第33話 悲劇の悪役達は進み続ける


俺が出ていった後、父上とナーシャは十分に話し合ったのか、しばらくしてここから去っていった。その後は食事をしたり風呂に入ったりして特になにごともなくそれぞれ過ごしていた。


ただ父上が俺とソフィアを呼んでいたので俺たちはやることを済ませた後、父上の部屋に向かっていた。


「父上、アクセルとソフィアです。失礼しますよ」


俺が呼びかけると父上の声が聞こえたので俺たちは部屋に入った。


「やあ、こんな夜遅くにごめんね。本当はもっと余裕をもって伝えることだったんだけどね」


「いいえ、お忙しいのは理解しておりますから大丈夫です」

席に座り他愛のない話をしながら本題と言わんばかりに父上が話始めた。


「そろそろ二人にも学園について話そうと思っててね」


「学園、ですか?」

ソフィアが疑問を浮かべるように答える。

それもそのはず、学園は15歳から入園することができる。確かにソフィアも10歳だが、まだ5年もある。この話なら俺だけでも言いはずだ。

それなのになぜソフィアも呼ばれたのか?

そんな中、父上が話し始めた。



「二人同時に学園に入学させようと考えてるんだよ」


「はっ?」 「えっ?」

同時に出た、しかも俺の場合、少し素が出てしまった。だが無理ないだろう。

年の離れた妹と一緒に入学すると言われて冷静になれると思うか?


「ち、父上?そのなにか理由があるのですか?」

父上の発言に戸惑いを覚えた俺が父上に聞く。


「いやぁ....アクセルがいなくなった二年間こっちもこっちで大変でね。特にソフィアとマリアを止めたり慰めたりとか....ね?」


「父上、確かに俺が悪いのもありますがソフィアも立派な子に近づいております。その成長を僕ごときが止めていい...はず....」


ソフィアの方を見てみると.....そこにはパァっと眩しい笑顔を浮かべ、目を輝かせている姿がある。どうやらソフィア的にはいいらしい....今更だが、どんだけアクセルのこと好きなんだよこの子。


「お父様.....とても...とても良い提案だと思います!何かできることがあればおっしゃってください、なんでもさせていただきます!」


本当ならここでなんでもはよくないと思うよと言いたいんだが、そんな余裕はなかった。

ソフィアは学園での生活を想像してるのか、とても幸せそうな顔になりながらぼーっとしている


「父上、大丈夫なんですか?一応僕は魔導書の中にいたとはいえ世間的には12歳です。年齢詐欺はこの国では決して軽くはない罪。バレたら大変なことになるのでは....」


そう 禁句の魔導書の中にいたことで俺はタイムスリップ的なことをしてる。

本当は肉体年齢、精神年齢は10歳だが世間的に見れば12歳だ。

年齢詐欺はあまり例はないが、なくはない。

それで大きな事件にも発展したという話も聞く。

だからこういう事をするのはまずいのではと心配で聞いてみたのだが、父上は雰囲気を変えずあっけらかんに答える。


「あぁ大丈夫。ナーシャ様に快く許可を頂いたから」

....なぜだろうか、平気でやばいこと言ってるはずなのに頭痛がするのかそこまで考える気力にはならなかった。誰かと話して頭痛が出るのはこれで二回目だ。


(頼むよアクセル..アクセルがいなくなったらまたソフィアが暴走しそうなんだ)


(ぼ、暴走って...そこまで酷かったんですか?)


(...泣きながらお兄様に捨てられたと叫んで部屋に籠もったり、魔法を暴発させたり

森の中で数日間行方不明になったり)


「ごめんなさい父上、僕が悪かったです」


俺はすぐに謝った。

その悲惨さに驚愕、申し訳無さ、なんとも言えない気持ちが色々と混ざりあったが、一つ言えるのは父上や母上には頭を上げられないということだ。


ま、まさかここで二次被害があろうとは....しかも姉上も相当酷かったらしいと考えたら....うん、反対なんて口が裂けても言えない



「お兄様!」


俺がなんとも言えない気持ちとは対照的にソフィアは嬉しそうにその明るい笑顔で


「学園生活、楽しみですね!!」


と言ってきた。

俺はその姿を見て苦笑いをしながら


「そ、そうだな…うん…兄ちゃんも楽しみだよ」

これから先起こるであろうトラブルを想像しながら答えたのだった。






「……」

あの後、父上との対談を終えて俺たちはそれぞれ自分の部屋に戻っていた。


部屋に戻ってすぐに寝ようと考えていたが中々眠ることが出来ずにいたので今は外の空気を浴びるために屋敷の外に出ていた。


空を見上げると、夜の帳が広がり、雲ひとつない夜空が煌めいていた。そして太陽の余燼が消えた後、月が優雅に空に舞い上がっていた。その美しさは黒い帳とも言える暗い夜に一つの希望の光とも言えるかのように小さく輝いており、それは夜という一つの背景と言っていいだろう。



そんな夜空を見ていると、後ろから足音が聞こえてきて、その足音の本人が声をかけてきた


「アクセル お主もいたのか?」


「…ローレンスか」

そこにいたのはかつて渾沌の魔女と呼ばれ人々を恐怖に陥れたであろう存在

ローレンスだった。


「隣良いか?」


「あぁ」

今では普通の少女のような魔女ローレンスが隣に座ってきた。夜の闇に包まれた中、漆黒の帳のような暗闇に、月と星々が静かに輝きを放っている。その光が、まるで舞台のスポットライトのように、ローレンスの姿を照らし出していた。その光が彼女の容姿や雰囲気に絶妙に溶け込み、彼女をさらに魅力的に際立たせる。それはまさに夜の女王のように、今の彼女はその美しさで周囲を圧倒し、誰もがその存在に目を奪われてしまうと思わせる程だ。


「ん?なんだ?我の顔に何かついておるか?」

きっと彼女の顔を見すぎたのだろう。ローレンスがむず痒いよう顔をして聞いてくる



「いや、今のお前すごい綺麗だなと思ってな」


「…お、お主 前から思ってたのだが平気で凄いこと言うのだな」


そんなことを言われるとは思わなかったのか

頬を染めながら俺のことをジト目で見ながら言ってくる。



「別に事実だろ。隠す必要はないからな」


「そ、そうか…そうか……」

観念したのか、先ほどより顔を真っ赤に染めながら俺から視線を外し、下を見て俯いてる。


「それでどうしたんだ?」

とりあえずなにか聞いた方がいいなと思った俺はローレンスに聞いてみる。


「あ、あぁ実は少し眠れなくてな…外の空気を浴びにきた所なのだ」


「そうか 俺もそんなところだよ」


「アクセルもなのか?珍しいことがあるのだな」


「別にそうでもないだろう。たまにこうやって夜の風に当たりたいって思って外に出てたしな」


ローレンスと落ち着いて話すのは禁句の魔導書に居た時以来な気がする。


ユニーレと戦ったり、盗賊からナーシャを助けたり、領でごたごた過ごしていたりと暇がない日々を過ごしていた。


…こうしていると、転生してから色々な事があったなと思い始める。と言ってもまだそれほど時間が経ってないはずなのにな。


「アクセル?どうしたのだ?」


「ん?いやなに、まだ時間が経ってないはずなのに色々あったなって思ってな。昔のことを思い出してたんだよ」


「…そうか」

俺がそういうとローレンスが少し表情が曇る。ん?なんか変なこと言ったか?


「…アクセルよ。一つ聞いてもいいか?」

すると少し真剣な表情をして俺に聞いてきた。


「ん?」


「…お主は……一度、全てを奪われたはずだ……なのにどうしてそこまで我らの為に奮闘出来るのだ?自分のためではなく、誰かのために」


…あぁなるほど。さっきローレンスが曇った表情をしたのは俺の過去のことについて考えていたからなのか。



「どうしてって言われてもなぁ…」


「…我だったら他人の為ではなく自分の為に生きようとするだろう。事実そうしてきたからな、だがお主は違う 一体なにがお主をそこまで強くさせるのだ?」


彼女は本気で知りたいのだろう。今でも真剣な表情をしているのがそれを証明している。



俺はアクセルというキャラが好きだ。

最初は仲間が居たという認識からいつの間にかアクセルのファンにまでなっていた。


こいつを救いたい。だから俺はアクセルの周りにいる者を助ける覚悟ができた。

だがローレンスやユニーレのような部外者がいる。じゃあどうして彼女らを助けるのか?



……何度考えたってそんなの決まっている。






「……えっ?それだけ、なのか?」

そんな単純な答えだと思わなかったのだろう。ローレンスは俺の言ったことにあっけらかんとしていた。


「それ以外なにがあるんだよ?」


「だ、だか!そんな単純な理由では説明出来んことが……」


「単純でいいんだよ。理由なんて」

俺がそう言うと彼女は口籠り、そして俺を見続ける。何故そんな理由でそこまで出来るんだと伝えてかのように。


「確かにお前には少し分からない事があるかもな。だが、俺はただ救けたい。悲劇的な運命にある奴らを幸せな未来に導いていきたい。そんな、至極単純で、でもだからこそ頑張れる物があるからこそ俺は進むんだ」


「…それがたとえ、お主が破滅的な未来に進もうとしてもか?」


「あぁ、そのためなら俺はなんだってする。他の奴らなんて普通に見捨てるし、卑怯な手だって何度も使ってやる…自分が犠牲になってお前らが救われるのなら……いつだって俺は自分の身を差し出すつもりだ」


そう、変わらない。

救けたい、守りたい、幸せな未来に導いてやりたい。たったそれだけなんだ。

だが、それが俺をここまで強くさせるんだし、覚悟を持たせてくれる。


他の奴らから見れば異常だと見られたしてもそれが俺なんだ。


だから俺はこれからも

自分の道を進み続けるんだ



「…駄目だ」

すると、ローレンスが俺の服の裾を掴みながら呟く。


「…そんなの駄目だ。お主だけが救われないなんて…そんなのあってはならん!」


「だが、これが俺だぞ?自分の事となると妙にどうでもよくなるんだよな」


「なら我が導く!」

ローレンスが俺の目を見ながら自分の目標を宣言すると言わんばかりに叫んだ。


「我がお主を導く!いや我だけじゃない!お主に救われた者たちと共にアクセルに幸せな運命を歩かせてみせる!!我らが幸せになる道をアクセルが導くなら我らはアクセルに幸せな道を歩かせる!……だから」



「そんな自分を犠牲にするなどと…そんなことは言わないでくれ」


それは懇願だった。だが、それは自分のためではなく俺のため。

それが分かった瞬間、胸に込み上げてくるものを感じた。


あぁ…アクセルお前は愛されてるんだなと

お前の力があれば悲劇の運命になるはずの奴らを幸せに出来るんだぞと

それを本人に言いたくなった。


「…あーその、なんだ。別に俺は自分のことはちゃんと考えてるつもりだからそこまでしなくてもいいぞ?」


涙が出そうなのか、それとも恥ずかしい顔を見られたくないのか俺はそんなことを言って屋敷に帰る。


「お、お主!少しは真面目に考えい!!我は真剣なのだぞ!?」


「はいはい、分かった分かった。ありがとうなローレンス」


「なっ!?なんだその態度は!お主が変なことを言うから我は………」


なんの変哲もないただの会話をしながら

俺たちは屋敷に戻った。



ペレク家のこと、学園のこと…様々な事を考えなければならないがそれでも俺は未来を変えるためにこれからも進み続けるだろう。



なぜなら俺は悲劇の悪役 アクセル・アンドレ・レステンクールなのだから




少年編 完





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