第2話 新天地を目指します
「これから、どうしよう······?」
パーティからも実家からも追放された僕は、ふらふらと街中を歩いていた。
着の身着のまま出てきたため、僕は一文無しの状態だ。
とりあえず生活を維持するためにも、お金を稼がなくてはならない。
だから、まず行くべきところは―――
「ようこそ、冒険者ギルドへ」
そう、僕はいつもパーティで来ている冒険者ギルドへ赴いていた。
お金を稼ぐなら、やはり依頼を受けて達成するのが一番手っ取り早い。
そう思って来たのだけど、幸先はあまり良くないらしい。
何故なら、さっきまで笑顔だった受付嬢の顔が僕の顔を見た途端、まるでゴミを見るかのように冷たくなっていたからだ。
「何の御入り用でしょうか?」
「えっと、依頼を受けに来たんだけど······」
「申し訳ありませんが、あなたの冒険者ランクは最低のFランクです。あなたがお受け出来る依頼などありません。ですので、『栄光の支配』の皆様と一緒に改めてお越しください」
「い、いや······その、お恥ずかしい限りなんだけど······僕、パーティを追放されたんだ」
頬を掻きながら正直にそう言うと、受付嬢のみならずそれを聞いていた他の冒険者たちも一斉に笑い出した。
「ぶはははははっ!お前、とうとう追放されたのかぁ!?」
「まあ、だよなぁ!『栄光の支配』のパーティランクはS!メンバーもSからAだ!」
「対してお前はF!分不相応ってやつだな!」
「幼馴染みだかなんだか知らねぇが、お情けで入れてもらっていたんだ!むしろ今まで良く生きていたなぁ、おい!」
「まあ、最低ランクは最低ランクらしく薬草の採取依頼とかで慎ましく生きてろよ!」
次々に冒険者たちが馬鹿にしてくるけど、全くもってその通りで返す言葉もない。
だけど、僕だって冒険者なんだ。
例え最低ランクでも、受けられる仕事はある。
誰にだって、依頼を受けられるのがギルドの法なんだから。
「あの、お願いします。なんとか、僕一人でも受けられる依頼はありますか?」
「ありません。どうぞお引き取りを」
「お願いします!薬草採取でも掃除依頼でも、何でもいいんです!」
「ありません。どうぞお引き取りを」
とりつく島もない。
まるで相手にされていないようだ。
他にもFランクの冒険者が居て、その人たちは普通に依頼を受けているのに、何故僕だけが冷遇されるのか。
それは、僕が初級魔法しか扱えない無能魔法使いだからだ。
低ランクの魔物の一撃で死ぬこともある。
だから、どうせ依頼を出しても無駄。そういうことらしい。
「一つ提案があるのですが、冒険者を引退なされてはどうですか?田舎に引っ越して農家でも興されたほうが良いのでは?」
クスクスと煽るように言う受付嬢。
いや、正しくは他の冒険者たちと同じように僕を馬鹿にしているんだ。
だから、そんな言葉が言える。
だけど、僕は冒険者を辞める気はない。
いや、辞められない理由があるんだ。
「お願いします!簡単な依頼でいいんです!」
「はぁ~······しつこいですね?あなたみたいな能無しにくれてやる依頼などございません。速やかにお引き取りを」
「そうだそうだ!お前みたいな無能魔法使いは、俺たち冒険者の目の上のたんこぶなんだよ!」
「お前みたいな底辺が自由に依頼を受けられると、こっちも迷惑なんだよ!」
受付嬢の言葉に、他の冒険者たちも扇動して僕を見下してくる。
『栄光の支配』に居た時も相当だったが、抜けてからはより酷い扱いになった。
ここで粘っても、罵倒や暴言が飛んでくるのみで依頼は貰えそうに無いな。
「······分かりました、ご迷惑おかけしました」
軽くお辞儀をし、僕はギルドを後にしようと歩き出す。
その背後から、さらに煽る受付嬢の声が聞こえてきた。
「あぁ、そうそう。今後依頼をお受けになるおつもりでしたら、パーティを結成してランクを上げてから来てくださいね?まあ、あなたのような無能魔法使いを受け入れてくださる奇特な方がいらっしゃったらの話ですが」
受付嬢の言葉に、さらに冒険者たちは可笑しそうに笑い出す。
人はここまで他人を見下せるものなのかと、僕
は歯軋りをして外へ出た。
だけど、彼女の言うことにも一理はある。
僕みたいな底辺魔法使いを受け入れてくれるパーティなど、果たしてあるのだろうか?
いや、多分無いな。
パーティに一人足を引っ張る者が入るだけで、パーティ全体の致死率を大幅に上げることになる。
だから受け入れてくれる人は少ない。
そういう意味では例え罵倒や暴力を受けていても、僕をパーティに入れていたユリナたちに感謝しなくてはならない。
今さら、何もかも遅いけど。
「······でも、これからどうしよう?」
僕はどうしたら良いかと思案する。
依頼を受けられなかったとはいえ、僕は冒険者を辞めるつもりは無い。
それが彼女との約束なのだから。
「とはいえ、このままこの国に居ても依頼は受けさせて貰えそうに無いしなぁ······」
この国で冒険者ギルドがあるのは、一つだけ。
あそこで依頼を受けさせてくれない以上、僕がお金を稼ぐ手段は無い。
いや、あるにはあるのだが、それは僕にとっては不可能なことだ。
それは、魔物を狩って素材を売ることだ。
だけど不可能なのは、僕が底辺ランクの魔物にさえ負けてしまうほど弱いからだ。
なにせ僕が使用する初級魔法は、誰にでも扱うことが出来る。
それは、子供にでもという意味だ。
子供が狩れる魔物など存在しない。
「どうしたものか······あっ、そっか」
僕は考えていたが、すぐに名案が浮かぶ。
なにもこの国で冒険者を続ける必要は無い。
他の国でも、依頼を受けることは出来る。
さらに僕が無能魔法使いだと知れ渡っているのはこのシリオス帝国のみ。
なら、僕の実力が知られていない他の国へ行って依頼を受ければいいだけのこと。
「なんだ、簡単なことだったんじゃん······」
どうせ、この国に僕が居る理由は無い。
幼馴染みたちがいるパーティも、家族も、金や仕事さえも奪われた。
なら、思い留まる必要は無い。
最後に彼女に挨拶はしておきたかったけど、家を追い出された僕が会いに行ける訳もない。
「あっ、いや······あの人にだけは挨拶しておかないと!」
大事な人を忘れていた。
あの人に黙って居なくなるほど、僕は恩知らずな奴じゃない。
何より、後が怖い。
「そうと決まれば、向かうか······」
気分は重いが、僕はあの人の居る場所へ向かった。
「······というわけでして、僕はこの国を出ることにしましたのでご挨拶をしに来ました」
シリオス帝国から少し離れた森にある山小屋。
そこを訪れた僕は、目の前の椅子に座る一人の人物に頭を下げていた。
「ふん、わざわざ私のところに挨拶に来るとは相変わらず律儀な奴だな、アヴィスよ」
読んでいた本を閉じ、せせら笑う彼女の名前は『クロディーヌ・ド・シモン』。
僕や『栄光の支配』の皆に戦闘技術を教えてくれた先生であり、僕にとっては師匠に当たる人だ。
昔は勇者パーティの一員であり、『賢者』の称号を持った人だが、今は引退してこの山小屋にひっそりと隠居生活を送っている。
「お世話になった師匠に挨拶も出来ないほど、僕は落ちぶれてはいないですよ」
「そうか、それは良かった。にしても聞いたぞ、『栄光の支配』を抜けたらしいな?」
「······さすが、師匠ですね。情報が早い」
「私を誰だと思っている、馬鹿弟子め」
コツンと僕の頭を叩くも、師匠は笑ってくれていた。
師匠は他の皆とは違い、初級魔法しか扱えない僕のことを認めてくれている。
その理由は定かではないけど、僕にとって心を許せる大事な人だ。
だから、僕も自然と笑みが溢れる。
「じゃあ、そろそろ僕は行きます」
「······行き先は決まっているのか?」
「はい。とりあえず『セクリオン』へ行こうかと思っています」
「なるほど、魔導国家『セクリオン』か。確かにあそこならば、例え初級魔法しか扱えなくても肩身が狭い思いはしないな。だが、分かっているのか?そこへ行くには······」
「はい、あの森を越える必要があるんですよね?」
「私としては、お前を死地に追いやる真似はしたくない。出来ることなら一緒に付いていってやりたいところだが······」
そう言って、師匠は部屋の棚に置いてある写真立てに目を移した。
そこには、師匠と仲睦まじく映る女の子の姿が映っていた。
「あの子がいつ戻ってきてもいいように、私はこの地を離れるわけにはいかないのでね」
「······そうですね。大丈夫ですよ、師匠。僕も一応は冒険者です。いつだって死を覚悟していますよ」
「馬鹿者。生きるために冒険者を続けているのだろう?ならば、その気持ちを決して忘れるな」
確かに、師匠の言う通りだ。
僕は冒険者として覚悟はしていたけど、少し死というものを軽く考え過ぎていた。
生きるために足掻く。
命を大事にしなくてはならない。
それでも僕は行かなくてはいけない。
何よりも、生きるために。
「ありがとうございました、師匠。落ち着いたら、また顔を出します」
「ふん、無茶だけはするなよ?」
「はい、師匠もお元気で」
僕は再び頭を下げると、山小屋を後にした。
さあ、ここから僕の新しい冒険が始まる。
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