

私が持つ『神聖魔法』によって作られたこの壁は、私が敵と定めた相手の侵入を完全に防ぐ上級魔法だ。

なので、私より下の実力を持つ彼らの手が私に届くことはない。




「くっ······神聖魔法か!」


「本当に、あなたは残念な方ですね。私やアヴィスの実力を見誤るなんて······本当に愚かです」


「ぐっ······」


「それでは、ご機嫌よう。さようなら」


「待て······!」




私はそれだけ言うと、父の言葉を無視して玉座の間を出た。

さて、早速荷造りをして城を出て、アヴィスに会いに行かなくちゃ。

実家にも居ないなら、宿屋かしら?

探しましょう、愛する彼を。

そう誓い、私は自室へと向かった。





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