第35話 実力者
二人と別れた後、今俺が向かってるのはレステンクール領...ではなく
その周辺にある草原だ。
この領地は基本的には魔物が出ない安全な場所だと言われており、
それが原因なのか、たまに人がいたりする。
まぁだからここは辺境でもほとんど名を聞かないし、人が少なかったりするのだが。
しかし、絶対に安全と言われれば実はそうではない。
魔物が出ないとはいったが、それは他の場所と比べてだ。
ここまで言えば何をやろうとしてのかを察するだろう。
「”グギャギャ!”」
そう俺は今、ある魔物5体の魔物と相みえている。
「ゴブリンか、何気にこの世界では初めて見るな」
その名はゴブリン
よくファンタジーにも出てくるスライムやドラゴンといった生物と並んで有名と言われてる魔物だ。
ここにいる魔物は迷い込んだり、繁殖期だったりと明確な理由は不明ではあるがこの草原に出現することがある
そのせいでたまにだが、民間人に被害が及ぼす事がある。
幸い今は俺とゴブリンしかこの場にはいないので特に被害が拡大することがないから安心だ。
「今まで戦ったり鍛錬してきたはずなのにゴブリンと戦うのが初めてって……順序間違ってないか?」
だが、そんな考えをしてる間に、5体のゴブリンは俺に襲い掛かろうと血眼になって武器を振るう。
「"グギャー!"」
「"ギャギャ!!"」
が、あまりにも雑すぎる動きだったのでその場から動かず、武器で受け流したり、半身で避けたりしてやり過ごす。
ゴブリン達は何度も何度も攻撃したが、それでも当たらずいつの間にか数分が経過していた。
「まぁ試したい事には適した相手だからいいけどな」
攻撃し続け、疲労困憊で今にも地面に伏せそうな奴らに俺は魔法とはまた別の力をお見舞いする
「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」
そう唱えた瞬間、ゴブリン達の動きが鈍り始める
「"ゲ、ゲギャ?"」
「"ゲギャギャ……"」
時間が経つに連れて身体の感覚はなくなり、細胞という細胞は壊死続け、最後にはその器官が役目を終えたように儚く散っていく。
「…まだまだか、制御も甘い。それにもう少しスムーズに発動することも出来たはずだ……魔法だけじゃなくてこっちもやらないと………」
そう呟きながら俺は、今も身体が散りになっていく5体の死骸を後にしながら今度こそレステンクール領に向かうのだった。
◇
3年たった今もここは平和だった。
繁華街ではいつも通りに商人たちが自分の商品を売るため、血気盛んに声を出して町中の人達の興味を湧き出させ、またここでは珍しいギルド所属の冒険者は今日も今日とて生き残るために、領の外に出ては薬草を取りに行ったり、馬車の護衛をしたりしている。そこらにいる子供も親に見守られながら今日も無邪気に目の前の物に夢中になりながら遊んでいる。
そんな平和な街の姿がここにはあった。
これをマエルこと父上が作り出した日常だとしたら何故か少し誇らしい気分になる。
と、そんな街の光景を見てみると....
パンッ!
...とてつもなく痛そうな音が街中に響いた。
その音の元凶を見てみると.....どうやらいつもの問題騎士がやらかしたらしい
それに呆れながら彼の場所に向かう。
「....君も相変わらずだね、モルク」
「いやぁ....爽快にやられましたわ」
そこに居たのはこの街でもある意味有名とされてる(らしい)モルクだ
「そのナンパ癖、ほんとに治らないんだね」
「甘いっすよアクセル様....俺は、この程度でやわになる男っじゃないっす!」
「その割にはさっき結構へこんでたよね?」
「それとこれとは別っすよ...」
別なのか?こいつ、もしユニーレとかと出会ったら消し炭にされそうだな。
まぁそんな馬鹿がこの世界にいるわけないか...いないよね?
「ところでアクセル様はまた団長の元へ?」
なぜかユニ―レがナンパされてる姿を想像していたら、モルクに呆れたように聞かれる。
「そうだよ、魔法もいいけど刀の腕も鈍られたらいけないからね。
それに彼女から誘われたっていうのもあるかな」
「よくもまあ、あの人と戦えるっすね。俺なら数秒も持たずに死んでいるっすよ」
「流石に言い過ぎじゃないか?」
「いやいやアクセル様....普通の訓練だけでどれほど死に直面したか...」
「それは君の日頃の行いじゃないのかいモルク....」
どうやら日頃このナンパは絶えないらしい....その根性だけは称賛しつつ、俺はジークの所に向かう。
「じゃあ、そろそろ行くよ。あっ君がまたナンパしてたことも報告するから
安心してね〜」
「えっ?えっ!?ちょ、ちょっとアクセル様!?そりゃないっすよ!?
それ報告されたら今回はマジでやばいんですよ〜!!」
問題児の悲嘆な声を聞きながら、彼女の待ってる駐屯地に赴いた。
◇
駐屯地についた俺はいつも通りの騎士たちのその見事な動きに感嘆に思っていると
その騎士たちの団長を務めるジークの姿が見えたのでそこに向かった。
「ジーク団長、遅くなりました」
すると俺の声に気づいたのか、彼女は俺の方をやっと来たかと言わんばかりに見ながら
「アクセル様、遅いですよ」
と言ってきた。
「すみません、モルクに少し絡まれまして...」
「...またあいつですか?今度はただでは済まさないと言ったのに....」
モルクに罪を擦り付けたことに少し申し訳なさを感じるが、ジークの様子を見てそれは吹き飛んだ。
あいつどれだけやらかしてんだよ...
「....はぁ、今度こそその性根を叩き込まなければ」
「あ、あはは...程々にしてくださいね?」
どうやら相当頭にキテるらしい。そんな彼女のことをすこし可哀想に思いながら、
準備をすべく俺は彼女と少し離れる。
「団長、少しだけ素振りしても宜しいですか?流石にいきなりは厳しいので」
モルクに対して怒り心頭気味ではあるが、どうぞと許可をもらえたので
俺は模擬専用の木刀を手にとって素振りする。
居合、袈裟斬り、一文字...刀を一通り振った所で準備ができたとジークに声を掛ける。
「団長、準備できました!いつでもいけます!」
すると、彼女は普段は絶対にしない好戦的な表情をし、自分の獲物を俺に突き刺すように向けてきた。
「....珍しいですね。双剣ですか?」
俺の記憶によると、ジークは片手剣だったはずだが、ここでも少し歴史改変が起こったのか?
「えぇ、というより元々これが私の得意武器ですよ。ご存知なかったのですか?」
どうやら記憶違いらしいな。そう言いながら、彼女はその舞と呼んでも過言ではない剣技を振るう。それはきっと精霊と呼ぶ人が多いだろう、まさに二つの剣が彼女の身体の一部にでも浸透してるような姿を見て、少し見惚れてしまった。
「...さてアクセル様、これは確かに模擬戦ですが、本気の勝負でもあります。
ここで手を抜くと....怪我をしますのでご注意を?」
◇
その瞬間、地面が揺れ、アクセルが気付いたときには彼女は目の前にいた。
すぐに二つの刃から守るべく、なんとか刀で防御し、直撃を免れる。
彼女がさっきまでいた場所は元々そこにクレーターが出来ていたようにめり込んでいた。
「相変わらず、普段とは思えないスピードとパワーですね!
遠征に行ったときはここまでではなかったでしょう!?」
「そうですねっ.....力を少し隠してたものありましたが、私自身、あなたに影響されたようですっ!」
ガンッ!
二人の木刀がお互い相手の武器を弾き返しそのまま後ろに下がる。
「おかげで三年前よりも遥かに強くなったと自負してます」
再度ジークはアクセルに連撃と言わんばかりにその剣を振り回し、襲いに来る。
だがアクセルも負けず劣らずそれを一本の剣で捌き返す。
そして隙をついた所をカウンターの如く一閃入れるがそれも難なく防がれる。
その攻防がしばらく続いてた頃、周りにいた騎士はその戦闘に圧倒されてた。
前にレイスとアクセルが戦ったときにはここまでの気迫は感じられなかった。
三年前に入ってきたなんの特徴もなかった領主の息子と世界有数の実力者にも認められた辺境の騎士の団長の実力が拮抗している。
ここまででも凄いはずだが、今の二人はまさにただならぬ気配を纏い、長年一緒にいたのに見たこともなかったもう一つの素顔を出しながら相まみえてる。
その光景を見て恐ろしさと同時に一種の感動も植え付けられていたのだ。
そんな騎士のことなどいざ知らずアクセルは一度距離を取り間合いを確保する。
しかしそれを許すはずもなく、ジークは最短でアクセルに近づき、自分の愛剣を彼の首に容赦なく当てようとしてくる。
それが彼の狙い通りだと知らずに。
「居合――
すると彼女の剣はアクセルの身体を通過し、その瞬間、霧のようにアクセルは消えていった。
「ッ!」
すぐに自分の周りを確認したが、アクセルの姿はない。どういうことだ?ジークがそう考えてた瞬間。
「くッッ!!」
(何をされた!?首に…痛みが……!?)
突如、自分の首に痛みが走り、吹き飛ばされる。何が起きたか一瞬わからなかったが、アクセルが目の前に現れてたことで彼女は何をされたか理解する。
「……なるほど……カウンター型の居合…ですか」
首に痛みは走るが、何事もなかったかのように立ち上がり首をポキポキと鳴らしながら再び構える。
「えぇ、少しある技を応用してみましたが…上手くいきましたね」
アクセルが言ってるある技とは陰縫い
この技は相手の影と自分の影が合わさった瞬間、影が襲ってくるように迫ってくる居合だ。
アクセルはこれと、闇の性質と霧の性質の魔法を利用し、その結果見事カウンター型の居合が完成したのだ。
陽炎
相手が自分に与えたダメージ、箇所を数倍に返す陰縫いの上位技。
そしてこの技、自分のタイミングでいつでも打てるのである意味ストックができるカウンター技だ。
「面白い技ですね。少し驚きました……ですが、私も負けていられません!」
すると彼女が持ってる二本の刀が様子が変化する。
一つは今にも切り裂けられそうな風を纏い、もう一つは近づいたらその数十万ボルトの餌食になってしまうだろう雷を纏っている。
「…
アクセルは警戒を高める。今から始まるのは彼女の猛攻だ。そう意気込んだ直後———
「ぐぅぅぅっ!?」
先ほどよりも段違いのスピードとパワーで彼女はアクセルに向けて剣を振るいまくる。それを受けたアクセルは今までにない苦しそうな表情をして受け止める。今にも焼き切れそうだし、斬られそうだ…それを魔法付与した剣を受けてアクセルは感じてしまう。
だが彼女は止まらない。
さっきとはまるで別人ように、攻めて攻めて攻めまくる。その無尽蔵な体力と魔法で強化した身体と剣はアクセルの体力を削るのに十分だった。
(くそっやっぱりジークの魔法付与された剣は洗練されてる……それに身体強化もここまで……これが世界でも指折りの実力者の『領地』……!)
だが、アクセルは負けるつもりはない。
負けず嫌いと無意識の戦闘本能を剥き出しにし、彼女と戦い合う。
「……楽しいですね、アクセル様?」
「……えぇ、おかしくなるくらいに」
——お互い笑い合いながら、アクセルとジークは数時間の間、剣を振い続けたのだった。
◇
今日もジークとの模擬戦をやりきった俺は地面に大の字に倒れ、ジークも疲れているのか静かに座り込んでいた。
だが、彼女の顔はとても清々しくそれは今までにない彼女の美しさを表していた。
「今日も…ありがとう…ございました、団長」
「いぇ…私の方こそ、ありがとうございました」
お互い動けないが、目を合わせながら会話をして笑い続ける。
……だが、今回は少しやる事があるので俺は疲れてる身体に鼓舞をしつつ、ゆっくりと起き上がる。
「アクセル様、今日はとてもお忙しいのですね」
「えぇ、少しやらなければならないことがありまして……それを今からやる所です」
「そうですか…もう少しアクセル様と鍛錬したかったのですが、残念です」
「あはは…僕の前に、今も唖然としている皆をどうにかした方がいいんじゃないかな?」
残念そうな顔をしてるジークが少し不思議に思い周りを見てみると…そこには唖然とし、目をキラキラとさせた騎士達の姿があった。
流石に恥ずかしかったのだろう。彼女は少し頬を赤く染めながら、今も自分達の方を見ている部下に怒鳴り出す。
「なにをぼさっとしておるのだ!さっさと訓練を始めろ!!お前達はそれでも誇りあるウィンドブルムか!!」
『は、はい!!!』
こいつら少し興奮してないか?そう思ったが、まぁ気にすることでもないので俺はそろそろ移動することにする。
「じゃあジーク団長、僕はこれで失礼します」
「はい…アクセル様、またお相手の方、お願いします」
「もちろんですよ、また楽しみにしています」
そんな言葉を交わしながら、俺は自分の屋敷に向かっていった。
【小説家になろうやアルファポリスにも投稿しています。
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