第36話 準備



ジークとの模擬戦を終え、身も心もすり減らしながら屋敷に戻る。

流石にめちゃクソに強い奴二人と戦って疲れないはずもなく、地面に寝転がっていた。

すこし休憩しよう、そう思っのも束の間

ある人物から、連絡が来た。


『アクセル、今少し良いか?』


姿こそないが、声だけが聞こえる。

風魔法による...「風通信」とでも呼ぼうか?

それをしてきた人物に俺は応える。


『あぁ、いまちょうど暇になった。一回戻ってきてくれるか?』

了解という言葉を聞いて、声が消える。

そして目の前に魔法陣のようなものが展開され、その中心に人が現れた。


「悪いなローレンス、色々頼み込んで」


「なに、お主の頼みとあらばこんなの朝飯前だ」


そこに現れたのは、時間が経っても見た目は変わらないが、かつて混沌の魔女と呼ばれてた少女、ローレンスだ。

彼女には数年前から少し頼み事をしており、おそらくその報告をしてきたのだろう。

ほんとはユニ―レに頼むつもりだったが、彼女は今ソフィアや俺を鍛えるのに少し忙しいと思ったので、やることがないローレンスに頼むことにしたのだ。


「それで、どうだった?色々見てきて欲しい人物とか調べて欲しいものとかあったと思うが....」


そう聞くと、ローレンスは空間魔法...俺はこれを収納ボックスと呼んでいるが、から資料のような紙束を出して俺に渡してきた。


「これは?」


「お主の知りたいことや今の現状を資料にまとめてたものだ。おそらくそれを見れば概ねのことは分かるだろう」


おいおい...こいつほんとに優秀すぎないか?頼んでもないのにここまでしてくれるなんて、前世でもこんな逸材、いるかどうか分からんぞ。優秀すぎる少女に驚きながらも、その資料を一通り見てみる。


「...なるほど、予想通りということか」


「あぁ、お主の言った通り、あそこは間違いなくだ。まさか今でもこのようなことをする輩がいるとはな」


そう、ローレンスに頼んだことは二つ。

一つは「ペレク家」の調査だ。

あの一家は徹底的に調べないと、対処しきれないことがあるかもしれない。

実際、俺がローレンス達をここから連れ出しただけでも歴史が少し変わってる。

それにペレク家については原作での知識だと悪いことをしただけと書いてあって、実際何をしていたかは具体的には分かってない。


だから調査を頼んだのだが....どうやら色々しているようだ。

この国では違法の奴隷の大量購入、薬物の違法販売

それになにか不自然な所もあり、おそらく金や権力を使い、もみ消したのだろう...

そんな悪行がざらざらとまとめてあった。


「それで、どうするのだ?もう消すか?我ならこの家を消すぐらい造作もないぞ」


ユニーレはそう言ってくる。確かに今ペレク家を消すのは俺にとって都合がいいだろ

う。だが、少し気になる点がある。


(...あのウィンドブルムを全滅まで追いやられるほどの奴を用意できたのか?ここの騎士はどいつもこいつも化け物揃いだ。おそらく騎士団の中でもトップクラス...並大抵の奴になら負けないはずだ。それに...魔法薬を自然に発動できたのもおかしい。しかも全員にだ、あのジークさえも...ということは)


ある仮説を立てながら俺はユニーレに言い出す。


「いや、まだ泳がしておこう」

そう答えるとは思わなかっただろう。少し驚いた顔をしていた。


「良いのか?お主にとっては今にも潰したい奴らでもあるだろう」


「あぁ、だが、今潰したら少し都合が悪いかもしれない」


「?どういうことだ?」

ローレンスは疑問に思って聞いてくるが、流石にこれを言うわけにはいかないので、

なんとかはぐらかしながら、彼女に今後の動きを言う。


「とにかく、ローレンスはこの件を引き続き調査をしてくれ。おそらく裏は出るはずだ」


「...分かった。それでもう一つの方はどうなのだ?お主には全く関係ないと思うのだが」


もう一つの件は必須というよりどちらかというと確認してきてほしいことだ。

それは...主要キャラについての調査だ。

先程も言ったが、俺が色々やったことで歴史が変わってるこもしれない。

そうすると、少し厄介になるのが、主要キャラがいなくなることだ。

一応俺や魔女組で魔王とかは倒せばいいのだが、できるだけこの件にはあまり関わりたくない。


そもそもの話、俺は悲劇にあう主要キャラはできるだけ助けるが関わりたいと言えばそうではない、というかあまり関わりたくない。そこら辺はアレス達でどうにかしてくれという願望で俺はそれを見守れればそれでいい。

まぁ何が言いたいかって俺個人としての理由でなにかが原因で死なれたりしたら困るのだ。


だからその生存確認も込めて調査を依頼したが、どうやら今のところ異常はないらしい。


「...お主、もしやまた女を引っ掛けたりしないだろうな?」


「いやどうしてそうなる?」


ローレンスに突拍子のないことを聞かれてすぐにツッコンでしまった。

確かに、どちらかというと女キャラは多いのだけど....それだけで調査を依頼しないわ


「お主、なにかと抜けておる所があるからの」


「いや確かにお前らは助けたりしたが、いつ俺が女を引っ掛けたんだよ?」


「の割には、周りには女が多い気がするがな」

な、なんでだろうか...本当にそんなことしてないはずなのに、この口論で勝てる気がしないのは....


「まぁそんなことは言いわい」

そんなことを言って、ローレンスは俺の隣に寝転んでくる。


「ローレンス?」


「我も流石に疲れたのだ...少しは休ませてくれ」


珍しく彼女から甘々な声をに出しながら甘えてきた。

彼女の性格上、こうやって誰かに甘えるのは基本的にはない。

初めに出会った時は結構波乱万丈に騒いでたイメージであったが、今では少し落ち着いてる。多分だけどこのときはあまり自分を見せたくないだろうな。もしかしたら離れるかもしれない、その考えがあったから...か

今では心配してないのか、素の自分を出している。


だからローレンスが素を見せながら甘えてくることに対して俺は驚いてた。


「まぁ、ゆっくりしていってくれ」

動揺をみせないために俺は顔を逸らしながら彼女の頭を撫でる。


「...えへへ、アクセルの手は暖かいのだ」


....なんか気が狂うな、でも悪くない気分だ。

娘を持つ親の気持ちとはこういうもんだろうか?守りたくなるような、なんというか....

なにかに目覚めそうになりながらも、ローレンスが満足するまでしばらくはこの時間を堪能していった。





さて、ローレンスが引き続きペレク家の調査のためここから出ていって俺も十分身体を休めたことだし、そろそろ動くことにしよう。

しっかりと回復した俺は、床から起き上がって身体を伸ばしながら、自分の部屋から出ていってある部屋に向かう。

部屋を出ると、ある人物が俺の部屋のそばまで来ていた事に気付いた。


「アクセル様、旦那様の所へ向かうのですか?」

きっと俺を呼びに行こうとしたのだろう、そう聞いてきたのは、アクセルの専属メイドのカリナだ。何故かとても久しぶりな気がする。


「うん、ちょうど父上に用があったからね。今向かう所だよ」

そう、今から向かうのは父上の部屋だ。

「左様でしたか、ではお供いしますね」


「うん、ありがとう」

今更だけど、歳はあまり変わらないはずなのにカリナって優秀だよな。

最年少で専属メイドに認定されるほどだもんな。

身の回りの世話はきちんとやってくれるし、仕事だって早い。

最近だとあまり見ないけど、中々凄いことしてるよね....


「アクセル様?どうされましたか?」


「うん?あぁ、家のメイドは優秀だなって思っただけだよ」

すると自分のことを言われたの思ったのか、彼女は笑顔を浮かべた。


「本当ですか!ありがとうございます!そう言われて嬉しいです!」


こういう所は年相応だろう。褒められてとても嬉しそうに喜んでいる。

こういう反応をされると気持ちが嬉しいものだ。


「これからも頑張ってね」


「はい!」

そんなこんなでカリナと会話していたら、いつの間にか部屋の前までついていた。

俺はノックしてからカリナと部屋に入る。

中を見ると、そこには父上と母上が中にいた。


「あれ?母上もいたのですか?」


「えぇ、今回は私にも関係ある話なの。というよりも私達全員にだけどね」


本当はソフィアも一緒に居たほうがよかったのだけどね、母がそう言っていたが....この時期で言うと、あのことについてか?

その予想が的中したのか、父は早速本題を言い出した。



「覚えてるかい?男爵会議についての話」


「えぇ.....てことは行くのですか?に」


タイミングがいいのか悪いのか....運命の日が迫ってきたのを再確認をして

心の中で緊張感が増したのを感じた。




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