第32話 「明確な敵」



「……人違いではありませんか?」

私の騎士ナイト様という

おかしな事を言っている侯爵様の娘さんに俺は動揺を顔に出さないように至極冷静に答えた。


「いいえ騎士様、貴方のご活躍しかと拝見させていただきました」


だが確信しているのか、ナーシャは即時に俺の言ってることに反論した。

な、何故だ?あの時の俺はちゃんと認識阻害魔法をかけたのにどうしてそこまで確信できるんだ?


「まぁまぁ二人とも続きは私の部屋でじっくりとお話しましょう」


「ナーシャ様…ひとまずここではなくお部屋に移動した方がよろしいかと」


そう言ってきたのはアクセルの父マエルと

ナーシャの護衛であろう騎士である。


「そうですね では騎士様まいりましょうか?」


笑顔で俺にそう言いながら彼女は父上の部屋に移動する。

俺も頭が混乱していたので少し冷静になるため父上の部屋に移動した。





「…それで僕が貴方様を助けたという根拠はなんなのですか?」


ひとまず部屋に移動して少し落ち着いた俺はナーシャに聞く。あの時の魔法は未熟ながらもこの世界の人間なら認識出来ないはず。

なら一体どうやって…


「私の護衛に貴方達の偵察を頼みました」


「偵察?」

つまりジークと一緒に行ったあの時か?

その割には気配なんて微塵も感じなかったが


「少し特殊な方でして、そう簡単にはバレないと思います」


「最近ここら一帯では野蛮な者どもの被害が多くあるとマエル様からお伺いしました。

もし私達を救ってくれた者ならこれを放っておくはずがありません。それに私の記憶ですと、助けてくれたのは私と同じくらいの子供……それら全てが一致したのが騎士様です」


「なるほど…」


つまり特徴が全部一致したのが俺ってことか。それに分かったことだが、認識阻害といっても子供や大人などは分かるらしい。

そこは少し盲点だったな


…まぁ別にどうしてもバレたくないって訳じゃないから正直いいんだけど。



俺が黙ってることで言ってる事を否定しないと思い込んだのか

ナーシャはやっぱりと言い俺の方をまじまじと見てくる。周りの護衛も驚いていたのかこんな子供が…と呟いていた。



「…あの そんなまじまじと見られても困るのですが…」

「ハッ!す、すみません!?つい……」


すると彼女は顔を染めながら俯かせてる。ときどきチラっと顔を見てきたりしてくるし、お互い黙ってるせいか少し気まずい空気だ。


「ナーシャ様 まずは自己紹介をした方がいいかと。相手の方が少し困惑しています」


護衛の1人が指摘するとナーシャはハッとした様子で顔を上げ、姿勢を整える。


「誇りある侯爵の名をいただいております、

カロナイラ家の長女 ナーシャ・カロナイラです。以後お見知り置きを 騎士様」


その佇まいは流石は侯爵家と言わざるおえなかった。俺も彼女の敬意を無駄にしないようにしっかり自己紹介をした。


「辺境の地を治るレステンクール家の次男

アクセル・アンドレ・レステンクールです

こちらこそお願いします ナーシャ様」






「それでナーシャ様方がこの辺境の地に一体どのようなご用件で来たのでしょうか?」


ここに来るのは知っていたが、どんな用で来たのかは覚えてたかった俺は早速ナーシャに聞いてみた。


「その前に騎士様に一つ言いたい事があります」


そう言うとナーシャとその御一行の騎士3人が頭を下げてくる。そんな光景に呆気に取られてる間もナーシャは言葉を続ける。


「この度は危険な所を颯爽と助けていただき誠にありがとうございます。このご恩は決して忘れません」


そんな事を言ってくる。俺はハッと正気に戻り慌ててナーシャ達に頭を上げるように声を出す。


「あ、頭を上げてください!当たり前のことをしただけなんですから!」


「うーん ここで色々と恩を売っておくとこの先楽なんだけどねぇ」


おいっ少し黙ってろバカ親父

父上に余計なことを言うなと言わんばかりに目で釘を刺しているとナーシャが顔を上げて微笑んでいる。


「騎士様はお優しいんですね?」


「い、いえ。先ほども言いましたが当たり前なことをやったまでです。そこまで負い目を感じなくても大丈夫ですよ」


「…分かりました。では騎士様がお困りになった時はカロナイラ家総出でお助けいたします」


「ありがとうございます……あと、その騎士様も出来ればやめていただけると…」


「では私のことをナーシャとお呼びください」


「い、いや流石にそれは…」


「でなければ仕方ありません。ご要望は却下させていただきます」 


こ、こいつ…恩人の頼みを簡単に却下しやがった……まぁ俺が何もしなくていいって言ったのが悪いがな。


「…はぁ、公の場では勘弁してくださいよナーシャ」


「はい、それで構いませんアクセル様」


こうして色々ないざこざはあったものの、ようやく本題に移り変わる。


「本日、ここに赴いたのはの開催についてのお知らせをマエル様にご報告するためです」


「あぁ…もうそんな時期なの?時間が経つのは早いねぇ」


男爵会議?……そうか そういえばあったなそんなものが。


男爵会議

この国の問題や課題、今後の方針について話し合うため年に一度王都ラスティアで開かれる男爵だけの会議のこと。


男爵の他にも子爵、伯爵、侯爵、公爵の会議もある。だから正式には貴族会議と呼ばれている。

年に一度とは言ったもののいつやるかどの位の貴族がやるかはまだ決まっていないが、今回は男爵が選ばれたらしい。

また不正を行わないために国王が信頼できる公爵または侯爵の監視の元で会議は行われる。


「はい、開催するのは3年後のこの時期に。

招待はカロナイラ家直々に赴きますのでご安心を」


「ははっカロナイラ家がお迎えに来るのなら安心できるね」


…3年後か、このレステンクール家が崩壊してしまうあの悲劇の事件の時期。

………そうか、ならもいるんだな?



「…マエル様、今回の会議は少し注意をした方がよろしいかと」


ナーシャが少し顔を引き締めて父上に警告する。意味が分かったのか父上は少し苦虫を噛み締めたような、そしてまるで会いたくない人物にこれから会うような顔をして言う。



「……もしかしてだけど…あそこも参加するの?」


「……えぇ…私も驚きましたが、どうやら来るようです……の者が」



………



……あぁ、その名前を聞くだけで吐き気が出そうだ。

俺は今にも暴走しそうな虚無力を必死に抑え顔に出さないようにする。



ペレク家


ここレステンクール領の少し離れた所にある領地「ペレク領」を治めている男爵家。


先ほど言った男爵会議を無断で欠席したり他の貴族に近寄ってきてはネチネチと嫌味を言ったり横領などの悪い噂があったりと少し問題になっている貴族だ。




………そして、でもある


こいつらがいたせいで、毎日幸せな生活を送っていたレステンクール家は崩壊した。


貴族の嫉妬、盗賊の襲撃、住民の認識操作………これら全てこのペレク家がここを崩壊させるために行った所業だ。


…俺は確かに悪役だ。だから原作では悪役と呼ばれている奴らももしかしたら助かるかもしれない。



だが、こいつら別だ。

俺が初めて明確に敵と認めた存在だ。

前世の俺が好きだったアクセルをここまで追い詰めた本当の犯人……そんな奴らのことを考えれば考えるほど自分を抑えきれなくなる自分がいる。



「アクセル?」


忌々しいペレク家について考えてると父上やナーシャ達が俺のことを見てることに気づく。


どうやら怒りを抑えきれなかったらしい。


「…すみません父上。少し席を外してもいいですか?」


「気分が悪いのかい?」

心配そうにして言うが俺は、心配させないように笑顔で大丈夫ですと言うと、父上は休んできなさいと言って俺をここから出させてくれた。


「アクセル様…その、気づくことが出来なくてすみません」


ナーシャはそんなことを言うが、彼女は何も悪くない。むしろいい情報を教えてもらった。


「いえ、大丈夫ですよ。むしろ良い情報を聞かせていただきました。ありがとうございます」


「…また、お会いできますか?」

不安そうな顔でそんなことを言うが、おそらく会うだろうな。そう思い俺は当たり前のように彼女に答えた。


「えぇ、おそらくまた会うでしょう。少なくとも3年後には必ず」


「…そうですか では楽しみにしてお待ちしております。アクセス様」


そう言うと今度こそ俺とナーシャは別れた。



……どうやら俺は相当奴らの事が嫌いらしい。それを今日の話を聞いて理解することが出来た。3年後あいつらがどんな事をするのかは分からない。もしかしたら予想外な事をするのかもしれない。それをナーシャの件で知った。そもそもナーシャは原作ならここにはいないはずの人物。

登場するのはまだ先のことだ。それが今ここにいるということは…俺の知らない物語が動き始めてるということだ。



そろそろ潮時かもしれないな

そう思い俺は3年後に向けての準備をする決意を固めたのだった。



全てはあの幸せな日常を守るたメニ



【小説家になろうやアルファポリスにも投稿しています。

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