第40話 動き始める者


空気が凍ったような気がした。魔族という言葉もそうだが、それに結託している人間がいた事におそらく緊張感が増したのだろうな。

それに今ユニーレがいるっていうことはおそらくある程度は調べたんだと思う。


「ユニーレ、今ここにいるってことは俺の頼んだことやってくれたんだろ?」

俺がそう言うと、ユニーレは不機嫌になりながらも、収納ボックスからとある物をだして渡してきた。


「...これ、魔法薬よね?本来人間には創ることが出来ない品物よ。創れるとしたらエルフや精霊といった大樹の恩恵を受けた者だわ...ただこれほど高性能の魔法薬を作れるとしたら.....」


「あぁ、さっきローレンスが言った魔族にしか作れないはずだ」


この世界には人間以外にもエルフ、ドワーフ、ドラゴニュート、精霊など....人外種族が存在する。さっき言ったエルフや精霊は向き不向きはあるが基本、魔法薬を創ることに特化した種族だ。

ただ、今手元にある魔法薬は彼らが創れる範疇を超えている。

どうやってやったかは不明だが、これを創れる種族がいるとしたら奴らしかいない


魔族

人、エルフ、ドワーフなどの者達が光に属する女神によって生み出された者と違い、

闇に属する魔神によって生み出された人種族と相反した種族だ。

冷酷で残忍非道、協力する者も簡単に裏切るまさに外道と言っていいだろう。

自分の目的ならどんなことにも厭わない所もあり、禁句と称される人体実験を攫った者にするほどだ。原作では多くのキャラが魔族によって悲劇的な末路を送ってしまうこともあり、おそらく彼らを好きになる人はいないと言ってもいい。


「我もアクセルの頼み事ついでに少し世界を見て回ったのだが、まだほか種族同士で正式に関わっていい国や場所は見当たらなかった。だから魔法薬は人族には本来ない物のはずだ」


ローレンスはそう呟きながら、俺に渡してきた魔法薬を見て顔を顰めた。


「しかもこれは...ここまで澄んだ物、我でも昔少し見たかどうかのものだぞ?

それも、魔族が持ってたものしか...」


「...そんなものが大量にあったわ」


「...なんだと?」

顰めた顔がそれを覆すかのような険しい顔になり、ユニーレの方を見ている。

本当なのか?とローレンスが思ってるのかが分かったのか、顔を縦に頷く。


「...アクセル、我はお主の味方だ。たとえどんな敵を前にしてもだ」

そう言いながら今度はおれの方をゆっくりと振り向きながら彼女は話し続ける。


「だから、もしお主に危害を加えるものがいるとしたら、我はそいつを容赦なく殺す

...たとえ、お主の家族であってもな」


「...安心しろ、おそらく家族はこの件に関わってない、というよりも

嵌められる側なはずだ」

殺さんと言わんばかりのオーラを出している彼女になんとか訂正をするように俺はユニーレの方を見る。


「...その大量の魔法薬は屋敷にはなかったわ。それにあの様子だとおそらく誰も知らないはずよ」


「...そうか」

ほっと息を吐いて彼女の空気が少し和らぐ。

彼女としてもあまり気は乗らなかったのだろう。

優しいやつだな。


「それよりローレンス、お前の方はどうだったんだ」

俺が聞くと、思い出したかのようにローレンスは俺にある資料を見せてくる

それを一通り見て...俺はため息をついた


「...なるほど、どうやら多くの貴族が買収されているらしい...チックソ共め」


おそらくそれぞれの弱みを作らせて困ったときに、ペレク家があたかも助けに来て、そこで奴らに自分の味方になるようにさせただろうな。

多くの貴族はその狙いに気づいたはずだが、そっちの方が利益が大きいと考えたのだろう。プライドなど捨てて簡単に協力していやがる。どこまで言ってもクソ野郎はクソ野郎ってことだな


「それに、ペレク家の奴らが誰かと密会をしておった。おそらくレステンクール家の中にいる裏切り者、もしくは魔族の類だろう。もしくはそのどちらも...だが」


「どっちにしたって、警戒をするのに十分な理由だ」

そう言いながらユニーレとローレンスに渡された魔法薬と資料を返す


「あなたが持っていなくていいの?」


「今一番安全なのはお前らが持ってることだ。おれは万が一のことがある」


「「っ!」」

瞬間、俺の服の裾を思いっきり掴むローレンスと足元を動かせまいと思わせるほどの魔法を放とうとしているユニーレがいた


「...どうしたんだ?」

二人の動揺しているような行動を見て流石に混乱してしまった。え?俺なんかやらかしたか?


「...アクセル、正直に申せ....お主は一体なにをやろうとしておるのだ?」


「なにをって...」


「とぼけないで、あなたが何かをやろうとしているのは見ていれば分かるわ...少なくとも私達にとっては望まないことをね」


....ハハッどうやら二人に隠し事はできないらしい。

勘弁してくれと思いながらも苦笑して自分がやろうとしていることを二人に話した。





「...いいか、これはお前たちには元々話すつもりではあったけど俺の合図があるまで、何があっても騒ぎを起こすな、そしてもしみんなが暴れそうになったら絶対に止めてくれ」


「....ぇ」

二人に説明しおえた後、誰かの声にもならないほどの小さい声が聞こえてきた。

そして、俺の袖を握っていたローレンスの手が小刻みに震えている。


「ぉ、お主は....お主は......お主は......」

理解しきれていない頭をしっかりと追いつかせるようにローレンスはその言葉を反芻する。

ユニーレも俺のやろうとしてることが理解できないのか、こちらを向いて呆然としていた


「...お主は....バカなのではないか!?」

先ほどとは異なり、俺のしようとしていることに反発するように大きな声で俺に言い寄ってくる。


「お主はバカなのか!?そんなことすれば無事では済まないかもしれぬのだぞ!!お主だけじゃない!ソフィア達もどうするのだ!?

お主の行動次第で、あやつらは壊れるのだぞ!!」


すると、ローレンスの声で正気に戻ったユニーレも瞳の中にやや非難の色を宿しながら淡々と伝えてくる。


「貴方、自分で何をやろうとしているのか分かってるの?それにそれを私達が許すとでも?」


「…これがあまりいい案じゃないことは分かってる」


今にも俺を止めそうな2人に申し訳なさとこんな事を頼んでしまう罪悪感を感じながらも、しっかりと話す。


「ただ、俺たちが下手に動けば掴める奴らも掴めなくなるかもしれない。それが最悪だ。万が一、逃したら次の被害が出てしまう。それはできるだけ避けたいんだ」


「だとしてもだ!!」

俺の声を遮るかのように今まで一番大きな声を出してローレンスが腕を掴んで……目には涙を溜めながら見てくる。


「だとしても……お主が、やる必要なんて、ないでは…ないか………我が代わりにやれば」


「それもダメだ、ここで一番安全で、怪しまれないのはここでは俺しかない。お前らだとそもそも出来ないことだ」


「…他に方法はないの?」

ユニーレは他の方法を探すように苦し紛れに言うが、これが一番な最善だと思い、首を横に振る。するとそう…と言い視線を落としながら何かをジッと抑えるように腕を抑えてる。


「アクセル?ほ、ほんとに他に方法はないのか?我を身代わりになってもいいぞ?お主が戸惑う必要なんてない、もし遠慮しているのなら「ローレンス」……え?」


「違う…ほんとに、これしかないんだ」

暴走しそうになっている彼女に告げる。


「…………また……………-我を独りに、する、のか?」


「アクセルがいたから我は生きれてこれたんだ。最近だと生きれて良かったとも思えてきてるんだ…だから今すごく幸せなのだ……また独りになる…いやぁ……いやだよぉ」


ポロポロと溜めていた涙が抑えきれず暴発

し、俺に縋ってくる。



「アクセルぅ……お願いだから…もう、無茶をしないでくれぇ…我を……我を………」


今の彼女の姿を見て、自分のしていることにさらに罪悪感を感じだが、それでも止まるわけにはいかず、彼女を説得する。



「ローレンス、俺は元々死ぬつもりなんかないぞ」


「………ほんと?」

グズグスッと鼻を啜りながら聞いてくる


「あぁ、それにさっき言っただろ?これが一番安全なんだ。確かに危ないかもしれないが、死ぬつもりで計画なんか立てないよ」


「……我を独りにしないって約束、してくれる?」


「……約束するさ」


「……………分かった」

だいぶ心にズキズキとダメージを負うが、なんとか説得に成功する。


「…一つお願い聞いてくれる?」

いつもよりも幼い、幼児退行とも言えるであろう状態のローレンスがそんなことを言ってきた。正直、凄く心に来たので今ならなんでも聞けると思い、話を聞く。






「…分かった、それぐらいなら」

聞いてみたが、特に計画には生じない事だったので了承することにした。

言っていた事はえげつなかったが……


「……私はまだ、許したつもりなんかないわよ」

ローレンスの説得を終えるとユニーレが顔を険しめて言う。俺は彼女にもなんとか納得させようとしたのだが、手で止められる。



「やめてちょうだい。そもそも私には契りを結んであるのだから、貴方の言うことに反対なんか出来ないわ」


「…悪いな、お前にも色々負担かけて…」


「私のことより……!」


ハッと正気に戻り顔を逸らしてる。何かを言いたそうな、でも必死に我慢しているような気配を出しながらもバツが悪そうにしていた。


「…ごめんなさい、なんでもないわ」


「いや問題ない。それに心配するな、ユニーレを置いてくつもりなんて微塵もないし死ぬつもりもない」


「……信じるわよ?」


「……あぁそうしてくれ」

そんなやり取りをして引き続き彼女達にはやって貰いたいことをやってもらうことにした。


「じゃあ、いくわよローレンス」


「うむ…アクセル」

少し落ち着いたローレンスが最後に言いたいことがあるのか、こちらを向いて宣言してきた。


「もし、約束を破れば我はお主の後を追うからな」

そう言って、何回も見た転移魔法を展開して彼女らは去っていった。



「……………最後に爆弾を残さないでくれ」


ローレンスの凄く重い発言に頭を抱えながらも俺はほんの少しだけ居眠りをすることにして一日を過ごしたのだった。




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