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 エイキは前動作もなく、瞬時にサイカの足を下から持てるだけの力で押し上げると、鈍い音と共に頭は足から抜けた。鈍い音は、エイキの頭蓋骨が軋んだのと、サイカの脛が砕けた音だった。


 サイカは膝でしか着地ができず、瞬時に動いたシンエイに捕まるも、一瞬遅れたシンエイの腕の肉を噛みちぎったが、すぐに首に腕が回され締められる。

 折れてぶら下がっている腕では抗いようもなく、体を無理矢理に捻るにも、全身の骨が軋み、どこかが折れる嫌な音が響く。


 その光景の一部始終を見ていたエイキは、特S部隊での〈血涙童子〉と〈彼岸葬花〉の二人の噂と評価が全くの逆だった事に気付かされた。


 サイカは締められている間も声にならない声で高笑いをしているようで、目には何も映さず、口は始終笑っていた。


 十秒程で大人しくなるかと思っていたが、三十秒も暴れ、やっと気絶した。 サイカをベッドに寝かせると、シンエイは血が吹き出す腕を押さえて、一番無傷に思えたエイキに、急いで当直の校医を呼んでくるように促した。


 エイキが部屋を出る直前に、起床のチャイムがなり、電気が付いた。消灯から三時間経ったようで、今から一時間の内に身なりを整え、掃除をして校庭に並ばなければいけないが、なりふり構ってはいられない。


 エイキは廊下に出ると、窓を開けて三十二階から飛び降りた。数階分落下し、垂直の壁に裸足の指で突っ張り、窓のヘリに捕まる。それを数階繰り返して最短で校舎の治療室に向かう。二分掛からずに治療室にたどり着くと、当直の校医に説明し、校医を背負った。


 校医は普通の人間であり、急いで向かったとしても大きな鞄を持っている為、早くても二十分はかかる。寮にエレベーターはなく、階段しかないこともある。


 エイキは寮の階段下までくると、活動し始めた生徒に気付き外へ向かった。騒がれるのは本意ではない。


「どこへ行くの。 そっちは外よ 」


 校医は小さなエイキの背中に背負われながら慌てている。


「騒がれたら後々面倒だからね、先生ちゃんと捕まっててよ」


 目の前には寮の高い壁がそびえ立っている。九坂学校のベテラン校医でも、さすがにこの状況は経験がなかった。


「待ちなさい。 これで、わたしと君を縛って」


 校医は鞄から包帯を取り出してエイキに渡した。エイキは面倒そうな表情を浮かべたが、実技で使う縄と同じ手順で自分と校医を縛り、壁を登り始めた。

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