第37話 来るべき時に向けて



「うん、そうだね。あの時からもう3年経ってるって考えるとなんだか感慨ぶかいよね」


あはは、と笑いながら父上は呟く。

ただ俺はあまり笑うことは出来なく少し愛想笑いをしてしまった。

もしかしたら少し表情が硬くなってるかもしれない

「アクセルとソフィアは確かラスティアに行くのはこれで、3回目だったかしら?」


「...えぇ」

正直アクセルになる前の記憶は曖昧なため、王都に行くのはこれで初めてだったりする。どうやら彼は三回行ったことがあるらしい。


「にしてもソフィアもそうだけど、アルマン以外まだ婚約者が見つかってないってどういうことだい。私なんて十歳の頃にもう決まってたよ」


それは二人と前のアクセルに言ってくださいとも言えず苦笑いをしてしまう。

てかソフィアはともかく、マリア姉さんは一体何やってるんだよ....


「....さて、男爵会議についてだけど家族が出るかは自由だけど今回はみんなには一緒に出てもらうことにしたよ」


「...ペレク家の件で、ですか」

おそらくそれが理由なのだろう。俺は確信込めて言う。


「その様子だと大体は知ってるみたいだね。あそこは僕たちと少し因縁じみた関係があってね」

因縁じみた関係?それについて父が真剣じみた顔に変えて説明しだす。


「実はね...リア―ヌは元々ペレク家に嫁ぐ予定だったんだ」


「...えっ?そうだったんですか!?」

なんかここに来てから原作では知られてない事実ばっか出てくる。

いやだとしても....まさか、レステンクール家にこんな秘密があったとは。


「懐かしいわね〜あの時のあなたったら...きゃっ」

隣では昔を思い出してるのか、母上は乙女ったらしい声を出して、頬に手を当てている。

なんか微妙な気持ちになったのは気のせいではないだろう。


「うん、ちゃんと認められた上で僕たちは婚約をしたんだけど....そこで因縁つけられちゃったのかな?なにかと言ってきてね」


なるほど、全てはここから始まったんだな。

婚約者を取られて、なにかと因縁つけ始めて今に至る...そんなことしてる暇があれば自分の家族を大切にしたらいいのに。


「だからもしかしたら、アクセル達に嫌な思いをさせるかもしれないから。そこはごめんね」


「いえ、元々僕も行くつもりでしたし、それにまた王都に行けると考えると胸が高まる思いです」

少しやるせない気持ちになっていたのか、父と母は俺の方を向いて眉を下げながら、俺の方を見ていた。


「なにかと苦労させちゃうねアクセルには。もしできることがあったら言って。できることはするから」


「はい、ありがとうございます」

そうして、男爵会議についての話やラスティアについて、あと婚約者についての話をして父上達と離れるのだった……あと今のところ結婚は考えていませんよ?





その後は特に何も起きずにそのまま自分の部屋で夜を過ごしていた。

寝ようとも考えたが、あまり寝付けず部屋の中にある本でも読んで気を紛らわせようとする。

今読んでいるのは前世でもありそうな御伽話だ。あるお姫様が連れ去られ、主人公が取り戻すというまさに王道的なストーリーだ。


本をしばらく読んでいると、ドアのノック音が聞こえた。


「お兄様?起きていますか?ソフィアです」


どうやら部屋の外にいる人物は俺の妹らしい。何かあったか?とそう考えましたが、とりあえずまずはドアを開けることにした。


「…どうしたんだ?ソフィア」

ドアを開けて目の前の人物を見ると、服は常に寝着で手には枕を抱えたまま俺の方を見ている姿が見えた。


「お兄様、今日ソフィアはとても頑張りました」


「?うん?」


「なので、ご褒美が欲しいです」


…あぁそういえばソフィアになにかしてあげるよとか言ってたな。正直、少し忘れていたが、おそらくほんとに頑張ったんだろうな。顔色が少し疲れてるようにも見えた。


そんな頑張った妹に何もやらない兄がいるはずもなく、俺はソフィアの頭に手を置いた。


「え?お、お兄様…?」


「その調子だとちゃんと頑張ったんだな。今日もお疲れ様」


頭を撫でられることに困惑をしていたが、その表情が緩むことになるのは時間の問題だった。


「…はい…今日も頑張りましたよソフィアは……えへへ」


今にも溶けそうな顔を見ながらそのまま外に放っておくわけにもいかず、頭を撫でながら部屋に入れさせる。


「さて、ソフィアさんは一体俺に何をして欲しいんだ?」


頭を撫でられて心地良さそうにしながらも、ソフィアはここに来た目的を、俺にして欲しいことを話した。


「……はい、お兄、様、と……一緒に、寝たい…です……んふっ」


途切れ途切れになりながらもなんとか見せたけど別に無理に言わなくてもいいんだけどな。うん、少しだけ色っぽく見えたのは秘密だ。


「そんなことでいいのか?なにか買って欲しいものとか、困ってることとかあったら聞くぞ?」


ただ俺にして欲しいことがとてもシンプルなことだったのでもしかしたら遠慮とかしてるんじゃないかと思い聞く。

ソフィアってなにかとブラコンなのだが、こういうことに関してはどこか遠慮気味な所がある気がするが……


「いえ、お兄様と一緒に寝たいのです………お兄様の匂いや体温に包まれて寝る……最高じゃないですか?」


一瞬だけソフィアの目が光を通さないような黒く濁った色になり、夜でもはっきりとわかるくらい頬が赤く染まり、高揚してるのが分かる。なるほどそうだ、うちの妹ってこんな子だったな。



「……だめ、でしょうか?」

ただやはりどこか思う所があるのか、表情が暗くなり、不安そうに聞いてくるが、そんなことでいいのならお安いご用だ。


「いや、ソフィアがそれでいいならいいんだ。ただ遠慮してるかもなって思ったんだ」


「そうなのですか?これでもソフィア、結構我が儘を言ってるつもりなのですが…」


「だったらこれぐらい、いつだって聞いてやるぞ。まぁ俺で良かったらだけどな」


「そんなこと言わないでください。お兄様がいいのです……でもとても嬉しいです」


そう言いながらソフィアはとても手際よく俺のベットの中に入る。それを遠目で見てみたのだが、入った瞬間、表情がもうこれでもかって思うぐらい幸せそうなのが目に見えて分かった。


「わぁ…!これが、お兄様の中なのですね……ベットに染み込んでくるお兄様の匂いがソフィアに迫ってきます……あぁ、ドキドキして眠れるか分からないですぅ……」


なんか、もう俺いらないんじゃないかな?

ベットに入っただけでこんな反応だったら俺が入ったらこの子どうなっちゃうんだ?


「…俺もそこで寝るけど、床で寝よ「ダメです」……うか?」


気を遣って言ったつもりなのだが、どうやらダメらしい。ソフィアの表情が無になってるのがその証拠だ。


「確かにお兄様のベットで寝るのもいいですが、お兄様がいなければそんなの意味ありません」


「あー…そういうもんなの?」


「はい、そういうものです。ではお兄様」


俺を招きいれるかのように布団をめくって、こちらを見てくる。

一応そこ、俺のベットだけどねと思い、少し苦笑しながらもソフィアの方に向かい、ベットの上で横になる。


「っ!」

すると隣で身体がビクンッと跳ねたのが伝わる。なんだと思い見てみると……茹でたこみたいに顔を真っ赤にしている妹さんの姿が見えた。



「こ、ここ、ここれがおおお、おに、お兄様のにににに匂い!?そ、そそそそれにたたたた体温も直で伝わります!?………そ、ソフィアの心が、お、抑えられる気がしません……」


……うん、どうやら暴走している様だ。

それにそんな反応されるとこっちまで恥ずかしくなってしまう。まぁこれもブラコン故ということにしておこう。

俺は今も悶えてる妹を抱き枕にして目を閉じようとする。



「お、おおおお兄様!?そ、そんな、今抱きしめられたら!?……ソフィアは……ソフィアは……!」


「ん?駄目だったか?それなら離すけど」


嫌な思いさせたかな?そう思い、ソフィアから離れると、あっ…ととても名残惜しそうにしていた。


「えっと…その………やっぱり、抱きしめて欲しい…です」


こういう所は初心なのかな?

恥ずかしそうにしながらも、抱きしめて欲しいとはっきりと分かるぐらい目を潤わせながらこちらを見ている。


うーん…女心って難しいな。

そんなことを思いながらも俺はソフィアをもう一度抱きしめる。身体は跳ねていたが、さっきみたいに取り乱したりはしないが身体は固まっているのが伝わる


流石にこれだと寝れないだろうなと思った俺は少しソフィアと話をする。


「もうすぐしたらラスティアに行く事になるな」


「は、はい…」


「ソフィアは楽しみ?」


「そ、そうですね…やはりお兄様と一緒なのが嬉しいです」


「そうか。それは嬉しいな。父上は早く婚約者探せってうるさかったけどね」


「そんな言葉気にしなくていいのです。ソフィアに婚約者なんていりません。お兄様さえいれば後はポイです」


「ソフィアは相変わらずだね…」


「…ふふっ」

少しは落ち着いてきたのか、まだ顔辺は少し赤いが、今はリラックスしてるように見える。


「……お兄様」


「うん?」

落ち着いてきたソフィアが俺に声をかける。


「…ペレク家について、お父様からお話を聞きました」


「…そうか」


「……正直、そのことなどどうでもいいのです。ペレク家だとかどうかなど……でも」


するソフィアが俺の服を強く握りしめてきた。まるでまたどこかに行きそうな物を絶対に離さないかのように。


「…お兄様がまた、無茶をするのではないかと……とても、不安です」


「…」


「ねぇお兄様?ソフィア、なんでもやりますよ?相手がどれだけ多かろうと、どれだけ強かろうと、ソフィアはお兄様のためならどんなことでもやってみせます、勝ってみせます……だから…………」




「……もう、あの時みたいに、置いて、行かないで、ください……」


さっきのとは違う、また別の雰囲気。少し似てる物を感じたことがあるとしたら、姉上だろうか。


目は闇のごとく深いものになり、きっと普通の人が見れば全身を身震いさせるだろう。またよく見ると身体から飛び出てる魔力や魔素が濃くなるのが分かった。掴んでいる服もまたシワが出来るんじゃないかと思うくくらい握ってくる。

それほど本気なのが伝わる。


「ソフィア……俺は……」


「お兄様…………はな…………れ、ない…………で………………」


吐息が聞こえてくる。きっと今日も疲れたのだろう。ソフィアは目を閉じてぐっすりと寝ている。


「…ソフィア、ごめんな……


誰も聞いていないだろう言葉を言い放ち、

俺もしばらくして目を閉じて眠りについた





「……」

王都ラスティアに行く日

俺は屋敷の窓から今日も平和の日々を送っているであろう街の光景を見ていた



"ついにこの時が来たんだ"


しばらくすると、ドアのノック音が聞こえ、誰かが部屋に入ってくる。


「アクセル様、旦那様方が外でお待ちしております。そろそろ準備をしなくては...」


後ろを振り返ると、いつもよりも緊張感を増しているであろうカリナの姿がある。そういえば彼女も一緒に行くんだったな


「あぁ、今行くよ」

俺は今もハンガーにかかってる服をしっかりと着て、カリナと共に外に出る。


この時の為に、準備した。

弱い自分にならない為に


この時の為に、考えた。

どうしたら助けられるのか


この時の為に強くなったんだ。






全ては………アクセルの大切な人たちの為に


さぁ、行こう。

運命を変える戦場に





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