第41話 遭遇



王都に来て翌日

俺はいつもと違う環境に来て疲れたからなのか、ぐっすりと眠ってしまった。

と言っても男爵会議が開催されるのは、数日後なので、今日は暇だ。


一度目を開いたが、何もないと分かった瞬間、もう一眠りしようと身体を横に向けて目を閉じようとすると、ムニュっと手にとても柔らかい感触を感じる。


「ひゃんっ」

そして、女性のような甲高い声がすぐ隣で聞こえてきた。

なんだ?と思い目を開けるとそこには顔を真っ赤にして目を潤わせながらこちらの方を見ているソフィアの姿が見える


「....ソフィア?何してるんだ?」

それになんだか、嫌な予感がする。あわあわと言いながら何も答えられない様子の妹を見ながら今、手元を掴んでいるなにかに目を向ける。


「....悪い」

目を向けてすぐに謝り、手を離す。

さっきまで俺が掴んでたものは...ソフィアの胸だった。

彼女はまだ13歳という成長期でありながらも、他の人よりも少し大きい物をお持ちだ。

そんな成長期の胸をわざとではないが、思いっきり掴んでしまった。

...柔らかかったな、じゃなくてだ。


「ほんとにごめん、まさか隣にいるとは思わなくて....」


「い、いえ!」

すると、さっきまで横にしていた身体が目に見えない速度でピシッと背筋を伸ばして

立っている。えっ?今の普通に見えなかったぞ?


「そ、その!き、今日は特に何も予定がなかったので!も、もしお兄様にお時間があれば、昨日約束したデートをしようと思いましてでして!お兄様と一緒に寝たかったから横になったのではなく...えっとっ.....そのっ.....」


相当パニクってるのか彼女の言葉遣いにおかしいと感じながらも、なんとか落ち着かせるためにもしっかりと答える。


「分かった。デート、デートな?俺も今日は時間があるから、少し落ち着いてくれ」


「ひゃ、ひゃいっ!?」

ソフィアらしくない素っ頓狂な声を出して、さっきよりも落ちていてないのか、目がグルグルになっている。


「えと、あの....そ、それではソフィアはデートの準備をさせていただきますのでこれで失礼します!!」


俺が何かを言う前にソフィアは光の速度でこの部屋から出ていった。

その後、バタバタと貴族の屋敷の廊下らしからぬ、音が暫く聞こえた。


「...あとで何かさせてあげよう」

妹の様子に恥ずかしさよりもどこか罪悪感を抱きながらも、俺も外に出ていく支度をしていく。





準備が出来たので、ソフィアと一緒に行こうとして扉の前に行ったのだが、どうやらまだ時間がかかるらしく「先に行ってお待ちください!」と言われたので仕方なく

王都の街通りに出ておそらく街の真ん中だろう噴水をみかけたのでそこで待つことにした。


出ていく途中、ナーシャに出会い、今から外に行きますと言ったら、とても羨ましそうにしていた。「抜け駆けとは....」と呟いていたが、いつもの如く気にしないことにした。


にしても周りを見れば人、人、人....キリがないな。

王都の人口の多さに心の中で驚いていると突如、その中から懐かしい声が俺の耳に入ってきた。


「…え、あれって……やっぱり…!」

ん、なんだ?と思い声が聞こえた方に向けると


「アクセル!」


がばっ!


ぐへぇ…という声をなんとか漏らさずに突然俺の事を抱きしめてきた人物を見るとそこには……前よりも成長したであろうマリアの姿があった


「ね、姉さん?どうしてここに?」


と、学校に行っているはずの姉に問いでみたが、そんなの耳に入ってないかのように

マリア姉さんは俺の頭に顔を近づけてはスゥ〜と嗅いでくる。


「あぁ、久しぶりのアクセルの匂いだわ。

3年も会ってないとここまで欲するのね。とっても濃厚だわ。それに前よりも大きくなった?お姉ちゃん、アクセルがここまで成長してくれて嬉しいわ。とてもかっこいいわよ。前よりも私好みに……」


会えて嬉しいのか、それともおかしくなったのか、よく分からないが暴走している。

なんか、スキンシップ激しくなってない?

頭を嗅いでくるって……それに何故か息が荒いような……



「ね、姉さん?とりあえず離れましょう?す、少し苦しいです」


抱きしめてる間の息苦しさ、視線、羞恥心、色々な理由から今は姉さんから離れたい……ほら見ろ、他の人から「あれって確か英雄ブリュンヒルデよね……?」とか聞こえるし。


姉さんも気づいただろう。俺を抱きしめながら周りをキョロキョロみている。良かった、これで離れてくれて……


「ここじゃあ少し人目が付くわね。場所を移しましょうか」


「えっ?いや今僕ソフィアを……」


言い切ろうとしたが、突然姉さんにお姫様抱っこをされてどこかに連れて行かれた………

うーん、なぜ?すごく恥ずかしい………





「…ここならあまり人もいないし、ちょうどいいわね」


移動した先はあまり人が少なそうな路地裏だ。お世辞にもとてもいい所とは言えないはずだが、隠れて話すならちょうどいいだろう。

俺は姉さんに降ろされ、そして再び抱きしめられる。え?また?


「ね、姉さん?離れてくれるとありがたいのですが……」


「だめよ。まだアクセル成分を補給しきれてないの。あと数時間は堪能させて貰うわよ」


「えぇ…」

えぇ…心の中でも吐いてしまった。そんな姉の行動に困惑する。前の姉さんならここまでしなかったはずだが……


思えば少し不思議だった。この世界に転生してから始めに姉さんと会った時は俺と会う時だけオドオドしたり、目線を合わせたりすると逸らすし、何故か原作とはかけ離れてる気がした。


今もそうだ。こうしてアクセルに抱きしめたり、匂いを嗅いだり、少し頭が抜けた行動したり、俺のイメージとは全く違う姉の姿に困惑した。


でも、もしかしたらこれが素だとしたら今まで苦労してきたかもしれない、そう考えると中々厳しく言えない自分もいる。


「まぁ少しだけなら....ですがどうしてここに?」

今日も普通の平日はずだ。だから今姉さんは学園にいなければおかしいはずなのだが....


「今はね、自由行動なのよ」


「自由行動?」

姉さんによると、どうやら今日は職業体験ということで王都を周っているらしい。このまま王都を周ってもよし、やりたいことや興味のある所に行くのもよし、

そんなこんなで、今は全員が王都に散らばってまわってるらしい。


「でしたら、お友達は?一緒に誰かと周ってるのではないのでしょうか?」


そうを聞くと姉さんは身体をビクッと跳ねて、さっきまで俺の頭に埋めていた顔を逸らしている。


....なるほど。

「ボッチなのですね」


「なっ!?そ、そんなことはないわよ...ほらっ私って学園では結構慕われてるし!」


「じゃあなんで今一人なんですか?」


「うぐっ....」

そういえば姉さん、孤高の一匹狼とも思われていたんだっけ?それに市民の見た様子だと、今の姿は見たことないと思われる。

ここでの姉さんはきっといつもは近寄り難い雰囲気を出しているのだろう...なんかなぁ....


「なんか、悲しいですね」


「そ、そんなこと言わないでよ!?」


姉さんが大声で叫びながら言ってくる。正直、耳元で叫ばれたので非常にうるさい。

ここは少しソフィアと違ってくるなとも思う。


どちらも市民に慕われてはいるが、ソフィアは誰とでも分け隔てなく関わるから周りに人がいるイメージだが、マリア姉さんの場合は慕われてはいるが、クールであまり顔の表情が変わらないせいか、あまり人を寄せ付けない。


姉妹なのにこういう所が違ってくると面白いもんだ....まぁこの世界に来てから全くそんなイメージがないのだけど。今の二人の姿を見たら尚更だ。


「アルマン兄上はお元気ですか?」


これ以上いじり続けると姉さんが可哀想なので少し話題を変えることにした。


「兄さんねぇ...えぇ元気にやってるわよ....婚約者と仲良くね」

何故か微妙な表情をしながら姉さんは答えた。


「...寮に帰ったら私に毎日話してくるのよ。今日はこんなことをした、今日も可愛い、こんな婚約者がいて僕は幸せだ....甘々な惚気話をいつも聞かされて元気じゃなかったらおかしいわよね...」


あぁ...そうか、毎日のように聞かされたら、そりゃあ微妙な気持ちにもなるわな。

そっかぁ...聞かされてはいたけど兄上は婚約者と元気でやってるようだ。よかったよかった....だけど


「...姉さん、そろそろ婚約者を見つけたらどうですか?」

未だ決まっていない姉さんにジト目にして言った。

今の彼女はまだまだ若いのだが、この世界ではもう婚約者がいなければおかしい年齢だ。この人にはできれば幸せになってもらいたい。


だから早くも見つけたらどうだって思いも込めて言ってみたが、姉さんは真顔で答えた。


「何言ってるのよ?見つける気なんてないわよ?」


「...はい?」

確かに結婚するのは個人の自由だ。それは俺もそうだと思う。

でも貴族という立場の都合上、普通は婚約者を見つけて結婚しなければならない。

...まぁ俺も人のこと言えないのだが。


「私はアクセルとずっといるつもりよ〜」

そう言いながら俺の頭をスリスリしてくる。


「はぁ...出来れば姉さんには幸せになってもらいたいのですが...」


「それなら私はアクセルといるのが一番の幸せよ」

この人....平然と恥ずかしいセリフが言えるんだな。

そんなこと言われたら何も言い返せないではないか。


「それに....私がアクセルのことを守らなきゃ」

誰にも聞こえないであろう声でボソっと何かを呟いた。

一瞬何か様子が変わったような気配を感じた時....



「やっとみつけましたわよ、マリアさん」


.....この気配

姉さんは声を聞いてげっ....と嫌な表情をして別の方を見ている。


...俺もつられて姉さんと同じ方向を見ると......


「全く...私と一緒に回ろうって言ったではないですか?」

そこには姉さんと同じあまり見ないロングの黒髪をした女性が立っている。

こいつは....


「...あなたとは回らないって言ったはずだけど、セミカ」


....セミカ・イベルアート

......つまり.....俺の敵が今、目の前に現れた。




【小説家になろうやアルファポリスにも投稿しています。

メインはこっちですが、そちらの方もみてくれたら嬉しいです!!もし良かったらレビューやいいねをお願いします!!!】


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